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浅葱色の縁(えにし)  作者: 高嶺 あやな
壱章・陰(いん)の花 陽(よう)の花
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突然の果たし状

高梨日向が無断で朝稽古から消えた日から数日が経った。

日向はあの次の日からまるで何事も無かったかの様に部活に顔を出している。

勿論、元気を始め他の部員達もあの日の事には一切触れない。


いつもの場所。いつもの放課後。いつもの空気。


ー高梨先輩。あの日は一体何だったんだろうなぁ。元気も先輩が怖いのか、あの日の事には触れないようにしてるみたいだし、結局何にもわかんないままなんだよね。ー


休憩の為に道場の片隅に正座した美緒は面を外し自分の前に置くと、目の前でいつもと変わらず元気とじゃれ合いながら稽古している日向の楽しそうな姿をボーッと見詰めた。


ーああ、それも気になるけど、そんな事より生徒手帳どうしよう!結局見付からないままだし、誰か拾ってあの写真見られたりしたら!?それだけならまだしも、そこから噂になって事もあろうにもしも高梨先輩本人の耳に入っちゃったりしたら!?ー


そう考えながら顔を青くする美緒と、その時バチッと日向の目が合った。


ーえっ?ー


美緒が(きょ)()かれた様になっていると、日向はニッコリとこれ以上無い笑顔を向けてくる。

自分でもコントロールする前に青くなった顔に今度は一気に全身の血が集まる。


ーわ〜っ!ダメダメ!赤くなっちゃダメ!ー


必死に紅潮した顔を押さえていると、気付いた時には目の前に腰を屈めて心配そうに覗き込む日向の顔があった。


「佐倉、どうしたの?体調悪い?」


そう言うとそのまま自分の額を美緒の額にくっ付けた。


「ちょ、ちょ、ちょっ!せ、先輩っ!」


言うまでもなく美緒の顔面は更に火を噴いた様に熱くなった。


「う〜ん。ちょっと熱いね。熱あるかもしれない。」


そう言いながら日向は美緒の耳許に唇を寄せる。


「このままキスしちゃったら、少しは良くなるのかな?」


日向がそう囁いて美緒が完全にフリーズしてしまった時だった。

日向の脳天を元気の竹刀が割った。


「いっ!・・・・・ってぇぇぇえ!」


両手で頭を抱えた日向が叫ぶ。


「『いっ!・・・・・ってぇぇぇえ!』じゃありません。高梨先輩、

美緒で遊ばないで下さい。」


もがく日向の背後から竹刀を肩に掛け仁王立ちした元気が言う。


「ごめんごめん。元気、許して?神様!仏様!元気様!」

「許しません!」

「元ちゃ〜ん。そんな冷たい事言うなって〜。」


そしてまたじゃれ合い始めた二人に呆気にとられていると、入り口から顧問教師の平方(ひらかた)が入って来た。


「こらっ!高梨!板坂!またお前らは遊んでるのか!ちゃんと稽古しろといつも言ってるだろ。」


言いながら平方は日向と元気の頭を一発ずつ小突くと、部員全員に召集をかけ、日向と副部長の棚部(たなべ)を先頭に列を作らせその場に座らせた。

2年生の美緒もその指示に従って真ん中の列に正座する。


「今日は皆に大切な連絡がある。」


皆が着座したのを確認し、平方は口を開いた。


「今週の土曜日だが、高等科剣道部と合同練習を行う。」


「合同練習?」


その発表に俄に道場内がざわめいた。


「そうだ。日常の練習ではやはりマンネリ化するものだ。たまにはいつもと違った相手と練習する事でお互いを高めるのも大切だという話になった。」


変わらずざわめく部員達の中で、ずっと黙って話を聞いていた日向が急に言葉を発した。


「先生。それは誰からの話ですか?」


ただ短くそう訊ねた。


「高等科剣道部部長の保科だ。」


その答えを聞いた日向の横顔が険しく唇を結んだ。

見ると正座した袴の上の両手がそのまま袴を握りしめた。


ー高梨先輩?ー


日向のその反応に少し違和感を覚えた美緒だったが、日向はそれ以上口を開く事は無かった。


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