24-(1) 突破口
治癒能力のコンシェル達が、寝台に仰向けになっている睦月の全身を優しい光で包む。
地下司令室。四ツ谷自工の工場から逃げ帰ってきた睦月達は、すぐ回復の為に手当てを受
けていた。奪われたエネルギーを取り戻さなければ、どのみちにろくに戦えなかっただろう。
そうして暫くの間、治癒の光を浴びていた睦月は、ようやく身体の自由を取り戻して起き
上がった。コンシェル達に礼を言って施術室を出ると、メインルームには既に皆人以下対策
チームの面々が勢揃いしている。
「ああ、睦月か。ちょうど良かった。今例の召喚主の身元が特定できた所だ」
司令官たる親友が振り返り、中央のディスプレイ群を促す。職員が制御卓を操作すると、
そこにはあの時のスーツの男の詳細情報が表示されていた。
「天満洋輔、二十七歳。飛鳥崎市内の小さな精密機器メーカー勤務のサラリーマンだ。主に
カメラや時計などを生産・販売している」
顔や年齢だけでなく、生年月日や身長・体重・血液型、出身地の家族構成や現在住んでい
るアパートの地番まで。この秘密基地には飛鳥崎とその一帯に関するありとあらゆる情報が
集まってくる。
腕に引っ掛けていた上着を弄りながら、睦月はこの詳細画面を見上げていた。“救世主”
を名乗る人物の割には、これといって特異な情報はない。普通の一般市民のようだ。
「しかし、化けの皮さえ剥がれれば呆気ないもんだな。要するにアウターの力を笠に着てる
だけな訳だろ?」
「自ら救世主と名乗っていた点からも明らかですからね」
「問題は、あの剣だね」
『それに、乱入してきたあのアウターも気になります。もしかしなくても、セイバーより強
力な個体のように見えましたし……』
「そうだな。あちらも近い内に調べる必要がある。だが今は、目の前の敵に集中しよう」
仁や國子、冴島やパンドラの呟きに頷きつつも、皆人は再び一同をこちらに向かせた。手
でサッと軽く合図して制御卓を弄らせると、今度はディスプレイ群にセイバー・アウターの
姿と各種データが呼び出される。
「先ほどの戦闘データだ。冴島隊長も言った通り、一番のネックはこいつの剣だろう。相手
のエネルギーを吸収して自分のものにできる。このアウターの特殊能力とみて間違いないと
思うが」
「ええ。武器を備えている個体は多いけれど、武器そのものに能力の大半を移しているのは
珍しいタイプと言えるわ。でも、吸収したエネルギーを流用した肉体強化も手伝って、地の
戦闘能力自体もかなり高い筈よ。それは直接戦った睦月が一番分かってると思うけれど」
早速始まった作戦会議。皆人の発言を引き継ぎ、研究部門を代表して香月が答えた。萬波
以下他のメンバー達も自前のPCのキーボードを叩き、ディスプレイ上の数値に強調の囲い
印を表示させる。
睦月は母をちらりと見て頷き、難しい表情をしてこれを見上げていた。初見では知らなか
ったとはいえ、ああも打つ手なく追い詰められたのは心苦しい。
救世主。
なるほど。あの黄金に光輝く鎧や剣といった姿は、彼の願いのイメージを色濃く反映した
結果という訳か。
「厄介な能力だな。あれがある以上、俺達もろくにサポートできやしない」
「コンシェルはエネルギーの塊だからね。それを突き崩されるとなれば、どれだけ頭数を用
意しても二の轍を踏むだけだろう」
『うーん……。だったら、剣に触れなければいいんじゃない? 受けるんじゃなくてかわし
ていれば少なくとも吸い取られることはないと思うんだけど。接近戦に持ち込んだのが今回
の敗因だったんじゃないかなあ』
「どうでしょうか。シュートモードでも弾は掻き消されていました。エネルギー系の攻撃は
どのみち無意味です。それに、距離を保って戦ったとしても、向こうに間接攻撃がないとは
限りませんし……」
うっ。國子の淡々とした反論に、パンドラが眉を顰めて再び考え込んでいた。彼女達も先
の戦いでは力になれなかった──寧ろ吸収されて相手にエネルギーを与えてしまったと考え
ているからか、総じて表情は険しいままだ。コンシェル達も守護騎士の装甲も結局は高エネ
ルギーの塊。相性は極めて悪い。
「少なくとも、また無策でぶつかるのは絶対に避けたい所だな。天満の動向は追うにしても
先ずはあの剣を何とかしないと」
苦戦は必至。司令塔たる皆人も、既に口元に手を当てじっと考え込んでいた。流石に今回
ばかりは条件が悪過ぎるかもしれない。
「……」
だがそんな中、当の睦月はぼうっとディスプレイ群を見つめ続けていた。
セイバーの振るう特殊な剣。皆が言うように、あれさえ何とかできれば、彼らを止められ
るかもしれないのだが。
「……吸収、か」
ぽつり。仲間達が議論を重ねている中で、睦月はそう独り呟く。




