19-(0) 孤独に啼いて
私は、いわゆる資産家の一人娘として生まれました。
周りは私の事をよく“恵まれた人間”と言います。でも在るのはお金だけで、私が願った
ものは何一つとして無かった。
少なくとも物心ついた頃には、両親の仲は冷え切っていました。
父はいつも仕事を優先し、家族を愛そうという努力をしませんでした。母も母で結婚した
のは父ではなく彼に付随する財産であったように思えます。二人が家に──同じ場所にいる
時は、決まってお金の話ばかりしていました。いつも不機嫌で、冷たい態度ばかりを投げ付
け合っている姿が、今でも脳裏に焼き付いていて心苦しいのです。
ですがそんな両親も、最期は呆気ないものでした。車に乗っている最中事故に遭い、その
まま帰らぬ人となってしまったのです。
……私は、一人遺されてしまいました。
そして何処からともなく擦り寄ってきたのは、叔父を始めとした親戚達。まだ幼かった私
には対抗する術などありませんでした。彼らは次から次へとやってきて、両親が握っていた
財産を毟り取ってゆきます。
気付いた時にはとうに手遅れでした。私に残されたのはこの殺風景な屋敷と、知らぬ間に
後見人の座に収まった叔父による、制限された日々だけでした。
例えるなら──鳥籠の中。大事にされているようで、実質この屋敷に閉じ込めて金を得る
為の体裁だけは何としても維持しようという魂胆。
絶望がずっと横たわっていました。でも裏切られたという怒りは、あまりありません。
両親というケースを観ていたからでしょうか? 二人の死後、叔父達が群がってきたその
目的がお金だということを、子供心ながらに感じ取っていたのかもしれません。何より初め
から私を見てくれてはいなかった。お金目当てで、私は単なる手段に過ぎなかったから。
『──引き金をひきなさい。願いが叶うわ』
そんな、ある日のことでした。思えば全ては、あの時から始まったのです。
独り屋敷に暮らしていた私の下へ、とある女の子が訪ねてきました。ゴスロリ……という
のでしょうか。そんな奇抜な格好もあって、多分同い年くらいなのに随分と“大きく”見え
た記憶があります。
彼女が手渡してきたのは、先のへしゃげたスピードガンのような道具でした。
リアナイザというらしいです。上蓋の中には既にデバイスが挿っていて、彼女は私にその
引き金をひくようにと言ってきます。
『願いが、叶う?』
『そうよ。何だったら貴女から全てを奪った者達に復讐することだってできるわ』
『……』
ニタリと笑う彼女。でも私が望んでいたのは、そんなものじゃなかったから。
半ば言われるがまま、引き金をひきました。すると驚くことに、銃口から飛び出してきた
光は人の形に変わり、鉄仮面の怪人となって私の前に現れたのです。……正直、怖いという
よりは、驚きで頭が追いつかなかった気がします。
『……オ前ガ召喚主カ。サア、願イヲ言エ。ドンナ願イデモ叶エテヤロウ』
だから暫く、私は呆然としていました。
これがリアナイザの力? 私の、願い? ゴスロリ姿の彼女が小さく口角を上げて私を見
ていました。相変わらず、年格好の割には態度の大きい子です。
『私は……』
去来するこれまでのこと。両親の不仲と死、叔父達の侵食と管理。恵まれていたのは一時
の持ち合わせだけで、その実何も豊かなものなんてなかった……。
『? 貴女──』
気付いた時には、泣いていました。昔の記憶を思い出したせいか、私は知らず知らずの内
にぼろぼろと涙を流していたのでした。ゴスロリ姿の彼女が、鉄火面さんが、やや怪訝に私
を見下ろして立っています。……私は決めていました。ぎゅっと彼の手を取り、私の願いを
伝える為に。
『お願い……傍にいて。もう、一人ぼっちは嫌なの!!』




