第六話
三嶋の家を飛び出してしばらく走った後。
小さなベンチが一個だけある公園みたいなとこに、ちらっとあいつが見えた。
そう、あたしは後姿をちょっと見ただけでもすぐ、三嶋だってわかっちゃうんだ。
「三嶋!」
あたしは大きな声で名前を呼びながら三嶋のとこに向かって全速力で走った。
そのままの勢いで振り向きかけた三嶋の背中に勢いよく抱きつく。
「わぁ!」
あたしのあまりの勢いに押し倒されそうになった三嶋が、驚いてそんな情けない声を上げた。
けどそんなのは構ってられない。あたしは三嶋の背中に頬を押し付けるように顔を寄せて、力いっぱい抱きしめた。
「ごめん三嶋、好きだよ。大好き!」
「あ、あの……」
抱きついたままドキドキしてたら、背中から困惑したような気配。ふと顔をあげてみると、そこには予想してなかった人がいた。
あたしをきょとんとした顔で見ている子――三嶋と噂になってた女の子。
あたしは驚いてその子と三嶋を交互に見た。
「あの、さっき偶然会ったんです」
三嶋があたしの問いかけるような視線にそう答えたけど、言い訳みたいにしか聞こえない。
あたしが何も言えずに、ただぎゅっと手を握り締めて立ち尽くしてると、その子が三嶋とあたしの方に近寄ってきた。
「三嶋先輩? お知り合いですか?」
女の子ははにかんだような可愛い笑顔で、言いながら三嶋の腕に自然に触れた。あくまでも自然で、別に深い意味はない行動だったんだろうけど……。なんかそれがすごく嫌で、その子が言ったことも、なんかあたしが部外者って言われてるような気がして。
すごく悔しくて、あたしは俯いて手をぎゅっと握り締めた。泣きそうになったけど、ぐっと我慢した。
だって負けられないんだ、あたし。
三嶋があたしのこと、本当に好きかどうかなんてもうわかんない。
でも、三嶋のこと好きな気持ちは誰にも負けない自信あるから。こんなに好きになれて、すごく幸せだから。もっともっと一緒にいたいから。あたしには三嶋じゃなきゃいけないから。あたしが三嶋を幸せにしてあげるんだから。
――だから、絶対に誰にも渡せないの。
「木原さん? どこか、具合でも……」
俯いて黙ってしまったあたしを不思議に思ったのか、三嶋がそう声を掛けてきた。
けど、あたしにはそれに答える余裕なんかなくて。
負けない。そう決意したと同時にばっと顔を上げると、あたしは三嶋の襟首を両手で乱暴に掴んで強引に引き寄せた。
女の子と三嶋が呆気に取られてるのにも構わずに、あたしは三嶋に思いっきりキスをした。