最終話
次の日、日曜日。あたしは三嶋とデートしている。埋め合わせにって三嶋から誘ってくれたのは、女の子のおかげ。
「へぇ、上手くいったんだ。よかったね」
「はい。木原さんにお礼を言っといてくださいって、あの子が」
結局、昨日告白しに行った女の子とパソコン部の佐々木君はうまくいったらしい。
あんなに振り回されたんだもん、どうせだから、上手くいってよかった。
昨日も来た小さな公園のベンチに、あたしと三嶋は肩を並べて座ってる。
いつになってもやっぱり、三嶋が当たり前にそばにいることは、新鮮で嬉しい。二日連続で三嶋に会えたんだから、振り回されたけど、あの子には感謝もしなきゃね。
冬の空気は冷たいけど、三嶋のそばにいるとそれすらも心地いい気がした。
でも寒いのはやっぱり寒い。身震いした拍子に、ひとつ、くしゃみが出た。
やばい、鼻の頭が赤くなってるかも、なんて考えてたそのとき。ふわり、と体が温かい三嶋の匂いに包まれた。
見ると、あたしの肩に、さっきまで三嶋が着てたコートがかかっていて。
状況がよく飲み込めなくて、あたしは二、三度瞬きを繰り返す。
そうしてやっと三嶋が寒がってるあたしに自分のコート貸してくれたんだって理解して、あたしは思わず笑ってしまった。三嶋がそんなあたしを見て少し赤くなっている。
「ど、どうして笑うんですか。そりゃあ、らしくないかもしれないけど……」
「あはは、違うの。まさかこんなことしてくれるなんて思わなくて、つい」
本当に意外だった。だってあの三嶋が、自分のコートかけてくれるなんて、まるで王道なことするんだもん。純粋で、恋愛慣れしてなくて、カッコいいことが全然似合わなくて、女心のわかってない三嶋が。
嬉しいのも手伝って、笑いは一向に止まらない。三嶋には悪いけど、笑いすぎて涙まで出てきた。普通の恋人同士なら普通に感動する場面なんだろうけど、そこはやっぱりあたしと三嶋。ムードも何もあったもんじゃない。
「……ボクだって、精一杯なんです。必死になって、みっともないかもしれないけど」
笑うあたしにちょっと気を悪くしたのか、三嶋がどこか拗ねたようにぽつりとこぼした。
らしくもなく、あたしにコートかけたりするのも。オタクのくせにアニメ見るのやめたりするのも、一生懸命に想ってるから。
――あたしだけじゃないんだ。三嶋もおんなじ。
そう思ったら嬉しくて、愛しくて。やっと笑いの引っ込んだあたしは、思わず隣に座ってる三嶋の肩に、寄りかかるようにして頭をあずけた。頭の斜め上から息をのむ気配。緊張したのか、三嶋の肩が硬直した。
やっぱりどうしようもなく、愛しい。
みっともなくなんかない。だってそれは、三嶋もあたしのこと想ってくれてる証拠だから。
「……今度はさ、もっとロマンチックなキスがしたいね」
「えっ!?」
肩越しに三嶋の顔を覗き込んで唐突に言ったら、三嶋は面白いほど急激に耳まで赤くなって、裏返った声を上げた。三嶋の顔がこっち向いて、お互いの視線が至近距離でぶつかる。あたしがどきりとするのと同時に、慌てて顔をそらす三嶋。
よかった。あたしも顔が赤くなっちゃったこと、ばれなかったから。
どんな時も、主導権はあたしのもの。あたしの特権なんだから。やっぱりからかうのはあたしでなきゃ、ね。
「なによ。なにをそんなに動揺してんの? 顔真っ赤だよ」
なんて、自分のことは棚に上げて言ってみる。三嶋はいっぱいいっぱいなのか、あたしの顔の赤さには全然気づいてない。
「その……、不意打ちは、やめてほしかったというか……」
「じゃあ不意打ちじゃなかったらいいんだ? 今からもう一回、する?」
「!」
「うそ。冗談だよ」
あたしがからかうように言ったら、三嶋は顔をそらしたまま、これ以上ないくらいに赤くなって言葉に詰まってしまった。
そんな三嶋がなんか無性に可愛かった。
「ねぇ、あたしたちってさ、すごくお似合いだね」
そう言って笑いかけたら、三嶋もやっとこっちを向いて笑ってくれた。
困ったような笑い方は、三嶋のくせなのかもしれないけど。
それは初めて会った雨の日の笑顔よりも、両想いになったカサの中での笑顔よりも、ずっと素敵な笑顔。
なんとなく、忘れられない思い出になりそうな気がした。
『好きなんでしょ? 〜あいつの気持ち〜』 ≪完≫