17-(1) 上陸、初日にて
程なくして、臨海学校の当日がやってきた。
場所は飛鳥崎南の遠洋に浮かぶ小さな島・天童島。ポートランド近辺のように開発の手が
伸びておらず、澄んだ青い海と白い砂浜、ありのままの自然が今も残る知る人ぞ知る隠れた
観光地である。
朝早くから港に集合し、睦月ら高等部一年生一行は船に乗り込んでこの島を目指した。波
に揺られるにつれ、飛鳥崎の陸地が遠くなってゆく。ある者は甲板から水面を眺め、ある者
は船内でまったりと到着までの時間を過ごす。
「さあ皆さん。こっちですよー。一旦グループごとに並んでくださーい」
船旅は大よそ二時間半ほど。古びたコンクリで補強された島の港に降り立ち、学園指定の
ジャージに身を包んだ睦月達は豊川先生ほか、引率の教諭達に誘導され、事前に決めておい
たグループごとに固まって整列した。
「全員揃っているか確認しろ。船に残っている奴はいないな?」
「各ホームルームでも話したように、こちらでの活動は基本、この各グループを一単位とし
て行う。クラスの垣根を越えて、協力してこの四日間を過ごすように」
「班長は点呼を豊川先生に知らせてください。全班揃ったら、宿に向かいます」
初夏の日差しは場所によってこうも違うものなのか。睦月はそっと、飛鳥崎にいた時より
も厳しく感じる陽の光に目を細め、空を仰いだ。天気は快晴。青々とした絶好のオリエンテ
ーリング日和である。
「三条班。六人全員確認しました」
「はい。ありがとう」
睦月の所属する班は、睦月と皆人、國子、海沙、宙、そして仁だ。
いつもの面子と言えばいつもの面子ではある。だがそれだけに、何だか妙にしっくりとく
るのもまた事実だ。
仁は、少なからずうきうきしていた。憧れの──ファンの一人として海沙と一緒の班にな
れたのが嬉しいらしい。「いいなあ……」他のM.M.Tメンバー達が羨ましそうにこれを
見ていた。対する仁も「へへ。いいだろう? 帰ったらたんまり土産話してやるからよ?」
と得意げだ。睦月はそれを横目に眺めつつ、静かに破顔する。かつては勘違いもあって激し
く対立した彼らだが、今ではすっかり気心の知れた仲間だ。……その為に一人、パージせざ
るを得なかったのは正直残念ではあったが。
「全班揃いました」
「ん……。では出発しましょう」
各グループから報告が上がり、豊川先生が更にそれを学年主任に上げる。
どうやら乗り遅れや降り忘れはないらしい。色黒で角刈りのこの学年主任は青い顎鬚を擦
りつつ、コクと頷く。
これから三泊四日の日程で、臨海学校が始まる。島内の自然に触れ、サバイバル技術など
を学び、或いは宿において高等部生としての心得を叩き込む。正直言ってだるいし、こと街
に残してきたアウター達のことが心配で、思考はどうやってこの四日間をやり過ごそうかと
いう方向にばかり流れてゆく。
集団行動──軍隊的──。ぽつぽつとそんな反発心が生まれなくもないが、国立の学校に
通っている以上、これもまた織り込み済みだろうと渋面を返されるのがオチだ。普段満たさ
れたインフラを享受していて忘れがちだが、今の時代は各国が激しくしのぎを削っている。
競うからこそ、勝ち取れるものもある……。
「これから、今回の宿へと向かう! 先生達について来なさい。地理の把握も兼ねて島内を
迂回してゆくので、各自しっかり記憶しておくこと!」
はい! 学年主任の声に、一同は合唱するように応じた。満足そうに再度頷き、彼は先頭
に立って歩き始めてゆく。他の引率教諭らは何組かに分かれ、後に続く生徒達のフォロー役
に回るようだ。尤もこの程度の徒歩で脱落するようでは、この先が思いやられるが。
「……行くか」
「うん」
睦月ら三条班も歩き出した。人気も疎らな港を後にし、軽い坂を登って島の丘陵の中へと
入っていく。集落はもう少し奥に集まっているのだろうか。道はすぐにあまり舗装されてい
ない土道になった。見渡す限りの緑の山と、その向こうに広がる青い海が平面をぽつぽつと
埋めるように佇んでいる。
『……』
そんな二人、いや國子を含めた三人を、宙と海沙はじっと後ろから見つめていた。付かず
離れずの距離を保ちながらついてくる。
思う所があったのだ。出発前から、二人は──特に宙は睦月達の行動に不審を感じてなら
なかった。何故かそのことを考える度にズキズキと頭が痛む──この前のダウンのダメージ
が残っているのか、邪魔をされるが、だからこそ何もないと思うことはできない。
(海沙)
(うん、分かってる。むー君達を見張る、でしょ?)
こそこそ。
この幼馴染達は皆の後を歩きながら、そう目配せをし合って密かに緊張の糸を張る。
「──」
だから誰も気付かなかった。
この時、島の別な浜辺の一角で、ふわりと着地する何者かの影があったことに。
緩く渦巻く風を纏うようにして、灰髪の男が降り立ったことに。




