15-(0) 呼ばれた者
▼シーズン2『Another one Vanguard』開始
街の喧騒を遠くに、そのビルは建っていた。何年も人の手が入っていないらしく、内部に
は痛みかけた柱が点々と並び、放置された大小の機械と共に昼間ながら幾つもの暗がりを作
っている。
「……来ましたか」
そんな人気の無い只中に立っていたのは、薄眼鏡をかけた神父風の男だった。以前、二度
に渡り守護騎士と相対した、アウター達幹部の一人である。
「よう。久しぶりだな、ラース」
近付いて来る足音に半身を返し、彼──ラースは静かに振り返った。昼間に差す柱の影を
ゆらりと抜けて、声の主達が姿を現す。
「この俺を呼び出すとは……。一体、どんな難物だ?」
一人目は丸いサングラスを掛け、袖なしのジャケットと半袖シャツを合わせたチンピラ風
の男だった。
「ならば好都合。猛者であればあるほど、滾るというもの」
二人目は灰色の髪の、古びた胴着を着崩した彫りの深い大男だった。
「まぁ、オイラ達が来たからには心配要らねぇぜ。何たって兄貴がいるんだからな」
三人目はサングラスの男に付き従うように威を借る、数個のバッヂをあしらい逆向きに帽
子を被った少年だった。
そして四人目。テンガロンハットを被った──。
「? 一人足りませんね。ガンズはどうしました?」
「ああ、それなんだがな。伝言を預かってる。先に今受けてる依頼を片付けてから合流する
ってさ」
「……そうですか」
「全く、何考えてるんだか。蝕卓からの命令は絶対なのに」
「同感だ。そこまでして一体金の何がいいのだろう」
呼び出した刺客は合わせて四人。だがその内の一人は身勝手にも指定したこの時間・場所
には現れなかった。サングラスの男がそう伝言をつたえて来、逆さ帽子の少年と灰髪の男も
それぞれ肩を竦め、軽んずる。
「仕方ありませんね。彼には後でこちらから伝えておきましょう。それよりも早速本題を。
今回貴方達を呼んだのは他でもない。ある者の正体を調査──して貰いたいからです」
されどラースはすぐに頭を切り替え、彼らに数歩進み出た。言いながら黒衣の懐から一枚
の写真を取り出し、彼らに見せる。
「守護騎士──噂くらいは聞いたことはあるでしょう? 今回貴方達には彼の素性を調べて
貰いたい。明らかにした上で、始末して貰いたい」
ぴらっと示されたのは、土煙の中に半分隠れて映る、白亜のパワードスーツだった。
おそらく撮られた時期としてはボマーの一件。写真の中の守護騎士はこちらには背を向け
て横顔だけを見せ、視線は更に奥の何かを見据えているようにもみえる。
「ほう? あの……」
「相手にとって不足はなし、だね」
「例の同胞達を片っ端からぶっ殺してる奴だな。それで? まさか手掛かりのての字も無い
って訳じゃあないんだろう?」
「ええ。先程も話したように、声からして中身は男性です。そしてこれまでの我々の情報網
によって、彼は飛鳥崎学園の生徒であるらしいということが分かっています」
へえ……? 答えられて、サングラスの男が片眉を上げた。想像していたよりもその正体
が歳若いと知って意外だったのだろう。逆さ帽子の少年はそれだけで「へっ」と侮り、灰髪
の男は腕組みをしたままこの写真を見つめている。
「先ずは、その正体を明らかにすることを優先しなさい。知っての通り、彼にはこれまで多
くの同胞達が斃されました。今後の為にも外堀から埋めます。身元さえ分かれば、どうとで
も攻める手立てがありますからね」
「ん……。りょーかい」
写真を受け取り、サングラスの男はにやりと口角を吊り上げた。逆さ帽子の少年がこれに
倣って両手を頭の後ろに組んで不敵に笑い、灰髪の男もそっと腕を垂れて胴着の襟を引っ張
り直した。
「任せておけ。守護騎士の正体、この俺が露わにしてやる」
「守護騎士か。ふふ……久しぶりに骨のある相手と戦えそうだ」
嗤う。
幾つもの影が差すビルの一角で、刺客達は動き出した。




