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サハラ・セレクタブル  作者: 長岡壱月
Episode-16.Father/狙撃手は何処だ
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16-(0) 見えない敵

「先生!!」

 二度に渡って黒塗りの車列を襲った何か。一つ目はタイヤを射抜き、もう一つは窓ガラス

から顔を覗かせた男性の頬を、僅か数センチの差で掠めていった。

 彼の乗る車両の前後から、黒服の男達と側近らしき茶スーツの運転手が現れて、彼に駆け

つけ守る。にわかにざわめき立った、一見何の変哲も無い堤防道。睦月も、居合わせつい危

険を叫んでしまった手前、半ば身体が勝手に彼らの方へと踏み出していた。

『おい、どうした? 睦月、何があった?』

「……あ、皆人。うん。今ちょうど前を通り掛かった車が撃たれた? みたいで……」

 司令室コンソールに映った現場。香月が小さく「どうして……?」と彼の男性の名前を呟くのを肩越

しに、皆人は睦月に呼び掛けていた。小走りで近付きながら、睦月は自身もまだいまいち状

況を把握し切れていないようで困惑している。

「先生、お怪我は?」

「あ、ああ。何ともないよ。さっきあの子が叫んでくれたお陰だ」

 留まっていては危ないと判断したのだろう。スーツ達により車から降ろされ、ぐるりと周

りを囲まれながら庇われつつ、この男性──文教大臣・小松健臣は言った。ちらと内何人か

がおずおずと近付いて来る睦月を見遣り、睨んだ。怪しんだが、当の健臣の手前、露骨に追

い出しに掛かる訳にもいかない。

「何処から撃たれたか分かるか?」

「いや、さっきから探しているが見当たらない。もっと遠くからじゃないだろうか」

 ……つまりこの人は狙撃されかかったということか。睦月はぐわぐわと揺れる頭の中でそ

う要約した。スーツ達の何人かが健臣の円陣より外れて辺りを探し始めている。睦月もこっ

そりその中に混じり、且つ彼らから少し離れた堤防道に視線を落とし、ややあって一角にそ

っと煙を散らしながら空いている穴を見つける。

『それが、その撃たれた時の弾痕か』

「多分そうだと思う。直前に向こう岸がキラッと光ってさ。それで思わず危ないって、あの

人に叫んだんだ」

 じっと通信の向こうで皆人が画面をズームにしている。睦月もスーツの男達に咎められな

いよう息を殺して屈み、この土道に空いた穴を見る。煙も出ていて真新しい。先程の銃撃に

よるものと見て間違いなさそうだ。

「おじさんは……大丈夫そうだね。無事でよかった」

『ああ』

『マスター、マスター!』

「うん?」

『この穴、アウターと同じエネルギー反応があります。現在進行形でどんどん薄くなってい

ってますけど、間違いありません』

 何だって?!

 だがそうして一先ず胸を撫で下ろしていた時、ふとパンドラが懐の中から小声で呼び掛け

てきた。何かと思ってスーツ達から隠すように取り出し、応じてみれば、まだ考えてもいな

かった可能性を彼女は確信を持って明言する。

『アウターが、彼を? つまり暗殺か?』

『……』

 司令室コンソールの皆人達が静かに息を呑む気配がした。加えて声こそないが、その場に同席してい

る香月もまた、画面の一点を見つめたまま先程からずっと押し黙ってしまっている。

「暗、殺? う、うん。そりゃあ狙撃ってことはそういうことになるんだろうけど……」

 インカムに軽く指先を触れ、睦月は頭に疑問符を浮かべている。やはり彼自身はまだ目の

前の人物の正体に気付いていないらしい。

 すぐに此処から離れるぞ──! スーツの男達が言い合い、またバタバタと動き出そうと

していた。先生。茶スーツの側近が健臣を促し、撃たれずに済んだ後方車両へと案内しよう

とする。睦月はそれをぼうっと眺めていた。眺めて、この一発を撃ち込んできたであろう向

こう岸の町並みに目を凝らす。……勿論、この距離からでは人の姿など視認できる筈もない

のだが。

「……いや、少し待ってくれ。せめて恩人に礼の一つぐらいは言っておかないとな」

 だがそんな当ても付かない視線は、ふと当の健臣ほんにんから投げられた言葉で中断させられた。

睦月も気付き、彼と、その取り巻き達の近付いて来る姿に眼がゆく。皆人が、香月が、司令室コンソール

の面々も画面越しにこの接触を目撃しようとしていた。


「──」

 微かな、ほんの微かな舌打ち。

 遠く向こう岸のビルの屋上から、長銃型の腕を持つ怪人が人知れずその場を離れて行くの

を、誰一人気付くこともないまま。

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