17-(2) ローラー作戦
「ガンズがやられた!?」
時を大きく前後して。
隠れ家にしていた廃ビル内に、人間態のジャンキーの驚く声が響いた。丸い小さなサング
ラスをずらし、血走った眼で逆さ帽子の少年の方を見返している。
「は、はい。あれから何度も連絡してるんですが、全然繋がらないんスよ。どうもデバイス
自体がぶっ壊れてるみたいで。あいつが最後にここに来た時、仕事を邪魔されたって言って
たでしょう? もしかしなくてもそいつが守護騎士だったんじゃないかって……」
差し込む光を遮るように等間隔に立つ古びた柱。そこへめいめいに、思い思いに背を預け
ながら彼らはその報告を聞いていた。
丸いサングラスを着けたチンピラ風の男──ジャンキー・アウター。
彼の徒弟のように振る舞う逆さ帽子の少年。
そして古びた胴着を着た、灰髪の大男。
ガンズを含めて刺客として召集された彼ら四人だったが、気付けば自分達よりも先にその
一角を潰されたことになる。
あれ以来、ガンズとの連絡は取れなくなっていた。姿も見ていない。彼がターゲットとし
て追っていた小松健臣が死ぬことなく街を出たとの情報からも、結局その暗殺は失敗したも
のと考えてよい。
自分達を並の人間が止められる筈もない。ましてや斃せるなど。
つまり、おそらくガンズはもう……。
「くそっ! やられた……!」
ガンッとジャンキーは裏拳で近くの柱を叩き、その一撃で柱が大きくひび割れた。逆さ帽
子の少年も灰髪の男もそれ自体にはさして驚く素振りは見せず、代わりに同胞がまた一人倒
されたことを悔しがっている。
「その邪魔をした少年──学園生というのが件の人物であると見て間違いないな。あの時、
押し留めても詳しく聞き出しておけば良かったか」
「そうだろうけど……。もう今更言ったって仕方ねぇよ。どうします、兄貴? ラースにこ
の事がバレれば、俺達も何されるか分かったもんじゃないッスよ?」
「分かってる。というより、蝕卓はもう把握している可能性が高い。分かってて、まだ俺達
を泳がせている……。悠長にはしてられねぇぞ。このままじゃ俺達は、奴らに体よく使い潰
されるだけだ」
灰髪の男から逆さ帽子の少年へ、そしてジャンキーへ。
親指の爪を噛みながら、彼は苛立ちと焦りを感じ始めていた。蝕卓が自分達のことを体の
よい駒ぐらいにしか思っていないのはかねてから知っていたが、その番が急に回って来たと
なると焦らずにはいられない。
さっさと仕事を果たさなければ……。少なくとも守護騎士の正体ぐらいは暴かなければ、
ジリ貧になる。身元さえ割れれば、周りの人間の十や二十いくらでも人質に取って確実に始
末できる。
「急いで面を割らなきゃな……。トレ坊、確かもうすぐ学園は臨海学校だったな?」
「あ、はい。その筈ッスけど。ええと……高等部は天童島って所ッスね」
ジャンキーに訊ねられ、それまで気圧されていた逆さ帽子の少年は、懐から手帳を取り出
すと確認していた。天童島……。この街を囲む地理を頭の中で思い返しつつ、ジャンキーは
ふふっと小さくほくそ笑む。
「ちょうどいい。一学年は丸々その島に集まってる訳だ。虱潰しに当たっていればいずれ奴
とも出くわす。ストーム、お前がやれ。俺達は三年生から順に潰していく。お前の能力なら
海の上だろうが問題ないだろう?」
「うむ。良かろう。ではそちらはお主らに任せる」
もたれ掛かっていた柱から身体を起こし、灰髪の男──ストームは相分かったと頷いた。
相変わらず鷹揚とした佇まいだが、その瞳の奥には静かに闘志が燃え始めている。
「ああ。それと、何か分かったらこまめに連絡してこい。片方で見つかったのにもう片方で
無駄に探し回るのは御免だしな」
うむ……。ジャンキーの上目遣いの眼光に、ストームは何とともなく首肯した。一人歩き
出しながらキュッと胴着の襟を締め、そして踵を返す前に訊ねてくる。
「のう、ジャンキー」
「うん?」
「もし私の側に彼奴がいたとして……。別に倒してしまっても構わんのだろう?」
犬歯を覗かせた不敵な笑み。
それは守護騎士を前にして、血湧き肉踊らんとする悦びでもあった。




