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浅葱色の縁(えにし)  作者: 高嶺 あやな
壱章・陰(いん)の花 陽(よう)の花
4/51

不機嫌な白百合

ーやばい!やばい!やばい!やばい!ー


勢い良く道を駆け抜ける体に、真正面から体当たりして来る向かい風が行く手を少しだけ阻む。

遅刻しそうな時程、どうしてこうも普段気にも止めない風一つも気になってしまうものなのだろうかと美緒は思う。


ーう〜。昨日は高梨先輩の事で結局あんまり寝られなかったよ。ー


考えた所で何の打開策も見つからないと解っていながらついつい考え(ふけ)ってしまう事は良くある事だが、美緒としても昨夜は少し耽り過ぎてしまったと今更ながらに反省する。


美緒の所属する誠蘭中学剣道部は、毎朝授業前に一時間程朝稽古をするのが慣わしとなっている。


「どうしよう!高梨先輩普段は優しいけど、稽古の事になるとめちゃめちゃ厳しいもんなぁ。遅刻したら怒られるよなぁ。」


そうこう走っているうちに、武道場の入り口が見えて来た。

隔てられた窓の向こう側からは竹刀の打ち合う音が激しく漏れ聞こえている。


「ああ!やっぱりもう始まってる!」


日向のお説教確定を確信して項垂(うなだ)れながら武道場の入り口に美緒が辿り着いた時、丁度中から入り口横の水飲み場にやって来た胴着に袴姿の板坂元気(いたさかげんき)出会(でくわ)した。


「あれ?美緒、居ねぇと思ったら遅刻かよ。」

「・・・うるさいなぁ。そういう日もあるわよ。」


全力疾走でここまで走り抜いてきた美緒には今朝の太陽の様に陽気に絡んで来た元気に反撃する気力さえ残ってはいない。


入り口で息絶えて転がる美緒の横に水を飲み終えた元気は胡座(あぐら)をかいて座った。


「お前が朝稽古遅刻なんてほんと珍しいな。」


名前の如く見るからに元気いっぱいのこの少年は、美緒の幼馴染みで年は美緒と同じ中学2年生。

美緒同様、日向に心酔していて毎日日向にべったりなのである。日向にも可愛がられていて実力もあるので、時期部長第一候補と囁かれている。


「・・・高梨先輩怒ってる?」


聞きたくないが、聞く他無い。


「いや。って言うか高梨先輩いないし。」

「えっ?」

「う〜ん・・・。正確に言うといたけどいなくなった?みたいな?」

「はぁ?何言ってるの?」


美緒が怪訝な顔を向けると元気は少し不服そうにその訳を話し始めた。


「聞いてくれよ。高梨先輩酷いんだぜ?更衣室でみんなで着替えてた時にさ、名前の話になったんだよ。」

「名前?」

「そう、名前!高梨先輩って下の名前日向って言うだろ?何か変わってるし、先輩に似合っててかっこいいですよね。って褒めたんだ。で、折角だからこれからは日向先輩って呼んでいいですか?って聞いたらさ、急にスゲー目で睨まれてさ、そのまま何も言わずに更衣室のドア壊れるんじゃねぇかって思うくらい勢い良く閉めて出ていったままいなくなっちゃったんだよね。」


確かに酷いと言うか、美緒にもよく理解出来ない話だった。


「あれじゃない?元気が後輩なのにあまりにも馴れ馴れしくし過ぎたとか。」

「高梨先輩、そういう事気にする人か?」

「そう言われちゃえばそうなんだけど・・・。」


元気の言う通り日向はそんな事で怒るようなタイプではない。

後輩にタメ口きかれたって笑って流してしまう様なタイプだ。


「だったら・・・お腹が痛くてトイレに行きたかったとか?お腹空き過ぎてたまたま機嫌が悪かったとか?」

「・・・お前・・・本当に俺の話真面目に聞く気ねぇだろ。」


元気が呆れて目を細める。


「兎に角、そういう事で高梨先輩はいねぇの。わかった?」

「う、うん。わかった・・・けど。」


美緒は頷きながら立ち上がり、元気の(あと)に続いて武道場内へと入って行った。




ーそれにしても高梨先輩、本当に何処行っちゃったんだろう。ー




結局その日、日向は放課後の稽古にも顔を出す事はなかった。





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