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第七話

 勢い、だったかもしれないけど、やっぱり三嶋とのキスは胸が苦しくなるくらいに、心臓がうるさかった。それでも三嶋から顔を離したあたしは、まるでトマトみたいに真っ赤になって茫然としている三嶋の襟首をつかんだままうつむいた。


「あたし……」


 手が震えてくる。三嶋と女の子の視線を感じながら、あたしは呟いた。


「……あたし、三嶋の横にいるの、似合わないかも知れないけど……、一緒にいても彼女って、気づいてもらえないかもしれないけど……っ、」


 言いながら、途中で涙がこみ上げてきて、涙声になった。


「負けないの、誰にも。好きだって気持ちだけは……。絶対、あたしといてよかったって、思わせるように頑張るから。だから、一緒にいてほしいの」

「き、木原さん……」


 三嶋の困ったような声を頭の上に聞きながら、あたしは鼻を啜り上げた。

 しばしの沈黙が流れた後、女の子が遠慮がちに口を開いた。


「……なんか……、すごいな。三島先輩、幸せですね」


 女の子はそう言って、でも三嶋じゃなくあたしに微笑みかけてきた。意味がわからなくて、あたしは三嶋の服をつかむのをやめて、涙目のまま女の子に向きなおった。女の子はそんなあたしに対して穏やかな笑みを崩さない。


「三島先輩の、彼女さんですよね。先輩から話聞いてて、すごく素適な人なんだろうなって思ってたんです」

「え……? 聞いて、って?」


 ちらりと三嶋を見てみたけど、真っ赤な顔した三嶋はまともに話せる状態じゃなさそうだ。

 再び女の子に目線を戻したら、女の子は変わらず穏やかに微笑んでいた。


「私も、これからあの人に、ちゃんと自分の気持ち話して来ようと思います。先輩達みたいになれるように」


 そう言ってまた、はにかんだようなかわいい笑顔を見せると、女の子は公園から出て行った。

 あたしは訳がわかんなくて、何も言えずにただ黙って見送っていた。


「……あの子が、ボクの友達の佐々木のこと好きってことだったんで、相談に乗ってたんです。さっきは偶然そこで会って。佐々木の家、この近くだから……」


 茫然としているあたしに、だいぶ顔の赤さが薄れたけどまだ赤い三嶋がそう言った。突然パソコン部の佐々木君の話が出てきて、あたしはただ目を瞬かせるしかできなかった。


「えっ?」

「絶対誰にも言うなって言われてたので……、黙ってて、すいませんでした」

「……。じゃあ、あたしが一人で勝手に勘違いしてたってこと……?」

「いえ、そんなことは……」


 馬鹿みたいに嫉妬してた自分が情けなくて、あたしはその場に座り込んだ。三嶋が慌てて一緒にしゃがんだ。


「ごめんね、三嶋」

「え?」

「疑ってばっかだった。信じてあげられなくて、ごめんね……」


 言いながら、また涙が込み上げてきた。自己嫌悪の涙。ほんと、どうしてこう泣き虫なんだろう。三嶋が戸惑いがちに、あたしの頭を撫でてくれた。


「泣かないで下さい。ボクも悪いし、その……、木原さんが泣くと、どうしていいかわからなくて……」

「でも……」


 そんな簡単に割り切れない。好きな人のこと、信じてあげられなかったなんて。納得しようとしないあたしに、三嶋は少しだけ目を細めて、それが心なしか小さく笑っているように見えた。


「話の、途中でしたよね」

「話……?」


 突然切り出されて、何のことかわからないあたしはそう聞き返した。三嶋はあたしの頭に置いていた手を引っ込めながら、続ける。


「恥ずかしがってばっかりっていうのは、その、意識してしまってたんです。言い訳かもしれないけど、まだ付き合うとか、慣れなくて……。敬語も、今更変えるのも違和感がある気がして……」

「ああ……、うん」


 三嶋がさっきの三嶋の家でしてた話の続きをしてくれてることがわかって、あたしは頷いた。


「でも、違うんです。好きなのは木原さんだけってことは、絶対ないって。それだけはちゃんと言わなきゃいけないって思ってて」

「三嶋……」


 三嶋は照れているのか少し赤くなりつつも、真剣な目をしていた。あたしってやっぱり単純なのかもしれない。三嶋の言葉一つで、さっきまで泣きべそかいてたあたしの顔に、笑みがこぼれる。


「ねぇ、……それってどういうこと?」

「そ、それは……」


 しどろもどろになる三嶋を見ながら、あたしは少し笑ってしまった。


「わかってるよ。ごめんね、ちょっと意地悪した」


 あたしはそう言って立ち上がると、伸びをした。三嶋も一緒に立ち上がる。


「……あたしさぁ、愛を感じなかったんだ」

「愛……、ですか?」

「そうだよ。それって女の子にとってはすごく重要なことなんだよ」


 いまいちしっくりこない様子の三嶋に、あたしはまた笑いかける。


「でも、三嶋はやっぱり三嶋だね。不器用なとこ。……そんなとこも全部好きになったんだもん。ごめんね、なんか見えなくなってたみたい」

「いえ……、ボクも、もっと変わっていけたらと思います。もう木原さんが泣かなくてすむように」


 また、思わず微笑んでしまった。ちょっと前の三嶋なら絶対こんなこと言わなかった。きっとあたしの気持ち、少しずつだけど三嶋に伝わってるってことだよね。


 こんなのが幸せっていうんだろうな。やっぱり、三嶋と付き合えてよかった。


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