道端に咲く勘違い
ーうわ〜。何だかよく解らないうちに高梨先輩に送って貰う事になっちゃったよ。・・・緊張する。ー
速くなる鼓動を抑えながらチラリと自分の横を歩く日向を見る。
ーやっぱりかっこいいな。ー
背も高くて顔も良し、スポーツも万能。少し勉強は苦手な様だがそれでも成績が悪くてどうしようも無いと言う噂は聞かない。
寧ろ女子の間ではそのちょっと苦手な事があるという部分が全ての事に万能よりも近寄り難さが無く、そこに天性の人懐こさも手伝ってか"かっこかわいい"と人気だったりするのだ。
ー好き・・・なのかな。ー
自分に問いながら日向の横顔を見つめていると、急に振り向いた日向とばっちり目が合った。
「わっ!」
驚いて思わず日向から身を離した美緒の体を日向は引き寄せた。
次の瞬間には日向の胸の中で美緒の真っ赤な顔が湯気を上げていた。
ーちょ、ちょっと!これはどういう!?ー
混乱する美緒の頭上から日向のサラリとした声が聞こえて来る。
「佐倉?大丈夫?急に飛び出したら危ないよ?」
「へっ?」
拍子の抜けた声を上げながら日向の顔を見上げた美緒の横をシャーッと音を立てながら車が通り過ぎて行った。
と、同時に漸く状況理解の出来た美緒は恥ずかしさのあまり更に耳まで赤く染めた。
「すいません!ごめんなさい!ありがとうございます!」
御詫びと御礼がごっちゃになって何だかよく解らない事を言いながら美緒は日向から体を離す。
そんな美緒に日向はこれまたサラリととんでもない事を口にした。
「あれ?残念。もう少し抱きついててくれても構わなかったのに。」
これみよがしに満面の笑みを向ける日向に、今度こそ意識を飛ばしそうな美緒はそんなそんなと両手を胸の前で小刻みに振りながら日向から距離をとる。
「あ、あのっ!高梨先輩。本当にすいませんでした!私、もう少し行った所が家なのでこの辺で結構です。あ、ありがとうございましたっ!」
そう捲し立てる様に早口で言うと美緒はそのまま走り去ってしまった。
日向は暫くの間、呆気にとられた様にその様子を見つめていたが、取り残された道の片隅でプッと吹き出した。
「あははははっ!あそこまでしっかり反応されるとほんとからかい甲斐があるよなぁ。」
そして一人大笑いすると踵を返し、来た道を再び歩き出す。足許に転がっていた小石を軽く蹴り上げその小石を手中に収め、小さく呟いた。
「・・・でも、そこがかわいいかも。」