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サハラ・セレクタブル  作者: 長岡壱月
Episode-15.Father/来訪者と第二幕
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15-(3) 悩ましき日に

「よう、佐原。聞いたぜ? また入院してたんだってな」

「災難だったなあ。春先に続いて二度目かよ。お前、もしかして何か呪われでもしてんじゃ

ねぇの?」

「あはは……」

 翌日。クラスメイト達に迎えられて睦月は何時もの日常に帰って来た。ニヤニヤと笑い飛

ばしてくる彼らに苦笑いを返す。もしかしたら欠片でも怒ってみせた方が良かったのかもし

れないが、真面目に怪しまれるよりはずっとマシだ。

 玄武台襲撃あんな事件があったにも拘わらず、一見すると学園は平常を保っていた。時間割通り

に針は進んでゆく。余所の学校の事件だから、なのだろう。だが登校時、正門に詰める警備

員の数が普段より多いように思えたのは気のせいではなかった筈だ。

「──では、今日はここまで。各自予習・復習を怠らぬように」

 鳴り始めたチャイムに反応して、そう堅物の化学教師がカツンッと板書する手を止めて言

った。てきぱきと卓の上の教材をまとめ、足早に立ち去っていく。

 ざわ……。すると直後、教室内の空気がドミノを崩すように弛緩した。本日二回目の休み

時間。クラスの面々は緊張から解き放たれ、束の間の休憩に身を預ける。

「ふぅ」

 睦月も、教科書やノートを机の中にしまって小さく息をついた。授業態度こそ真面目であ

った筈だが、それでも本当に集中できていたかどうかは怪しい。

(うーん。どうしたもんかな……)

 海之は昨夜、実家に泊まることもなく宿に戻って行った。彼曰く今回戻って来たのは街を

訪れる要人の案内の為らしい。彼を含めた何人かの飛鳥崎出身者が、省内から急遽抜擢され

たのだそうだ。

 ……それよりも。睦月は退院してからずっと頭の隅に留めていることがある。

 宙と海沙のことだ。タウロスとの戦い、赤の強化換装に失敗した時、二人やおじさん達に

は随分と心配を掛けてしまった。それだけではない。後で皆人から聞いた話では、宙が自分

達の活動を訝しみ始めたのだという。

 三条家うちの手伝いをして貰っている──その時はそう繕ったそうだが、宙達は大層お冠だっ

たという。誰かに狙われているんじゃないか? とも詰め寄ったらしい。

 彼女なりの優しさなのか、はたまた単純にこちらに話が伝わっているのを知らないのか。

 少なくとも今は、もう露骨に機嫌が悪いようには見えないが。

 ……バレる訳にはいかない。

 正直気は進まないが、場合によっては海沙だけでなく、宙にもリモートチップを埋め込ま

ねばならなくなるのかもしれない。

「皆人、次って音楽だっけ?」

 だから睦月は、気を紛らわせるように隣列席の皆人に話しかけていた。机の中に教科書な

どをしまい終わり、何となく間を繋げるように言う。

「……」

「皆人?」

「? ああ……。そうだったか?」

「違いますよ、皆人様。それは四時限目です」

「む? そうか」

 だがその皆人本人は、何だか反応が鈍かった。

 上の空、という奴なのだろうか。つい生返事をした直後、二人のやり取りを聞いていたら

しい國子に指摘されてそっと我に返る。

「……?」

 睦月もまた虚を突かれた感じだった。頭の上にちょこんと疑問符が浮かぶ。

(しまったな。今ので睦月に怪しまれなければいいが……)

 内心、皆人は迷っていた。なすべき事と、伝えるべきか否か。二つの二つに挟まれて今朝

からずっと思案で手一杯になりかけていたのだ。

 昨夜父・皆継から報告があった小松文教相への対応、自分達の戦いに怪訝の眼を向け始め

た宙への対処。そしてこの事を、睦月に伝えるべきか否か。

 肘をついた手で口元を押さえながら、皆人は密かに嘆息を吐き出していた。ちらと視線を

外に遣れば体育らしき生徒達がちらほらとグラウンドに出始めている。

 ……やはり、こいつにはまだ話さないでおこう。

 それは父から任された新たなる重荷であると同時に、友人としてのエゴなのだろう。

「ねぇねぇ、聞いた?」

「聞いた聞いた。ブダイの校長、クビになるんだってね」

「そりゃああれだけ大っきな事件になったんだもん。誰かが責任取らなきゃ収まらないよ」

 一方で、教室内にはひそひそと、控え目ながらも着実にその噂が広まっていた。

 先日起こった玄武台高校の襲撃事件。メディアでも連日報道された、見るも無惨に崩壊し

た校舎の様はたちまち飛鳥崎内外の人々の知る所となり、つい昨日には校長の依願退職──

事実上の免職が決まったばかりだった。

『──』

 ざわ、ざわ……。動揺は静かに広がっている。それは他校である学園も少なからず、この

クラスもまた例に漏れない。そして海沙や宙も、そんなクラスメート達の微妙な変化に気付

かない訳はないし、その重苦しさに少しずつ呑まれつつあった。

「……物騒なニュースが続くわね」

「そうだね。やっぱりむー君が巻き込まれたのと、何か関係があるのかなぁ」

 ひそひそと二人して向こう側の睦月と皆人、國子を観る。

 だが遠巻きに見る限り、この幼馴染達の様子は普段とあまり違わない。いつも通り過ぎる

くらい穏やかだし、いつも通り寡黙で感情を表に出さないし、いつも通り自身の主たる御曹

司にピッタリと付き従っている。

「? 何だか騒がしいわね……」

 そんな時だったのだ。ふと気付くと、それまでのざわめきとはまた別に、困惑にも似た生

徒達の気色が伝わってきた。外だ。廊下の外から、順繰りに伝染してきた異変を確かめてき

たクラスメートが戻って来て、叫ぶ。

「おい、大変だ! 中庭の方に不審者が出たらしいぞ!」

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