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サハラ・セレクタブル  作者: 長岡壱月
Episode-18.Storm/天を裂く一矢
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18-(2) 闘う相手、欺く相手

「睦月ー!」

「むー君~!」

 幼馴染達の声が聞こえると、睦月や皆人、國子は半ば反射的にデバイスを取り出し、リア

ナイザを隠すようにしまい込んだ。ストームの姿は既に見えなくなっていた。何としても守

ろうとしたものが難を逃れたと知り、内心睦月は酷く安堵さえした。

 こちらの存在に気付き、二人が浜辺への坂を駆け下りてくる。皆人と國子がちらと互いに

目配せをして頷き、すっくと睦月の前で立つように歩いた。同期中にあれだけコンシェルを

叩き付けられてダメージが無い筈はないのに、彼らはあくまで平穏無事を装ったのだ。

「もう~、探したよ。一体何してたのさ?」

「……ああ、すまない。こいつが日差しに中てられてしまってな」

「それで、それを見つけた私達が、涼しい所に移そうとしていた所だったのです」

 砂浜の上にまだ仰向けのままの睦月。そんな親友ともの様子を、皆人は國子と共にそうこじ付

けて弁明する。

 普段は見れない景色だからな。言って、例のパンドラの試用運転の一環だと臭わせる。

「……子供か。あんたは」

「あはは。ご、ごめん……」

 実際半分迷子の上に、身体はくたくただ。情けない姿を晒してしまっている事には間違い

はない。片眉を上げて呆れる宙の一方で、海沙は「それは大変」とこの睦月の傍へ駆け寄っ

ていた。國子と一緒になって肩を貸し、一旦近くの木陰へと移動させる。本当は熱ではなく

あのドリルにやられたのが……勿論、そんな事実を話すつもりはない。

「全く、何やってんだか」

「本当だよお。パンドラちゃんに色々見聞きさせたいのは分かるけど、むー君自身が無茶を

したら元も子もないんだからね?」

「……うん」

『申し訳ないです……』

 ヤシの木にもたれ掛かってしょんぼり、デバイスの画面の中でもしょんぼりと。

 睦月は苦笑いにも徹し切れず表情を暗くし、パンドラもまた主を守り切れなかった無念も

相まって眉をハの字に下げてしまっている。

「香月おばさんの力になりたいってのは分からなくもないんだけどさ……心配なのよ。もし

あんたに何かあったら、一番気を揉むのはおばさんなんだからね?」

「勿論、私達も」

「……ありがとう」

 だからこそ、この幼馴染達を騙し続けていることが辛かった。彼女達を守る為、ひいては

飛鳥崎や他の街に広がる改造リアナイザの魔の手から人々を守る為、必要な嘘だと言い聞か

せてきた筈だが、そのために肝心の彼女達の気を揉ませてしまうのは何という皮肉だろう。

一周回って……という逆転現象なのだろうと思う。

 少なくとも、彼女達は嘘はついていない。だからこそ睦月はただ苦笑を貼り付けて小さく

詫びるしかなかった。今回の事も、口には出せないアウター達との戦いそれ自体も。

 暫くの間、睦月達五人は木陰で休んでいた。

 それでもあまり長居はしていられない。皆人がデバイスで時刻を確認し、そろそろ戻ろう

と切り出した。今度はこの親友が睦月に肩を貸し、立ち上がらせた。國子が後ろにそっと付

きつつ、宙と海沙もちらちらと振り向きながら、横に並びながら歩き出す。

「……??」

 そんな最中、海沙はふと気付いた。はっきりとはしないが、違和感という奴であろうか。

 何だか……ここは荒れている気がする。この島に着いてから見てきた浜辺はどれも均され

たように綺麗に波打っていたが、ここにはそれが欠けている気がするのだ。

 均すというより、吹き飛ばされたような?

 去り際、何となく浜辺に目を遣っただけのことだったが、海沙にはあちこちが妙に抉れて

いるように見えた。それに何だろう? あそこの岸壁、妙に凹んでいる? まるで何かが、

大きな力で押さえ付けられたみたいに──。

「海沙ー? どうしたの? 行くよー?」

「あ、うん……」

 目を瞬いて止まりかけていた足。だがそれを引き戻したのは、先を行く宙からの少し怪訝

な声だった。思わずハッと我に返り、故に海沙はこれ以上考えるのを止めた。

「急ぎましょう。確かこの後は、キャンプ場で飯盒炊爨はんごうすいさんでしたね」

『あ、それ知ってます。カレーにして食べるんですよね?』

「カレーだけとは限らないが……。まぁ大抵はそうだろうな」

「人数が集まると、それだけで量が多くなるからねぇ。一種の様式美ってやつだよ」

 わいわい。知ってや知らずか、或いは隠す為に敢えて話題を膨らませようとしたのか、國

子を皮切りに坂を登って引き返す一行の会話は弾み始めていた。

 実際、あまり本隊から長く遠くへ離れていれば、今度は教師らにも怪しまれる。

 そのキーワードを聞いて、画面の中のパンドラがぱぁっと目を輝かせた。皆人が淡々と肩

を貸しながら歩き、睦月も何処か微笑ましいという風に笑って応える。

「……」

 ぱたぱた。

 呼ばれたのと、気にしても何かある訳でもないと、海沙は皆に追いつくべく走り出す。

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