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ホントになかった怖い話  part 2

第一話『迷い道』


船橋西武の地下で僕が喫茶店の店長をしていた頃、バイト3人を誘って居酒屋で痛飲したときがあった。グデングデンに泥酔した僕を見て、いつもはニヒルなバイトのS君が、自分の愛車(中古のフェアレディーZ2by2)で千葉にある僕のアパートまで送っていくと言い出した。他のバイト2人も従えて京葉道路を走行中、酔っ払った僕が後部席から身を乗り出し、トップに入れていたマニュアルミッションのシフトレバーを思い切りサードまで引き下ろしたら『ガガガッ!』という音がして、ギアボックスが壊れ、サードまでしか入らなくなった。(後日、僕が五千円を弁償し、和解した)だましだましサードでJR千葉駅まで来るとそごう前に路駐し、そこから徒歩で僕のアパートに向かった。僕のアパートは京成線のみどり台駅の近くにあり、歩くと30分近くかかるのだが、なぜ車で直接アパートまで送ってもらわなかったかというと、6畳一間で共同トイレの安アパートを見られるのが恥ずかしかったからだ。途中、繁華街でマロンドのショーウィンドーに飛び蹴りをくわえてガラスにヒビを入れ、見知らぬ民家のプラスチック塀を叩き割って警報器のサイレンに追われながら、暗い夜中の裏道をウネウネと30分近く歩いたのだが、なぜか一向にアパートにたどり着かず、僕を送ってくれるバイトたちに「店長、この道で間違いないですか?」と何度も尋ねられながら延々と歩き続けると、やがて見覚えのある道に出た。そこは千葉駅に向かう近道で、そのまま歩き続けたら案の定千葉駅の前に出た。「テンチョォ~、戻って来ちゃったじゃないですか」そごうの赤と青の看板のネオンに照らされながら、ニヒルなS君がアスファルトにペッと唾を吐いた。悪いので、そこから車で帰ってもらおうとしたら「店長ひとり残して帰れませんよ」と言い張るので、他のバイト2人も引き連れてまたテクテクと京成線沿いの裏道を歩き、あっちへ曲がりこっちへ曲がりながらいつしか高台へ続く坂道に差し掛かり、その頂上の黒々とした森に囲まれた登戸神社という薄ら寂しい神社の境内に出た。「さっきは、この神社ありませんでしたよね」ニヒルなS君が怪しむように呟く。「いや、アパートはこの神社のすぐ先なんだ」と答えて、僕が先頭になって歩き出したのだが、不思議なことにアパートの建物が見えてくる気配はなく、いつの間にかまた千葉駅に逆戻りしてしまった。「もう、俺ひとりで帰れるから」そごうの赤と青のネオンに照らされながら僕が断ると、「こうなったら、意地でも送っていきます」とS君が言い張るので、また4人ゾロゾロと夜中の道を歩き出したのだが、途中の登戸神社までは行き着くものの、すぐ先にあるはずのアパートにどうしてもたどり着くことができず、ふと気づくと、別のルートから駅前の繁華街に戻って来ているのだった。見慣れたそごうのネオンに照らされた僕たち一行は、よたびアパートを目指した。さすがにS君を始めバイトたちも無言になり、重い足取りで歩くこと30分、高台の登戸神社で拍手を打ち「これでもう大丈夫」と、坂道を下り、真っ暗な林の中の道を15分ほど歩き続けたら、林の黒いこずえの上に、またしてもそごうの赤と青の看板が垣間見えたのだった。「……テンチョオ~、いい加減にしてください」その時点でやっと、僕が安アパートを見られるのが嫌でわざと道に迷っているのだと気づいたS君が、低い声で忠告してきたので、仕方なく「部屋に来たって、お茶も出せないぜ」と言いながら本当の道へいざない、ものの10分もしないうちにアパートにたどり着くことができた。


第二話『瞬間移動』


僕が喫茶店の店長をしていた頃、店の連中と稲毛の『うらながや』という居酒屋で痛飲したことがあった。若かった僕はいくらでも酒が飲め、意識が朦朧となるくらい酔っ払っては、従業員以外立ち入り禁止のバックヤードに勝手に入り込んだり、看板にぶら下がっている杉玉を壊したり、うんこ漏らしたりして、多大な迷惑と被害をかけてしまったのだが、その翌日の朝、出勤途中の雑踏の中『うらながや』の店長とばったり出くわしてしまった。人でごった返す歩道の片側はデパートのビルになっており、僕は壁面に沿って歩いていたのだが、店長も反対方向から壁面に沿って僕を正面に見据えながら歩いて来たので、このままでは鉢合わせするのは必至と思われた。片側はデパートの壁で、もう片側は人であふれ返り、避けるスペースはまったくなかったので、意を決して昨夜のことを謝ろうとしたら、不意に店長の体が頭一つぶん浮き上がったかと思うと、正面にあった体をデパートの壁側に30センチほどずらし、まっすぐ前を見詰めたまま、僕を完全に無視して脇をすり抜けて行った。よく見ると高さ50センチ、幅30センチほどの縁石のような出っ張りがビルの壁に沿って設けられており、店長はその上に飛び乗ってスタスタと歩み去ったのであった。ちなみに『うらながや』はつぶれてしまい、今はもう無い。


第三話『魔犬』


僕が小学生の頃、父親が子犬を貰ってきた。シェパードの雑種という話だったが耳が垂れてポカンとした顔つきは、どう見ても頭が良さそうに思えなかった。色が黒かったのでクロという名前を付けたのだが、子犬の癖に早くもサカリがついているらしく、人の足を見るとすぐにしがみついてきてカクカクと腰を動かすので、散歩にも連れてゆけず、せっかく作ってやった犬小屋にも入らず、壁にしがみついてひたすら腰を動かし続けるだけだったので、気味悪がった父親が自転車でどこかに捨てに行った。半年ほどたったある日、僕が友人のK君の家に遊びに行ったところ、その近所の庭で餌を食べているクロそっくりの犬を見かけた。聞けばその犬は野良犬で、近所の家がたまに餌をあげているのだという。その数日後、K君の家の裏山の坂道を、荷台一杯に荷物をくくりつけた自転車を押すK君と喋りながら歩いていたら、坂の頂上から黒い犬がこちらを見下ろしているのに気づいた。その犬がクロに間違いないことを確認した僕が、K君を置き去りにして、坂道を一気に駆け下ってから振り返ると、自転車を引いたまま呆気に取られたように坂の途中でたたずんでいるK君に向かって、一直線に突進してきたクロがしっかり足にしがみつき、猛烈な勢いで腰を振り始めるのが見えた。「うわあ~っ!なんだ、この犬は~」山中に驚きに満ちたK君の悲鳴と『ガシャ~ン』というけたたましい音が響き渡った。クロの腰の振りの激しさに耐え切れず自転車を倒してしまったK君は、荷台の荷物を坂道に散乱させたのであった。僕はそのまま自分の家まで逃げ戻り、しばらくの間K君の家に近づかなかった。


第四話『生きバイク』


僕が錦糸町の深夜喫茶に勤めていた頃、勤め明けの朝、同僚のI君と店の外の歩道で話していた時の事。買ったばかりの黒いスクーターにまたがりエンジンをかけたまま話し込んでいたI君が「このバイクはオートマで、アクセルを捻るだけでギアが変速されて、自動的に発車するんだ」と自慢げに言ったので、クラッチペダルを踏んでギアを変える方式のバイクにしか乗った事のない僕が「ふ~ん」と言いながら、I君がまたがっているスクーターのあちこちを物珍しげに触っていた時、自分でもなにを思ったのか分からないのだが、シートに座ってポケットに両手を突っ込んでいるI君の目の前のハンドルを握り、アクセルを思い切り吹かしてしまった。『ブォ~ン』というエンジンの唸る音を聞いた僕が『しまった、このバイクはオートマだった』と気づいて、I君と顔を見合わせた瞬間、物凄い勢いで発進したスクーターは、I君を上に乗せたまま歩道の石畳の上を生き物のように何度も跳ね回った後、ごみ集積所に積んであるゴミ袋の山に突っ込んで行った。横転したスクーターの下敷きになり、ごみに埋もれているI君の激痛に歪んだ顔が今でも忘れられない。


第五話『幻覚4題』


幼少の頃から金縛りに遭い、ひどいときには体が動かなくなるばかりでなく息までできなくなってとても苦しい思いをした。そんなときに、時たま現れる幻覚の話。


【1赤いハイヒール】少年の頃、自分の部屋で豆電球を点けて寝ていたら、夜中に金縛りに遭った。薄暗い豆電球のオレンジ色の光にぼんやりと照らされた、低い天井から何かがぶら下がっているのが見えた。よく見るとそれは、艶やかに光る赤いハイヒールで、こんな所にハイヒールがぶら下がっているはずはないと思った瞬間、パッと消えた。


【2ザル】やはり少年の頃、金縛りに遭った時に、フト窓を見ると四角い形状をした物体がゆっくりと窓の下側の枠に沿って移動しているのが見えた。全身をゆっくりと回転させながら移動してゆく上部がかまぼこ型のその物体は、幼少の頃に使っていた豆炭アンカそっくりで(豆炭アンカの写真が、日本の暖房の歴史というホームページに載っているので、詳しい形状を知りたい方はググッて見てください)、あっけにとられてそれを眺めていると、窓の端まで移動した豆炭アンカは縦の窓枠に沿って上昇し、視界から消えた。するとその後を追うようにオレンジ色の丸い物体が窓の下枠に沿って飛んで来た。網目状の丸い底の部分をこちらに向けたその物体がゆっくりと全身を回転させると、Dを横にした形になり、それがオレンジ色に輝くザルだと分かった。ザルはやはり、窓の下枠に沿って横に移動してゆくと窓の端の縦枠沿いに上昇してゆき、そのまま視界から消えた。大昔、中国の仙人が、山の上からザルを飛ばし、ふもとの村人に食料や酒などを入れてもらい、また自分のもとへ戻って来るように操っていたそうだが、まさかそんなはずはないよな、と思いながら眠りについた。


【3山の中】深夜喫茶に勤めていた夏の夕暮れ、二階の寝室で目覚めた僕が出勤の支度をするために起きようとした時、薄暗い部屋の壁一面に林立した樹木の幻覚が出現した。木々はあれよあれよというまに壁の四方に広がり、とうとう部屋は山林の中の景色に変わった。木立の枝と枝の間に、なぜかモスグリーン色のビニールシートが垂れ下がっており、天井一杯に広がるこずえの枝と生い茂る葉の隙間から、暗い夜空にキラキラと瞬く星の姿まで垣間見えた。それなりに美しい光景だったのでもっと見ていたかったのだが、出勤の時間が迫っていたので仕方なくベッドから降り立ち、(不思議な事にその時は金縛りにかかっていなかった)山の風景に覆われた部屋の壁を手で触りながら移動して、ドアの取っ手を探り当てると、ガチャリとドアを開いて廊下へ出た。部屋の外まで山の風景になっていたらどうしようと心配したが、廊下は廊下のままで、そこから再び部屋を覗き込むと元の寝室に戻っていた。


【4笑うおじさん】千葉の六畳一間のアパートに住んでいた時、深夜、金縛りで目が覚めると、ドアの上の明り取りの窓から、廊下の蛍光灯の光が無数の鎌首をもたげた白い蛇のように、ウネウネとうごめきながら部屋の中へ侵入してくるように見えた。目玉だけ動かして壁の方を見ると、首を吊っている男の姿があった。それは下半身が無い、すだれハゲのおじさんで、真っ青な顔に黒縁の眼鏡をかけニタニタと笑って僕を見下ろしながら、白いワイシャツを着た上半身だけを、コマのようにクルクルと回転させていた。力を込めて金縛りを解いたら、部屋に侵入してきていた蛇の姿が、ぼんやりとした蛍光灯の光に戻ったのと同時に、おじさんの姿も消えて、ハンガーに掛けられた、ただの白いワイシャツに変わった。後日、靴屋のT君にその話をしたところ「ウーさん。それ、幻覚じゃなくて幽霊だよ」と言われた。


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