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サハラ・セレクタブル  作者: 長岡壱月
Episode-15.Father/来訪者と第二幕
109/526

15-(0) 呼ばれた者

▼シーズン2『Another one Vanguard』開始

 街の喧騒を遠くに、そのビルは建っていた。何年も人の手が入っていないらしく、内部に

は痛みかけた柱が点々と並び、放置された大小の機械と共に昼間ながら幾つもの暗がりを作

っている。

「……来ましたか」

 そんな人気の無い只中に立っていたのは、薄眼鏡をかけた神父風の男だった。以前、二度

に渡り守護騎士ヴァンガードと相対した、アウター達幹部の一人である。

「よう。久しぶりだな、ラース」

 近付いて来る足音に半身を返し、彼──ラースは静かに振り返った。昼間に差す柱の影を

ゆらりと抜けて、声の主達が姿を現す。

「この俺を呼び出すとは……。一体、どんな難物だ?」

 一人目は丸いサングラスを掛け、袖なしのジャケットと半袖シャツを合わせたチンピラ風

の男だった。

「ならば好都合。猛者であればあるほど、滾るというもの」

 二人目は灰色の髪の、古びた胴着を着崩した彫りの深い大男だった。

「まぁ、オイラ達が来たからには心配要らねぇぜ。何たって兄貴がいるんだからな」

 三人目はサングラスの男に付き従うように威を借る、数個のバッヂをあしらい逆向きに帽

子を被った少年だった。

 そして四人目。テンガロンハットを被った──。

「? 一人足りませんね。ガンズはどうしました?」

「ああ、それなんだがな。伝言を預かってる。先に今受けてる依頼しごとを片付けてから合流する

ってさ」

「……そうですか」

「全く、何考えてるんだか。蝕卓ファミリーからの命令は絶対なのに」

「同感だ。そこまでして一体金の何がいいのだろう」

 呼び出した刺客は合わせて四人。だがその内の一人は身勝手にも指定したこの時間・場所

には現れなかった。サングラスの男がそう伝言をつたえて来、逆さ帽子の少年と灰髪の男も

それぞれ肩を竦め、軽んずる。

「仕方ありませんね。彼には後でこちらから伝えておきましょう。それよりも早速本題を。

今回貴方達を呼んだのは他でもない。ある者の正体を調査──して貰いたいからです」

 されどラースはすぐに頭を切り替え、彼らに数歩進み出た。言いながら黒衣の懐から一枚

の写真を取り出し、彼らに見せる。

守護騎士ヴァンガード──噂くらいは聞いたことはあるでしょう? 今回貴方達には彼の素性を調べて

貰いたい。明らかにした上で、始末して貰いたい」

 ぴらっと示されたのは、土煙の中に半分隠れて映る、白亜のパワードスーツだった。

 おそらく撮られた時期としてはボマーの一件。写真の中の守護騎士ヴァンガードはこちらには背を向け

て横顔だけを見せ、視線は更に奥の何かを見据えているようにもみえる。

「ほう? あの……」

「相手にとって不足はなし、だね」

「例の同胞達を片っ端からぶっ殺してる奴だな。それで? まさか手掛かりのての字も無い

って訳じゃあないんだろう?」

「ええ。先程も話したように、声からして中身は男性です。そしてこれまでの我々の情報網

によって、彼は飛鳥崎学園の生徒であるらしいということが分かっています」

 へえ……? 答えられて、サングラスの男が片眉を上げた。想像していたよりもその正体

が歳若いと知って意外だったのだろう。逆さ帽子の少年はそれだけで「へっ」と侮り、灰髪

の男は腕組みをしたままこの写真を見つめている。

「先ずは、その正体を明らかにすることを優先しなさい。知っての通り、彼にはこれまで多

くの同胞達が斃されました。今後の為にも外堀から埋めます。身元さえ分かれば、どうとで

も攻める手立てがありますからね」

「ん……。りょーかい」

 写真を受け取り、サングラスの男はにやりと口角を吊り上げた。逆さ帽子の少年がこれに

倣って両手を頭の後ろに組んで不敵に笑い、灰髪の男もそっと腕を垂れて胴着の襟を引っ張

り直した。

「任せておけ。守護騎士ヴァンガードの正体、この俺が露わにしてやる」

守護騎士ヴァンガードか。ふふ……久しぶりに骨のある相手と戦えそうだ」

 嗤う。

 幾つもの影が差すビルの一角で、刺客達は動き出した。

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