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サハラ・セレクタブル  作者: 長岡壱月
Episode-14.Justice/正義感症候群
101/526

14-(0) 暴走する力

 咆哮と、渦巻いて空へと舞う炎。

 瞬く間に睦月は文字通り火だるまと化し、大きく跳び上がるとタウロスに襲い掛かった。

一切の加減を知らない熱量。盾代わりにした戦斧が濃い紅蓮を通し、より黒ずんで映る。

「くぅ……ッ!!」

 それでも、相手は電脳の怪物、剛の者か。

 睦月という今や炎の塊とでもいうべき相手と打ち合っても、その両脚はどしりと地面を捉

えて退かない。寧ろ後ろの勇を何としてでも守らんとするよう踏ん張っている節さえある。

 夜の路地、ビル群に切り取られた空。

 そんな闇色に割り込む守護騎士かれの火だるまの拳を、タウロスはぐぐっと一旦戦斧ごと押し

留めると弾き返す。

『睦月!』「これは……」

「押すには、押してるけど……」

 だがこの彼の豹変を、仲間達が見逃す筈もない。

 同じ現場の目の前で、司令室コンソールから、面々の動揺は伝播している。

「違う……。これは私達が想定した換装じゃない」

『えっ?』

 更に司令室コンソールの画面前に張り付いて、香月がごちた。同じ白衣の研究仲間や職員達、皆人も

が目を丸くして彼女を見、即座にその意味を知る。

「暴走している。換装に失敗したんだわ」

 その間も睦月は火だるまになったまま、何度となくタウロスに向かっていく。

 しかし香月が言った通りなのだろう。その動きは破れかぶれというか、明らかに理性的な

戦いには見えない。当のタウロスもそれは理解し始めていて、受け止めるよりもかわす方へ

と捌き方を切り替えている。

『國子ちゃん、ワクチンを使って! このままじゃあの子が死んじゃう!』

 香月の、母の悲痛な指示さけびだった。

 インカム越しに伝わるその言葉。仁らリアナイザ隊士達が一斉に顔を向けてくる中、國子

は一旦朧丸の召喚を解除すると、事前に受け取っていたリリースワクチン入りのディスクと

自身のデバイスを入れ替えた。

 再起動させた調律リアナイザの銃口を戦う──暴れている睦月に向けて引き金にじりっと

指を掛ける。だが本人が動き回っているのと、何より彼から生まれ、辺りに渦巻く炎が激し

さを増す一方なために中々狙いが定まらない。

「ラァッ! アァッ!」

「……こいつ、本当に正気が……」

 渦巻く熱量を孕んで繰り出される拳。だが言い換えればそれはワンパターンでもあった。

タウロスはあくまで勇を庇うようにして立ち回り、炎の途切れた箇所を狙っては柄先を打ち

込んでこれを幾度となく弾き返している。

「陰山さん、早く!」

「分かってます。でも……」

 戦えば戦うほど、届かねば届かぬほど激しく燃え盛っていく睦月の炎。

 まるで膨張するように燃え盛るその範囲は増していった。気付けば当の二人を目で捉える

のも難しくなるほど、その激しさは敵味方に関わりなく猛威を振るう。轟々と、噴き出した

炎の先が路地のあちこちでビルや電線に燃え移っていく。

「……やっべ」

 そして近くのビルの屋上でこれを見下ろしていたグリードも、グラトニーと共にそそくさ

とその場を逃げ去っていく。

 見上げれば炎は辺り一帯を包み込んでいた。それでも二人、暴走した睦月は止まらない。

 くっ……! 時間が無かった。國子はタイミング良く射線上を走っていく彼に向かって意

を決して引き金をひき、撃ち出された半透明の光球が真っ直ぐに飛んでいく。

 睦月! 仲間達が呼ぶ。炎に巻かれて、それでも彼を何とかしたくて、だけどもそこから

一歩すらも満足に進めなくて。

 轟。膨張する炎。その噴き先は次々に周囲へとぶつかり、焦がして破壊し、加速度的に空

間を紅蓮に染めて一つにならんとする。届いたか、届かないか。光球が睦月の方へと吸い込

まれていったのが見えたが、そこまでだった。

『──ッ!?』

 爆ぜた。遂に燃え移った炎達はビル群の何かしらに引火し、大きな爆発を起こして辺りを

一気に吹き飛ばしたのだった。


 悲鳴。

 國子が、仁が、リアナイザ隊の面々が。司令室コンソールの皆人や香月達が。庇うように咄嗟に勇を

抱え込んだタウロスが。

 膨れに膨れ上がった炎は、場にいた者全てを巻き込んで。


 爆風。

 敵味方の区別もなく、暴走する力は路地一つをごっそりと呑み込んだ。

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