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サハラ・セレクタブル  作者: 長岡壱月
Episode-17.Storm/守護騎士、離島にて
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17-(4) 疑惑の睦月(かれ)

 島内でもまだ整えられている方な白い土道をくねくねと進み、睦月達は今回お世話になる

宿へと辿り着いた。

 集落の一角にある素朴な旅館だった。初夏にも拘わらず着物姿の女将と従業員達が迎えて

くれ、取り敢えず一行は荷物を一旦それぞれに宛がわれた部屋に置くと再び集合を掛けられ

て外に出た。課外活動の開始である。

 初日は散策という名の島内観光だった。地元の人間がガイドとして同行し、森の中に埋も

れた神社や石碑などの史跡、海辺では漁師達の生活を事細かに紹介してくれる。おそらく普

段から折につけてこういった仕事をしているのだろう。海風と日差しに焼け、一見すると強

面に部類される壮年の男性だったが、その節々にこなれている感じがした。

「むう……」

「ぬぬ……」

 そんな中、目の前の学習が既に頭に入っていない生徒がいた。海沙と宙である。二人は睦

月や皆人、國子・仁と同じグループで行動しながらも、その走りから目の前の幼馴染と友人

達を疑っていた。

 曰く三条家の手伝い。パンドラに色んな経験をさせる、触れさせる。

 事情は分かった。睦月も心配を掛け過ぎたと反省し、守秘義務をこっそり破って話してく

れた。しかしその時同時に、二人には気掛かりなことがまた一つ増えたのである。

 謎の頭痛だ。春先からの奇妙な事件について思い出そうとする度に、まるで邪魔をするよ

うに襲ってくるこの痛み。しかもそれが互いに患っており、時期も八代直也の一件の前後と

一致する。何か理由がそこにはあると、二人は結論付けていた。

(ねぇ、ソラちゃん。本当にむー君達が知ってるのかなあ?)

(睦月達が知らなきゃ誰が知ってるっていうのよ? 大体、あんたのストーカー騒ぎの後、

すっかり大江達が仲間になっちゃったでしょ。考えてみれば不思議なのよ。罪滅ぼしって言

えばまぁそうなんだけど、あんたの優しさに甘え過ぎじゃない?)

(そんなこと……。確かにあの時は怖かったけど、大江君達全員が悪い訳じゃないよ。それ

にソラちゃんだって、一緒にゲームしたりするようになったじゃない)

(そ、それはまた別の話で……。まぁあんたがそれでいいってのなら今更蒸し返しはしない

けどさあ……。でも、少なくともあの頃に睦月達との間で何かがあったのは間違いないと思

うのよ)

 憐れの気持ち。心安い新たな仲間。

 しかし一方で、二人にとっては彼らが現れた頃から明確に自分達の周りで奇妙な出来事が

増えてきた。それも大切な幼馴染が事ある毎に傷付き、にも拘わらず決して多くを語っては

くれないという見えない壁に晒されながら。

 幼馴染を、仲間を疑いたくはない。だけどあの日彼が打ち明けてくれた言葉は必ずしも全

てではないのだろうと思うようになった。自分達が彼を大切に思っているように、彼もまた

自分達を大切に思ってくれている。それ故にまだ何かを背負い込んだまま笑顔を繕い続けて

いる。そんなの、自分達が望んでいることじゃない……。

 だから海沙と宙は、この臨海学校の間、睦月を徹底的にマークすることにした。本音を言

えば、皆人やその付き人たる國子を問い詰められれば一番確実なのだろうが、十中八九二人

が口を割るとは思えない。ならば、こう言っては何だが、まだもっと気優しい睦月から調べ

ていった方が成果は得られると思うのだ。何より、パンドラというただでさえイレギュラー

なくらい感情豊かなコンシェルを彼は今持っている。

 故に二人は、移動中付かず離れずこの幼馴染の動向に気を配り、見失わないように努めて

いたのだが……。

「ねぇねぇ宙。ここでもTAの回線あるんだって。自由時間にやろうよ」

「はーい、皆さーん。そろそろ次に行きますよ~」

「天ヶ洲さん。ちょっといいですか?」

「海沙さん、海沙さん! 凄いですよ! 一面真っ青!」

 道中、何かにつけて邪魔が入った。それは仲の良いクラスメートや同級生だったり、場所

移動をと皆に声を掛ける豊川先生だったり、或いはやけに絶妙なタイミングで睦月との線上

に入り込んでくる國子や、ぶんぶんと手を振ってターコイズブルーの海に興奮している仁で

あったりした。

 ぬう……。さりとて邪険にする訳にもいかず、宙は海沙はその都度対応に時間を割かざる

を得なかった。見た所当の睦月に目立った動きはないし、時折懐から取り出したパンドラに

島の景色を見せて優しく微笑んですらいる。

「はーい。それでは皆さーん、ここで一旦休憩しましょう」

「十五分後に出発だ。トイレや水分補給も各自、済ませておくように」

 そうして何ヶ所のスポットを巡ってからだったろうか。集落内から始まり、林道海辺、ま

た内陸へと戻って緩やかな丘陵を登り、一行はちょっとした見晴らし台まで来ていた。

 豊川先生や学年主任の合図を受け、面々がどっと解放されたように散らばる。すぐ眼下に

島の海が広がる高台は観光客向けに整備されており、落下防止の柵や石畳のフロアは勿論、

方々に東屋あずまや──屋根付きの休憩スペースも設けられている。

「流石にこれだけ歩くと喉が渇くなあ……。飲み物買ってくるよ。何がいい?」

「あ、ありがとう。じゃあ……冷たいお茶」

「俺も冷たいものなら何でもいい」

「うーんと。じゃああたしはコーラ!」

「わ、私はカルピスとか、そういうの……」

「スポーツ飲料があればお願いします」

「オッケー。ちょいと待っててくれ」

 皆人たち三条班も、この暫しの休憩に身を預けることにした。仁が皆にリクエストを聞い

て自動販売機の方へと歩いてゆく。東屋は既に他のグループらが我先にと押し掛けつつあっ

たので、早々に諦め剥き出しのテーブルや椅子の上に座った。ざわざわと、学園にいる時と

同じようなざわつきが辺りに満ちては空に溶けてゆく。

「いい所だね」

『はい。街の外は自然がいっぱいなんですね~』

「……」

 奥の方に座った睦月が、そうこっそりパンドラと話している。デバイスの中の彼女も、飛

鳥崎を出たことがないからか新鮮な環境にご満悦の様子だ。

(ソラちゃん)

(うん。分かってるよ。あいつはそもそも、あたし達に対して悪意なんて無いんだし……)

 だがそんな時だったのだ。この見晴らし台の方へ、ラフな格好の男性が数人、登って来る

のが見えた。睦月や海沙達もちらとその様子を遠巻きに見ている。ガイド役の男性に用があ

って来たようだ。老若に幅はあるが全員地元の住民らしい。何やら深刻な表情かおで、

この彼に話し掛けている。

「──それは本当か?」

「ああ、間違いない。村の奴らが何人も見てる」

「古い胴着を着た大男だ。見たこともないし気味が悪いって、皆怯えてちまってさ……」

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