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サハラ・セレクタブル  作者: 長岡壱月
Episode-19.Lovers/お嬢様と黒執事
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19-(4) 記憶の糸口

 埃を被った資料満載の本棚達に囲まれながら、独りじっと画面を睨む。

 その日、筧は飛鳥崎中央署の中にいた。場所は資料課資料室。先端技術という荒波に置き

去りにされたかつての先輩刑事達の奮闘の記録が、所狭しと詰め込まれている。

 筧はそんな人気のない部屋の一角で、独り黙々と慣れないPCの画面を操作していた。

 これまでの事件をもう一度洗い直す為である。如何せん作業は遅れているが、この中央署

も近年では、捜査記録も随時アーカイブ化されている。紛失や改ざんが行われることを防ぐ

為にも、こうして原本をスキャンしてデータ保存してあるのだ。筧は自身に発行されている

関係者IDでログインし、ここ最近の不審な事件をピックアップしている。

「……」

 特に自分達の常識、科学では説明のつかないような事件──守護騎士ヴァンガードが関わっていると噂

される事件を中心に浚ってゆく。

 由良の話では、巷で守護騎士ヴァンガードの都市伝説が広まり始めたのは、爆弾テロ犯・井道の事件の

前後だという。

 言われてみれば確かにそうだ。あいつもまた、不可解な点の残る男だった。

 先ずどうやって一介の農夫があれほど大量の爆薬を調達できたのか? 小さな規模ならば

まだネット上で幾らでも製法は流出している。だが駅ビルを一個損壊させられるほどの破壊

力となるとかなり本格的な筈だ。それに犯行毎、どうやって現場に忍び込み、爆弾を仕掛け

たのかも謎のままである。

 何より胸糞が悪いのは、当の井道が既にこの世にはいないということだ。

 集積都市を恨んだ男・井道渡は何者かに殺害された。しかしその事実は表向きには伏せら

れ、事件の捜査自体も被疑者死亡のまま事後処理を残して打ち切りになってしまった。

 ……何か裏がある。

 そう思ってはいても、組織内の権力とは寧ろ反目し合う筧にとっては、それ以上の追及を

行わせるのは不可能だった。その為にも、一連の不審事件を追い続けている。一見して直接

関係性のない事件達の裏に潜む、得体の知れない黒幕なにかの存在を。

(結局、瀬古勇と小松健臣との間にもこれといった接点はなし……。やはり繋がりを見つけ

る鍵は守護騎士ヴァンガードか……)

 朝から夕方、ほぼ一日仕事で資料課のデータベースを漁ったが、井道前後からの不審事件

らの間に共通点は見つからなかった。少なくともめいめいの犯人同士に直接的な繋がりがあ

ったとは考え難い。

 だからこそ思う。知らなければと思えてくる。

 玄武台ブダイ襲撃の時、爆ぜる土埃の向こうに立っていた、鎧のような人影……。


 気分転換も兼ねて、ようやく筧は外に出た。仰いだ日は既に茜色に変じて下降しており、

この街もまた徐々に猥雑な一面を強く現してゆくことだろう。

 何もしないよりはマシだ。筧は入り組んだ路地を何度も曲がり、出会った者達に片っ端か

ら聞き込みをしていた。

 守護騎士ヴァンガード

 巷でそう呼ばれているそいつについて、何か知っていることがあったら教えてくれ。

 だが元々強面な部類もあってか、成果は芳しくなかった。中には職業柄すっかり顔馴染み

になってしまった相手もおり、何か後ろめたいことでもやらかしたのか、こちらの姿を見た

だけで逃げ出していく。

「あ、刑事さん。お久しぶりです!」

 だから最初、筧自身もまるで期待はしていなかった。寧ろ誰だっけ? と、記憶の引き出

しを探る方にエネルギーを使っていたほどだ。

 如何にも遊んでいます的なファッション、こちらの身分が解っていて妙に気さくな態度。

 林とその仲間達だった。井道が千家谷駅を爆破した時、その瓦礫で怪我をし、入院してい

た青年だ。当時のゲーマーグループは今も健在らしい。

 だが筧はそのことを覚えてはいない。いや、思い出せないのだ。何故ならそれよりもずっ

と後、八代直也の一件で対峙した他ならぬ皆人ら司令室コンソールによって、記憶自体を改ざんさせら

れたのだから。

 近付いて来られても、頭に疑問符を浮かべたまま。

 しかしそれでも、いつもの痛みはずっと控え目だった。筧は眉間に皺を寄せる。視界に林

達を映しながらも、もしかしたら長らく続くこの頭痛には、何か法則性があるのではないか

と思い始めた。

「……お前達は」

「? あれ? 覚えてない感じですか? まぁ忙しそうですもんねえ。例の事件も何だかん

だでもう過去のことになっちゃってますし」

「刑事さん、また聞き込みですか? 今度は何が起きたんです?」

 随分騒々しい奴らだ。だが筧は少ししめたとも思った。これだけ口が軽いなら何かポロッ

と情報を吐いてくれるかもしれないと考えたのだ。守護騎士ヴァンガードの、もっと具体的な出没先や行

動パターンを。

「ああ。何がって訳じゃねぇんだがな。色々きな臭い事件が続いてるだろ? だから少しで

もそいつらが繋がる手掛かりでもあればってな」

「へえ……。こんな時代になってもやってることは地味なんですね」

「あ、そういや。例の爆弾テロ犯、死んだんですってね?」

 故に筧はピクリと、目敏く反応していた。

 正直この目の前の若者達は皆目思い出せないが、あの事件と関わりがある……?

「教えてくださいよ~。やっぱり“リアナイザを持ったおっさん”だったんですか?」

「それにあの“学園コクガク”の子、大丈夫だったのかなあ? あの後、巻き込まれてなきゃいいけ

ど……」

「──」

 故に思考が一瞬フリーズし、同時に電撃が走る。

 何だそれは? リアナイザを持った、おっさん? 学園コクガクの子? 俺は以前にこいつらから

そんな話を聞いていたのか……?

「……おい」

「? はい?」

「その話、もう一度詳しく聞かせろ」

 殆ど直感だった。

 ずずい。思わず凄味を利かせて、筧は林達ににじり寄る。

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