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サハラ・セレクタブル  作者: 長岡壱月
Episode-20.Lovers/色欲(あい)という不可解
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20-(3) 動き出した出会い

 淡雪を襲った、瑠璃子とそのアウターは退散した。

 しかし状況は決して解決した訳ではなかった。守護騎士ヴァンガード姿の睦月とジークフリートを召喚

したままの冴島の前には、もう一方の羊頭のアウター・黒斗がじっとこちらを見据えて佇ん

でいる。

『……』

 両者は身構え、強く警戒していた。

 加勢してくれてありがとう──そんな呑気なお人好しでは少なくともなさそうだ。淡雪を

後ろに隠したまま二人を、この場に本来場違いなパワードスーツ姿の少年と自分と同類の僕

を操る男を、じっと食い入るように観察している。

 睦月達とてそれは同じだった。少なくとも相手がアウターであることに変わりはない。

 しかしどうする? 漁夫の利を狙おうにも彼はまるで消耗していないし、そもそも片方を

逃がした時点で表現には合わない。何よりあのブツブツ顔のアウターに振るっていた能力が

未知数な以上、下手に挑みかかれば彼女達の二の舞になる……。

「ま、待ってください! 黒斗を殺さないで!」

 しかしそんな時だった。両者の散らす火花の間に割って入ったのは、他ならぬ淡雪だった

のだ。黒斗を庇うようにバッと前に出、両手を広げる彼女。睦月や冴島──そしてインカム

の向こうにいる司令室コンソールの皆人達も眉を顰め、困惑する。

「その……。貴方が守護騎士ヴァンガードだったんですね。噂なら聞いています。街に潜む黒斗の同胞を

見つけては、悪事を働く彼らと戦っていると。でも、黒斗には手を出さないでください、お

願いします! 彼は、彼は何も悪い事はしていません。本当です。彼を失ったら、私……」

 しかも彼女は、守護騎士ヴァンガードも、彼が越境種アウターであることも理解した上でそう懇願しているよう

だったのだ。睦月達は益々混乱する。今まで多くのアウター達と戦ってきたが、まさか召喚

主の方から命乞いをされるとは。

 ……騙されている? 最初、睦月と冴島はそう思ってちらっと互いの顔を見合わせたが、

どうもそんな風には思えない。本当にただ純粋に、彼を庇おうとしているように見える。

『一体、どうなっているんだ』

『分かりません。でもバイタルに嘘をついているような反応はありませんし……』

「お、落ち着いてください。そんな取って食いはしませんから。というか、僕のこと知って

るんですね……」

「私達はただ、事件を解決したいだけです。……聞かせて貰えませんか? 何故そこまでし

て彼を庇うんです? 一体、彼に何を願ったというのですか」

 映像を見上げながら頭を抱える皆人、通信越しに唸っているパンドラ。

 あまりに彼女が必死なものだから、睦月と冴島も、無理やりに問い質そうとすることに気

が引けてくる。

「……詮索は止めて貰おうか。今回の一件には直接関係ない。……ただ傍にいて欲しいと、

そう言われただけのことだ」

 だからか、代わりにずいと黒斗が再び彼女の前に出た。もう一度庇うように立ち、訊ねる

睦月達を牽制するかのように。しかし当の淡雪本人はそんな彼の後ろでほうっと頬を赤く染

めていた。もじもじと恥ずかしそうにしている。「大丈夫だ」ぼそりと黒斗が、注意してい

なければ聞き逃す程の小声で言う。その一言にまるで彼女は励まされ、恥ずかしさも相まっ

てコクコクと頷きつつも俯いていた。

(……何か、二人ともいい感じだね)

(そう、ですよね。休憩スペースで出会った時もそうでしたけど、凄く信頼し合ってる感じ

がするんだよなあ……)

 何だか、見ているこっちがこっ恥ずかしくて。

 ひそひそと、睦月と冴島は小声で話し合っていた。正直このまま彼を倒し、二人を引き裂

いてしまうことが悪い事のように思えた。少なくとも彼女の方は、随分と彼に依存している

ように見える。越境種かいぶつであると、解っている筈なのに。

『……』

 だが司令室コンソール側の皆人は警戒を緩めない。情に流されそうになる二人の様子を見、わざとら

しくコホンと咳払いして半ば無理やりに我に返させた。

 ごくり。息を呑んで睦月と冴島(のジークフリート)が横並び、身構える。

 黒斗もそんな二人の変化をしっかりと見つめていた。手にした杖をゆっくりと持ち上げ、

羊頭の深い穴のような眼で見据えながら言う。

「退かない、か。それならそれで構わん。やろうというのなら、応じるが?」

「……っ」

 ちょうどそんな時だったのである。また戦いになる──再びの一触即発に睦月達がじりっ

と身を硬くして後退り、淡雪が慌てて黒斗の裾を取ろうとした時、遠くからばたばたと複数

の足音や声が聞こえた。病院関係者のようだった。どうやら先程までの戦いの音に気付き、

何事かと駆けつけて来たのだろう。

「……。一先ず、場所を移すとしよう」

 はたと睦月達が黙り、思わず息を殺していた最中だった。

 ちらと横目を遣り、黙っていた黒斗が、次の瞬間パチンと指を鳴らし、自らを含む一同を

一瞬にして消し去ったのである。


「──」

 そんな一部始終を、由良が遠巻きの物陰から目撃し、驚愕の余り冷や汗を垂らして言葉を

失っていたとも知らずに。

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