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サハラ・セレクタブル  作者: 長岡壱月
Episode-17.Storm/守護騎士、離島にて
127/526

17-(1) 上陸、初日にて

 程なくして、臨海学校の当日がやってきた。

 場所は飛鳥崎南の遠洋に浮かぶ小さな島・天童島。ポートランド近辺のように開発の手が

伸びておらず、澄んだ青い海と白い砂浜、ありのままの自然が今も残る知る人ぞ知る隠れた

観光地である。

 朝早くから港に集合し、睦月ら高等部一年生一行は船に乗り込んでこの島を目指した。波

に揺られるにつれ、飛鳥崎の陸地が遠くなってゆく。ある者は甲板から水面を眺め、ある者

は船内でまったりと到着までの時間を過ごす。

「さあ皆さん。こっちですよー。一旦グループごとに並んでくださーい」

 船旅は大よそ二時間半ほど。古びたコンクリで補強された島の港に降り立ち、学園指定の

ジャージに身を包んだ睦月達は豊川先生ほか、引率の教諭達に誘導され、事前に決めておい

たグループごとに固まって整列した。

「全員揃っているか確認しろ。船に残っている奴はいないな?」

「各ホームルームでも話したように、こちらでの活動は基本、この各グループを一単位とし

て行う。クラスの垣根を越えて、協力してこの四日間を過ごすように」

「班長は点呼を豊川先生に知らせてください。全班揃ったら、宿に向かいます」

 初夏の日差しは場所によってこうも違うものなのか。睦月はそっと、飛鳥崎にいた時より

も厳しく感じる陽の光に目を細め、空を仰いだ。天気は快晴。青々とした絶好のオリエンテ

ーリング日和である。

「三条班。六人全員確認しました」

「はい。ありがとう」

 睦月の所属する班は、睦月と皆人、國子、海沙、宙、そして仁だ。

 いつもの面子と言えばいつもの面子ではある。だがそれだけに、何だか妙にしっくりとく

るのもまた事実だ。

 仁は、少なからずうきうきしていた。憧れの──ファンの一人として海沙と一緒の班にな

れたのが嬉しいらしい。「いいなあ……」他のM.M.Tメンバー達が羨ましそうにこれを

見ていた。対する仁も「へへ。いいだろう? 帰ったらたんまり土産話してやるからよ?」

と得意げだ。睦月はそれを横目に眺めつつ、静かに破顔する。かつては勘違いもあって激し

く対立した彼らだが、今ではすっかり気心の知れた仲間だ。……その為に一人、パージせざ

るを得なかったのは正直残念ではあったが。

「全班揃いました」

「ん……。では出発しましょう」

 各グループから報告が上がり、豊川先生が更にそれを学年主任に上げる。

 どうやら乗り遅れや降り忘れはないらしい。色黒で角刈りのこの学年主任は青い顎鬚を擦

りつつ、コクと頷く。

 これから三泊四日の日程で、臨海学校が始まる。島内の自然に触れ、サバイバル技術など

を学び、或いは宿において高等部生としての心得を叩き込む。正直言ってだるいし、こと街

に残してきたアウター達のことが心配で、思考はどうやってこの四日間をやり過ごそうかと

いう方向にばかり流れてゆく。

 集団行動──軍隊的──。ぽつぽつとそんな反発心が生まれなくもないが、国立の学校に

通っている以上、これもまた織り込み済みだろうと渋面を返されるのがオチだ。普段満たさ

れたインフラを享受していて忘れがちだが、今の時代は各国が激しくしのぎを削っている。

競うからこそ、勝ち取れるえられるものもある……。

「これから、今回の宿へと向かう! 先生達について来なさい。地理の把握も兼ねて島内を

迂回してゆくので、各自しっかり記憶しておくこと!」

 はい! 学年主任の声に、一同は合唱するように応じた。満足そうに再度頷き、彼は先頭

に立って歩き始めてゆく。他の引率教諭らは何組かに分かれ、後に続く生徒達のフォロー役

に回るようだ。尤もこの程度の徒歩で脱落するようでは、この先が思いやられるが。

「……行くか」

「うん」

 睦月ら三条班も歩き出した。人気も疎らな港を後にし、軽い坂を登って島の丘陵の中へと

入っていく。集落はもう少し奥に集まっているのだろうか。道はすぐにあまり舗装されてい

ない土道になった。見渡す限りの緑の山と、その向こうに広がる青い海が平面をぽつぽつと

埋めるように佇んでいる。

『……』

 そんな二人、いや國子を含めた三人を、宙と海沙はじっと後ろから見つめていた。付かず

離れずの距離を保ちながらついてくる。

 思う所があったのだ。出発前から、二人は──特に宙は睦月達の行動に不審を感じてなら

なかった。何故かそのことを考える度にズキズキと頭が痛む──この前のダウンのダメージ

が残っているのか、邪魔をされるが、だからこそ何もないと思うことはできない。

(海沙)

(うん、分かってる。むー君達を見張る、でしょ?)

 こそこそ。

 この幼馴染達は皆の後を歩きながら、そう目配せをし合って密かに緊張の糸を張る。


「──」

 だから誰も気付かなかった。

 この時、島の別な浜辺の一角で、ふわりと着地する何者かの影があったことに。

 緩く渦巻く風を纏うようにして、灰髪の男が降り立ったことに。

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