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サハラ・セレクタブル  作者: 長岡壱月
Episode-15.Father/来訪者と第二幕
114/526

15-(5) 仲間打ち

(……怪しい)

 休み時間はあっという間に終わり、授業は再開されていた。

 あれから一齣、二齣目。しかし先刻の不審者騒ぎの最中、気付いた時には睦月と皆人、そ

して國子の姿までもがなくなっていた。


『はい。どうやら具合を悪くされたようです』


 最初いなくなった事に気付き、宙はまだ教室にいた國子に訊ねると、彼女はそう事なげも

ないという風に答えた。退院したけれど、まだ傷が痛むのか……? なら自分もと保健室に

顔を出そうとしたが、それを彼女と時間切れのチャイムが阻んだ。

 嘘だ。半ば直感的には宙は思った。元より例の火災に巻き込まれたという一件から、彼ら

のことは間違いなく疑ってかかっている。幼馴染を信じてやれない自分を恥じる気持ちもな

くはなかったが、それでもやはり自分達に相談もせずに何か危ない橋を渡っているらしいと

いう事実、全部を背負い込んで自分達に関わらせないようにしているそのやり方が、宙には

どうしても気に食わなかった。

「……」

 一見する限り真面目に授業を受けている海沙も、しかしよく観察すれば不安にその横顔を

曇らせていた。時折そんな宙と、視線越しに交わって互いの気持ちを察し、大丈夫だよと本

当に思ってもいない慰みの眼などを返す。

(また三条家の手伝いってやつ? こんな授業の真っ只中に?)

 疑いは膨らむ一方だった。急にフケて、一体何をやっているのだろう?

 それでもきっとあいつらは話してくれないのだろう。何かは分からないが、自分や海沙に

踏み込ませれば、巻き込んでしまうと思っているのだろう。伊達に何年も付き合いがある訳

じゃない。こういう時の思考だって、大よそ見当はつく。

(優しさのつもりなんだろうけどね……。そんな遠慮、却って迷惑だよ)

 むすっと片肘をついて頬を膨らませている。老齢な古典教師の話し声など、もう十分の一

とて頭に入って来ない。

 そんな場合じゃない。大切な友のピンチだ。休み時間には不審者がどうのこうのと聞いた

し、気が気ではない。

「……」

 ちら。横目を遣ってやはり海沙が心配そうに眼を遣って来ているのが見えた。考えている

ことは大体同じなのだろう。……全く、水臭いったら余計なお世話ったら。

「先生。ちょっとトイレに行って来ます」

 だからややあって、ようやく宙は意を決した。ガタッと席から立ち上がってそれだけを言

うと、一人すたすたと教室を後にしてゆく。うん? ああ……。数テンポ遅れて板書途中か

ら振り向いた古典教師の反応などもう耳にも入らず、遣られる海沙の不安げな眼差しを背に

受けながら、宙はその足で一人廊下へと小走りに駆け出していく。


「居ないなあ……」

 しかし肝心の睦月達の行方は、ようとして知れなかった。校内は授業中で廊下も人気が皆

無な筈なのに、彼らの姿は何処にも見当たらない。

「校舎の外かな? あいつら、また面倒な事に首を突っ込んで──」

 そうして内心徐々に焦り、一歩また大きく踏み出そうとした次の瞬間だったのだ。はたと

背後からコツコツと一人分の靴音が聞こえてきた。宙は思わずその足を止めて、半ば反射的

にその足音の主に振り返る。

「わっ!?」

「うわっ!? ……何だ、大江っちか。どったの?」

「そ、そっちこそ。い、今は授業中だぞ?」

 仁だった。彼は急に振り向いてきた宙に驚き、宙もその上げられた声に思わず反応してし

まう。ホッとしたような、肩透かしを食らったような。宙は訊ねたが、仁もまた同じように

問いを返してくるのみ。暫し二人は、そのままその位置に立ち尽くして黙り込んでしまう。

「……もしかして、あんたも睦月達を探しに?」

「えっ? あ、ああ。まぁそんなとこ」

 そうして先に口を開いたのは宙だった。

 だが仁は、そう話を合わせつつも、内心さっきからずっとひやひやしっ放しだった。

(……。やべえ)

 彼は宙が一人教室を抜け出す所を見て、これは拙いと追い掛けてきただけなのだ。詳細は

皆人や國子から伝え聞いている。彼女はこの前の睦月の入院で、自分達の活動──秘密裏の

戦いについて疑いを持ち始めていると。

 二時限ほど前に伝わってきた不審者の報は、アウターだった。

 どうやら睦月──守護騎士ヴァンガードが学園生であるとの情報を得て、直接刺客を送り込んできたら

しい。それでも学園自体に目立った攻撃がなかったことを考えると、向こうも肝心の正体ま

ではまだ分かっていないのか。今頃睦月は、皆人ら司令室コンソールの面々のサポートを受けてそのア

ウター達を学園から引き離している筈だ。

 しかし仁や國子はその現場には同行していない。皆人から、今回はなるべく睦月一人が前

に出た方がいいと指摘されたからだ。

 相手の目的は間違いなく守護騎士ヴァンガード──に変身する学園生X。どうやら面までは割れていな

い以上、自分達リアナイザ隊という繋がりを示すような行動は控えるべきだというのだ。隊

士が直接現場に駆けつければ、面が割れる。その点睦月は、少なくとも変身している間は、

その正体までは分かるまい。

「ふぅん……?」

 ぐるぐると回る仁の思考。だがそんな内心など知る由もなく、しかし宙の向けてくる眼は

そこはかとなく怪しむようなそれだった。

 そっと冷や汗をかく。それを彼女は暫くじっと目を細めて見つめている。

「ねえ。大江っちは知ってる? 睦月が皆っちの家の手伝いをしてるっていう話」

「うん? あ、ああ。話だけなら、まあ」

「でも怪しいんだよねえ。絶対何か絶対隠してる。それもあいつらなりの気遣いなんだろう

けど、こうも遠ざけよう遠ざけようとされると逆に気になっちゃうって」

「……」

 ああ、やっぱり。

 仁はだくだくと冷や汗を増していた。やはり彼女への要注意は間違っていなかったのだ。

 皆人は不審者の正体がアウターであると判ってから程なく、学園内の隠し通路から地下の

司令室コンソールに向かった。自分と國子はその間、海沙と宙を見張る役を任された。一時すぐ手前ま

でやってきた敵の脅威に、その危ない好奇心に、これ以上火を点けさせないように。

「そもそも手伝いって何なのさ。普段はあんまりそれっぽい感じ出さないけど、天下の三条

電機だよ? 生易しい仕事じゃないと思うんだよねえ」

「……」

 困った。

 さて、一体どうすれば誤魔化せる……?

「──がっ?!」

 だが、ちょうどそんな時だったのだ。次の瞬間、目の前で宙が突然白目を剥いて倒れ込ん

で来たのである。

 慌てて仁はこれを受け止めた。だらりと、その身体は完全に脱力している。

 朧丸だった。彼女の背後からヌッと現れた──ステルス能力を解いたのは、同期した國子

のコンシェル・朧丸だった。どうやらかわし切れないと判断し、素早く当身をしたらしい。

『……』

 ガチリ。

 鞘に収まったままの太刀の柄を握り、般若面の武者は佇む。

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