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サハラ・セレクタブル  作者: 長岡壱月
Episode-16.Father/狙撃手は何処だ
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16-(4) 銃魔の怒り

守護騎士ヴァンガードを、取り逃した……?」

 人気のない廃ビルの一角。神父風の男ラースが三人の刺客達を解き放った場所だ。

 先日の潜入についての報告を聞き、ラースはそう静かに呟いていた。一見喋り方こそ普段

のように丁寧だが、その声音には少なからぬ“怒り”が含まれている。

「あ、ああ。どこぞの突撃馬鹿がヘマをしたせいでな」

「それはすまぬと言っているではないか。それに、やりようがあると言っていたのはお主の

方なのに、結局奴と戦っていたろう?」

「そもそもあれはてめーが勝手に敷地ン中に入って行ったからじゃねぇか。それだけじゃな

く、兄貴がいいとこまで追い詰めたのに邪魔しやがって……」

 ジャンキーと逆さ帽子の少年、そして灰髪の男がそれぞれ互いを直截的に、或いはそれと

なく詰って言い合っていた。尤も気勢を上げていたのは逆さ帽子の少年一人だったが。

「擦り付け合いはそこまでです。済んだ事を今更言っても仕方ないでしょう。それで? 逃

げられこそしても、何か情報の一つくらいは掴んできたんでしょう?」

「ああ……。少なくとも今回、二つのことが確認できた」

 ピッと、ジャンキーは二本指を立てながら言った。鼻先に引っ掛けたサングラスの隙間か

ら目を覗かせ、一旦黙った残り二人を従えて話し出す。

「一つは、守護騎士ヴァンガードが学園にいるってのは違いないこと。こいつが馬鹿正直に乗り込んだっ

てのもあろうが、奴はただそれだけで俺達が忍び込んできたことを察知したみたいだった。

やはり奴ら、俺達が人間じゃねぇことを分かってやがる」

「……二つ目は?」

「“奴は奴ら”だってことさ。蝕卓そっちでも既に把握してることかと思うが、奴には協力者がいる。

部下──いや、仲間か。そういう認識じゃなきゃわざわざ身を挺して雑兵を庇う必要な

んてねぇ。俺とトレ坊が戦ってる途中、あいつらはぞろぞろやって来て加勢しようとしてた。

奴と違ってコンシェルに同期しただけの戦力だが、こっちに攻撃を当てて来れるってこと

は奴らも真造リアナイザを用意できる技術があるってこった」

 薄眼鏡の奥でスッと目を光らせ、ラースは静かに口元を押さえて黙っていた。

 思案しているのだろう。これまでの自分達の情報と、ジャンキー達が持ち帰ってきた中間

報告。そこから導き出せる仮説は一つだ。

「やはり何か、組織的な抵抗勢力が存在していると考えるべきですね」

 口調は丁寧だった。だがその声音は少なからず“怒り”が含まれている。

「──」

 そう、面々が話をしていた最中である。カツンカツンと、ふとフロアの奥から靴音を鳴ら

して近付いて来る者があった。

 ラースと、ジャンキー達三人が視線や横目を向ける。気配で分かる。此処を、この時間を

知っているということは侵入者ではない。

「お? 今頃来たか、ガンズ」

 逆さ帽子の少年が言う。はたしてその人物は、本来召集された四人目の刺客だった。

 テンガロンハットを目深に被り、ちらっとツイストパーマの前髪が片目を隠している。そ

の姿・格好は一言で表すならガンマン風と言っていい。

 だが呼び掛けられた当人──人間態のガンズ・アウターは随分と不機嫌だった。結んだ唇

は口角から吊り上がっており、眉間に寄った皺で見返す眼は苛立ちに満ちている。

「どうかしたか? 随分と気が立ってるじゃねぇか」

「……依頼しごとを邪魔された。ターゲットの動きをあの少年がズラしたんだ」

 カツカツとブーツの音を鳴らし、ガンズは近くの柱にどっかりと背中を預けた。ラース達

は最初その話と此処にやって来たことの整合性に疑問符を浮かべていたが、それもすぐに本

人の口から語られる。

「受けた依頼は必ずこなす。それが俺のポリシーだ。今度こそターゲットを始末して、お前

らと合流するが……その前に一つ伝えておいた方が良いだろうと思うことがあってな」

「何だ?」

「……遠目ではっきりとは確認していないが、その邪魔に入った少年は飛鳥崎学園の制服を

着ていた。もしかしたら連絡にあった、守護騎士ヴァンガードの正体ではないのか? どうしていち学生

があんな所にいたのかは分からんが」

 故に、ラース達は互いの顔を見合わせて目を見開いていた。特にジャンキーはまさかと、

灰髪の男の方を見遣って非難の眼差しを送っている。尤も当の本人はその意図に気付いてい

ないようだったが。

「その少年の特徴は?」

「遠目だったと言っているだろう。俺がスコープで視ていたのはターゲットの方だ。気付い

た時には狙いが外れて連中が右往左往していたよ。失敗した狙撃ポイントに長居する理由な

どない。今思えば、あれがもしかしたらと思っただけのことさ」

 あくまで自分の依頼しごとを優先する。良くも悪くも誇り高きスナイパー。

 ラースは気持ちくしゃっと表情かおを歪めていた。暴くべき相手はそこに居ると分かっている

のに、いざその時になると肝心の所まで手が届かない。

「今日はただそれを知らせに来ただけだ。俺は、これからもう一度ターゲットを追う」

 ま、待て──。だが呼び止めるよりも早く、ガンズは一人踵を返すと再びフロアの陰の中

へと消えていった。カツ、カツンと、場には残響した靴音とラース達だけが少し遅れて居残

るだけだった。

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