17-(6) 復活のS
それは、同じ日の朝方の出来事だった。
集積都市が一つ、飛鳥崎市北部。国立飛鳥崎学園正門前通り。
左右を閑静な住宅街が挟む人工的なストリートを遡上するようにして、ちらほらと学生達
が登校してくる。正門前の一角にはバスのロータリーまで整備されている。それだけ市内を
始め、遠方からも生徒を呼び込んでいるのだ。
真っ直ぐに伸びる通りの両側には点々と、桜の木が植えられている。今はシーズンが過ぎ
てしまったが、それでも朝日を通して仰げる澄んだ緑の陰は見ているだけで心地良い。
「──ねえ兄貴。本当に現れるんスかね?」
そんな朝の登校風景を待ち構えるように、彼らは潜んでいた。人間態のジャンキーと逆さ
帽子の少年である。二人は桜並木の一つに背中を預け、じっと通り過ぎてゆく生徒達の人波
を眺めていた。
「現れるさ。現れてくれないと困る。お互い、切羽詰ってるのは同じなんだからよ」
ジャンキーは小さな丸サングラスをついっとずらし、傍らの徒弟に応えていた。時折生徒
達が誰だろうと視線を投げてはくるが、それでも変に関わり合いになるのはよそうとまたす
ぐに前を向き、学園の中へと吸い込まれていってしまう。
二人は今朝からこうして待ち伏せていた。今日から臨海学校で一学年がいない今、この学
園に登校してくるのは二年生と三年生だけの筈だ。向こうへ遣らせたストームに当たればそ
れでよし、こちらに当たればもっとよし。奴には逃げ場など与えない。
「この前の様子見で、否応なしに守護騎士とその協力者達も俺達を警戒せざるを得なくなっ
ている筈だ。面は割れている。その俺達がこうして学園前でプレッシャーを掛けておけば、
奴らも行動を起こさずにはいられない。何をするか、分からないからな」
「……なるほど」
今度はこちらから仕掛けるというのだ。一度は取り逃がした失敗・状況を逆手に取り、彼
らをおびき寄せる。ジャンキー達にとっては周りの生徒達などどうでもいい。だが向こうは
そうではないだろう。その差を利用して、あぶり出す。
「分かるな? 暴れてやるのはあくまで最後の手段だ。我慢比べだと思え。こっちの考えが
知れないからこそ、奴らにはプレッシャーになるからな。よーく連中を見ておけ。ホンモノ
なら恐れじゃなく対抗心を眼に宿す筈だ」
「ウッス!」
逆さ帽子の少年も、ジャンキーの意図する所を理解して不敵に応じた。既に周囲の各路地
にはサーヴァント達を待機させ、奴らが動きをみせればすぐに知らせるよう命じてある。
動く筈だ。
こちらの面が割れているからこそ、目立つ真似をすれば守護騎士は動く。
「──」
だがやがて現れたのは、二人が予想していたのとはまた別の人物だった。
カツンカツンと、アスファルトの地面の上を靴音を鳴らして彼はやって来る。登校する生
徒達の何人かがちらと一瞥をくれたが、特にそれ以上何をするでもなくまた一人また一人と
人波の中に紛れていく。
「む?」
「兄貴。まさか」
その接近にジャンキーと逆さ帽子、アウター二人が気付き、視線を投げる。明らかに周り
の流れとは独立して真っ直ぐこちらに歩いて来ていた。釣れたか。しかし、こいつは……?
サングラスの下で、ジャンキーの表情に嬉色と思案が入り混じる。
「……」
冴島だった。
二人の前に現れたのは、スーツをラフに着こなした男性。守護騎士の前装着予定者、冴島
志郎その人だったのである。




