第1章 第7話
第1章
第7話
まるで水の中にいるような違和感だった。すべてが曖昧で、何も考えられない。ひどくダルく、耳も眼も体も機能していないようで、自分がそこにいることは分かる。
ひゅ~と口から声とは呼べない音が漏れる。自分では上手く聞き取れないが、口を動かし喉を震わせる。
◆
「おお、生きてるのか。」
ひどく、能天気な声でバルボズはソファーで起きた赤ん坊、クセスを覗きこんだ。
戸籍登録からまる3日たっている。その間、ピクリとも動かなかったクセスが眼を覚まして口元が動いているのを、バルがたまたま見つけたのだ。
「水でも飲ましてみるか。」
暢気なバルではあるが、誰かの面倒を見ることが嫌いなわけではない。声が出ないながらも口を動かすクセスに、とりあえず水を飲ませて様子をみることにした。
台所でいつものブリキのマグカップに水をいれ、木のスプーンも持ってソファーまで戻る。そして、抱き上げることはせず、ソファーに寝かしたままスプーンで水をすくいながら少しずつクセスに水を飲ませていく。
ゆっくりとではあるが、水を飲んでいくクセスにどうやら回復しそうだなと面白い玩具を見つけたといわんばかりにバルは、満面の笑みを浮かべる。
「ん~。もういいのか?」
スプーンを持っていっても口を開くことがなくなったので、水を飲ませるのをやめてカップをテーブルに置く。
「ちょっとオヤジ呼んでくるから待ってろよ。」
クセスが起きたのなら、これからの事を考えなければならない。とバルは階段を下りていった。
しばらくして、ガンドとバルが共にクセスの元に来て2人一緒にクセスを覗き込む。
「本当だな。よく生きてたな。これはゴキブリ並みの生命力だな。」
半信半疑の表情だったガンドが、酷く失礼な事を言うがクセスの耳にはほとんど聞こえていなかった。耳が聞こえていないと言うよりは、聞こえた音を処理する頭がまだ機能するほど回復していない。といった感じではあるが。とにかく、クセスはひと山越えた、といえる。後は、様子を見ながら栄養の高いものを食べさせればいいだけだ。しかし、これが面倒なことではあるが、ガンドもバルも相手がするだろうと人任せに考えていた。
◆
結果、ガンドの怒鳴り声が響く。
「あの馬鹿が!!逃げやがった!!」
クセスが目を覚ましてから5日後、ガンドがその日の仕事を終えて3階に上がってみるとバルの姿が見えないので、不思議に思ってバルの部屋をのぞくと机に「ちょっと出かけてきます。」のメモがあったのだ。
バルには、病気の状態のようなクセスの面倒をみるのは5日が限界だったようだ。そのメモを発見してしばらく、ガンドは呪詛を撒き散らさんばかりに罵り続けたがさすがに、1時間ぐらいたつと気も落ち着いてきてクセスの方へ向かう。
「クセス、どうだ。生きてるか。」
ずいぶんな挨拶のしかただが、それも仕方ない。いくら眼を覚ましたとはいえ、魔封じをしていないのに満足に動けないような容体だからだ。
ジッとガンドの方を見上げてくるクセスに、ガンドはずいぶん大人しい子供だなと感じた。バルを育てた時は一時も気の休まる時がないほど、よく騒ぐ子供だった。
(何だろう。前よりずっと体が動かなくなったんだけど。あの変な液体のせいかな。)
まだ何も知らないクセスは、変な薬を飲まされたから動けないと勘違いしていた。あの睡眠の香草は、とっくに体から抜けており今体が動かないのはただただ魔力が不足しているためにおこっている現象になる。
ガンドやバルの事は認識できているが、それに対して不満を感じるほど脳が働かずただ与えられる物を受け取っているだけの状態になっていた。
「しかたない。こうなったら、パシィを呼ぶか…。」
苦渋の決断をするようにしばらく唸った後、クセスを覗き込んだままため息をつくようにそう呟くガンドにクセスは特に反応する事もなく、ぼんやりと見つめ返した。
人形のように表情の動かない赤ん坊に、ガンドは今さらながらちょっとやりすぎたかと罪悪感が刺激された。
「もう少しだけ、辛抱したら体も動くようになるだろうから。頑張れよ。」
そう呟いて、ゆっくりとクセスの頭を撫ぜる。クセスの頭を撫ぜる事で、クセスの頭皮がひどい事になっていたのを思いだしたガンドは、クセスの頭頂部で左手を止め真剣な顔で頭皮を眺めていると、ガントの左手とクセスの頭頂部との間に直系15cmほどの青色のシャボン玉が現れたと思ったらその光の玉はゆっくりとクセスの頭に吸い込まれていった。
するとクセスの頭皮が痛々しい赤から、瑞々しい健康的な肌の色へと変化していた。
「こんなもんかな。これは久しぶりにすると疲れるな。」
苦笑しながらも、自分自身が起こした変化を確認するようにクセスの頭皮を眺めてから「どっこらしょ」と立ち上がり、夕飯の用意をしに台所へ向かった。
魔力吸引機で吸引した魔力を、クセスに戻すという選択肢はガンドの中にはなかった。それは他人に魔力吸引機の魔力を注いだことがないため、ガンドがめんどくさそうだと思ったためだ。
◆
そんなこんなで、戸籍登録から1ヵ月近く経つ頃にはクセスもすっかり体調は元に戻り、また最近は魔封じを両方付けられるようになってしまった。
クセスが動きだすようになると、ガンドにまた2つの魔封じを付けられてしまったのだ。
抵抗するようにクセスが逃げるも、病み上がりの子供相手にガンドが苦戦する事もなくひょいっと魔封じを付けられてしまった。
「ぶうぅぅぅぅぅ」
と、剥れるクセスにガンドは、豪快に笑いながらクセスの頭を撫でて自身は仕事をしに1階の工房に下りて行った。
そんな2人暮らしに慣れてきたころ、一つの台風がやってきた。
ガンドが階段を下りて行って見えなくなると、クセスはいつもの様にソファーから下り情報収集のため部屋を物色していく。
ここ2,3日は調子もよくしかも立って歩けるようになってきたので行動範囲も広がっている。
(よっしゃ!きたぞ!この時を待ってたんだよ。兎に角何でもいいから現状が分かる物がないか探してみるか。)
台所とテーブルがある右手側、そして左手側には壁一面に大きな本棚がある。これが読めればいいのだが、残念ながら背表紙を見るかぎりまったく読めない。
(どこの文字だろうな。アルファベットに近い感じがするけど…)
しばらく、どれか分かる単語があるかと背表紙を眺めてみるが分かる物はない。ついには、(魔法がある世界っつことは、多分日本とかがあった地球じゃないってことだしな。分かるわけないか。)と乾いた笑いが出てきた。
このまま本棚を眺めていても、新たに何か分かるわけもないと今度は、ガンドが下りて行った階段の方へ向かう。
本棚の窓側の壁に付いていない逆の端を左に曲がると、下に降りる階段があった。ここを下りるかどうか、迷ったがまだ歩きだした自分には難しいだろうと断念することにした。
(上りだったら何とか行けた気がするんだけどな。残念。)
今度はどこに行こうかと、後ろを振り返りソファーのある右手側を見た後その逆の左手側を見て、ニヤリと笑う。
(よし。あのじーさんとおっさんの部屋を見てみよう。)
この意識のあった少ない日数の間で、どうも左側の廊下が伸びているその両脇に部屋のような所がそれぞれの個室らしいとふんで、潜入してみることにした。
左側に歩いて行き、周りを眺めるとドアが3つある。さて、どれが部屋になるのか…。取りあえず、ドアを開けてみれば分かるだろうとドアの前まで行った時大きな問題があることに気が付いた。
(ノブに手が届かねぇ~…)
「くっ!…なんとかっ!…」
四苦八苦しながらドアのノブに向かって手を伸ばすが1歳児の、それも平均身長に届いていない赤ん坊に手が届くはずもなく、絶望的な距離感を確認するだけだった。
と、その時階段の方が騒がしくなってきたなとそちらに視線をやると誰かが登って来るようだった。
「んっもう、ガンドってばぁ、あなたと私の仲でそんな野暮なこと言わなくてもいいのにぃ。」
ガンドに続いて女性が階段から上がってきた。見た目2,30代ぐらいの白い豊かな癖のある髪の毛を高く結い上げ、アルミニュウムのような色合いの薄らとした銀色の眼は目じりがキュッとつり上がり、体型はこれぞ女性と言わんばかりの凹凸を惜しげもなく晒す妖艶な美女という、物語でしか見ることのできない存在にクセスはそちらを見たまま固まってしまった。
そのまま固まってしまったクセスと妖艶な美女の視線が交差した瞬間、獲物を捕える野生動物のように一瞬にしてクセスの傍まで来たかと思うと、有無を言わさず捕獲されてしまった。
「いやぁ~ん!かわいい~!なにこれぇ~!」
クセスの首をへし折らんばかりに頬ずりをされて、ただただその勢いに飲まれるだけだった。
「おい。パシィ、もういいだろう。話がすすまん。落ち着け。」
はしゃぐパシィことパンシューザに、ガンドはこれだから女はうるさくてかなわん。と渋い顔をしながらも台所に向かう。
「ああ~ん。だってぇ~すっごくかわいいじゃなぁ~い。ん~きれいっていう方があってるかしらぁ~。」
そのままクセスをその豊かな胸に抱きかかえたまま、ガンドの後を追い台所のテーブルの席に座り、クセスを膝の上にのせる。
「まったく。…まあ、今回お前を呼んだのはそのクセスのことなんだがな。」
「あらぁ、クセスちゃんっていうのぉ。」
(えっ!俺そんな名前なの!)
パシィに頭を撫でられながら、クセスは今さらながらに自分に付けられた名前を認識した。今までも呼ばれていたのだが、何か知らない単語だろうとスルーしてしまっていた。なぜ気づかなかったのか、自分でも不思議になるほどだ。
ガンドがお茶を入れ、同じテーブルにつく。
「そいつをお前に育ててほしい。」
ガンドのその言葉に、クセスは驚きガンドをまじまじと眺めてしまった。
「ん~、そうねぇ。返事をする前に、いくつか聞きたいんだけどぉこの子を私が引き取るってこと?」
「ああ、それの手があったか。しまったな。」
悔しそうに顔を顰めるガンドに、パシィはあきれたようにため息をついた。
「その手はないわぁ。私は行商人よぉ。こんな見た目の子供を連れて歩けるわけないじゃないのぉ。」
ガンドのお茶目さん。と言葉は茶化しているがその表情は真剣そのものだった。
「じゃあ~、この子をバルの時のようにこの家で一緒に育てればいいのぉ~。」
ガンドに上半身をすりよせながら、流し眼をするパシィだがガンドがそもそもパシィの方を見ていないので、まるで意味がない。
「ああ、そうしてくれ。戸籍登録もバルの息子で済ませているからな。」
「ふぅ~ん。そう…。」
ガンドのその言葉にパシィは、クセスをそれまでとは違う真剣な顔で覗きこむ。
クセスはクセスで、ガンドの戸籍登録の発言にびっくりしてガンドを見ていた所に、パシィに間近で覗きこまれびっくりして身を引けば、抱き込んでいるパシィのすばらしい胸に跳ね返される感触にまたびっくりしていた。
「ねぇ、ガンド、この子をどこで拾ったかとかぁ、戸籍登録をどうしたのか聞いてもいいぃ。」
クセスを真顔で見つめたまま、ガンドへ言葉は問いかける物ではあるがそこにはいっさいの拒否を認めない、響きがあった。
「…おお。それはだな…」
パシィのいつもと違う雰囲気に飲まれそうになりながら、始まったガンドとバルの暴走に、クセスは顔が引きつるのが分かった。確かに、拾い育ててもらえることには感謝するがもうちょっと何か他にいい方法があっただろうと、全力で訴えたかった内容だ。(もしかして、知らない方がよかったりして…あっ涙がっ…)と脱力するクセスを置き去りに、2人の話はどんどん進んでいく。
最後の「クセスのゴキブリ並みの生命力でこうして復活した。」で締めくくられた戸籍登録に関する顛末に、パシィはガンドに視線をあてて深くため息をついた。その戸籍登録による騒動にツッコミたいところは多々あるにしても、それよりも大きな問題が目の前に転がっているのだ。
「あの馬鹿の事は取り合えず、後で本人を潰すとして。」
パシィの小さな呟きが聞こえたクセスは、そのダークサイドな雰囲気に石化してしまった。
「ガンド。この子ねぇ、今世界で一番有名な赤ん坊よぉ。」
「…なんだそりゃ?」
(えつ?俺、産まれただけで有名人なの?親がすごいとか?)
呆気にとられた後、ハッと気付いたガンドが、「この見た目のせいか。」と呟く。しかしパシィは苦笑しながら、クセスの痛んでパサパサしている癖の強い水色の斑模様の髪を撫でながら、世間に無頓着なガンドのために国を巻き込んだ大騒動を話した。
「まあ、それも否定はしないけどぉ。覚えてるかしらぁ、13年ぐらい前に起こった火の国と水の国を巻き込んだ大恋愛物語。」
「…ああ…何かあったな…なんだったか、もともと仲の悪い火の国と水の国でそう言えば純愛がどうのとか騒いでたな…。」
「そうそう、それそれ。その内容はねぇ、水の国のジョセリー公爵家の当時の当主の嫡男、コーザライト・セペタ・ジョセリーと火の国のルレット侯爵家当主の次女、ピューファ・トゥソ・ルレットの恋愛物語よぉ。
ほらぁ本来、火の国と水の国又は、風の国と地の国の王侯貴族は血縁関係にはならないしぃ。ほぼ禁忌とされてきたでしょぉ。魔力は血によって次代へ伝えられるからぁ、血が混ざれば二度と元には戻せないわぁ。まして、この2つの組み合わせの混血になると魔力が下がることの方が多いと信じられてるしぃ。だから四カ国の王侯貴族は有力者になればなるほど混血を嫌う傾向にあるでしょぉ。火の国は火の魔力を、水の国は水の力を。まして、火と水の組み合わせやぁ、風と地の組み合わせはぁ魔力の相性が悪すぎてぇ、混ざり合うことすらしなくってぇ、庶民の場合でもほとんどの子供は生れてすぐに死んでしまうかぁ、互いに力を打ち消し合ってまったく魔力のない子供が生まれるかだわぁ。ましてぇ、魔力の高い王侯貴族ともなればその弊害は想像できないわぁ。だから彼らは混血を嫌うし、まして火の国と水の国や、風の国と地の国の組み合わせの混血は最大級の禁忌なのよぉ。」
「そんなこと分かってるでしょうけどぉ。」と間のびした口調でしゃべりながらガンドを伺うパンシューザに、ガンドは先を続けろと顎で促す。
クセスは、初めて聞くこの世界の価値観に興味が引かれパシィを見上げ真剣に聞き入っている。いささかしゃべり方がうっとうしいが。
「それでねぇ、その話題の2人はそんな王侯貴族の中でぇ、ましてもっとも仲が悪いと言われている火の国と水の国で一目ぼれして結婚しちゃったのよぉ。」
「キャッ!いやぁ~ん!」と身悶えながら頬を染めてテンションが上がりきっているパシィに、男2人は冷めた目線で答えていた。
どうにも女性のこの恋愛に関するテンションには付いていけない。クセスは、脱力してしまった。どこの世界も女性の恋愛に対する感覚は同じようだな。と遠い眼をしながら、今の情報を整理していく。
この世界は、水の国では水の魔力を、火の国では火の魔力を、風の国では風の魔力を、地の国では地の魔力を、この地の魔力は植物や大地に関係する魔力と言われている。それぞれ血に宿して受け継いでいる。そして、混血児になると生まれてくる子供がどの魔力を受け継いで生まれてくるかは、産まれてみなければ分からない。しかも火と水又は風と地の混血児に関してだけは、産まれてきた子供は魔力の性質が違いすぎるためかその体内で保有しておくことができずほとんどが死亡してしまう。王侯貴族が混血を忌避するのも、死亡理由もそれだけではなく、以前に述べた通り魔封じの2つ使用によっても死亡することが多いため魔力をもっていても無事に育つことがまずないと言われている。もし育つ子供がいたとしてもその場合は、この魔力があって当たり前の世界で互いの魔力が打ち消しあい魔力がまったくない子供ということになる。そのため王家は決して混血を受け入れないため、王家に子供を嫁がせたい貴族などにとっても混血であることは縁戚関係を広める上ではマイナスにしかならない。
なので、それぞれの国民性の気質の違いなどもあるが大抵は水の国と火の国又は風の国と地の国は仲が悪い。
そんな中での公爵家次期当主と侯爵家当主の次女の恋愛物語として、世界的に大きな話題をさらったのだ。
「よく結婚が許されたもんだな。」
貴族たちのプライドの高さと頑固さを知っているからこそ不思議そうにしながら、パシィの話に首を捻るガンドにパシィもようやく妄想からこちらの世界に帰還してくる。
「んふふふ。もちろんそう簡単に結婚できたわけじゃないのよぉん。結婚したのは一目惚れから10年ほど経ってからですものぉ。」
「10年!そら気の長い話だな~。」
パシィの言葉にガンドは椅子にもたれかかっていた背を起こして驚いた。クセスもその年月には驚きを隠せない。(とっとと駆け落ちでもすればいいのに、この世界の人はえらく気が長いんだな。)
この場合クセスの感想は、的外れで駆け落ちすることはできなかったというのが正しい。日本のように民衆に紛れれば、顔がしれた有名人でもないかぎりばれないということがないからだ。魔力の強さが髪や眼の色に現れるこの世界では、公爵家や侯爵家の人間が町をうろつけば本人の顔を知らない人間にでも、貴族であることがバレてしまう。少なくとも、高い魔力を持った人間であることは確実にばれるのだ。まして、髪や眼の色を誤魔化す道具がないので、人に見つからないように生活するしかなくなる。そうなれば、山や森に入り自給自足するしかないことになる。そんな生活を貴族として産まれ育った人間にできる訳もない。また今回の2人、とくに水の国のジョセリー公爵家の当時の次期当主のコーザライト・セペタ・ジョセリーは自分自身の立場も分かっていた。後継ぎが自分しかいない状態で家を放り出すことができるほど、考え無しの馬鹿ではなかったこともある。
「まぁ、いろいろあったみたいなんだけどぉ、ほらぁ火の国の人間は情熱的でしょぉ。きっとめくるめく愛の炎が燃え上がったのよぉ。それにぃ今回関係あるのはぁ結婚するにあたってぇ2つ条件が付けられたのよねぇ。それがぁ…」
もったいぶる様に言葉を切るパシィに、その思惑に乗って早く話せとせっつくガンドとそれに便乗して頷くクセス。
「一つ目がぁ、絶対に子供は作らない。っていうものなのぉ。」
その言葉に、ガンドはなるほどと頷く。先ほどの説明通り、血が混ざることを何よりも嫌うからこそ結婚することは認めても、それを次代に残すなということである。確かに次代に残さないのであれば、結婚すること事態はたいした問題ではなくなる。まして、相手は火の国のとはいえ侯爵家。そして火の国では王の継承制度が変わっているために、王自身よりも貴族の方が権力を持っているといってもいい国である。それを踏まえればなお、貴族の位的にも問題のない縁談だ。
ただし、火の国の人間が水の国で上手くやっていけるかどうかは別として。
「それだと、水の国のジョセリー公爵家の直系の血が途絶えるんじゃないのか?有力候補の兄弟が他にもいるのか?」
ガンドの疑問に、クセスはそれがあったかとパシィを見上げると、パシィは人の悪い笑みを浮かべていた。
「他にも当主候補の兄弟がいたら、ここまで話は長引かないわよん。だってぇ、後継ぎを変えて好きにすればってなるだけだものぉ。」
それもそうかと、納得するガンドにクセスは(そんなもんなの?それでいいのか!)と驚く。クセスの知識的には、長男じゃないとだめに決まってるでしょ。とかの、泥沼パターンだと思っていたが、他に当主候補がいればいいだけのようだ。ある意味ドライだな。と苦笑いしてしまうクセス。
「ふふそれがねぇ、ジョセリー公爵家の後継ぎはコーザライト・セペタ・ジョセリーだけなのぉ。お姉さんが一人いるだけなのよねぇ。だから彼の子供はどうしても必要だったのよぉ。でぇ、それがもう1つの条件でぇ、コーザライト・セペタ・ジョセリーの母親が用意した女性との間に後継ぎをつくる事だったのぉ。」
なるほど、と頷くガンドに対して、クセスはもう開いた口が塞がらない思いだった。(なんだその、人を人とも思わない無茶苦茶な条件は!それでいいのか貴族どもよ!ふざけすぎだろ!お姉さんがいるならその人の子供でいいだろう!)というクセスの思いはともかく、ガンドとパシィは特に怒りを覚えることもなく、話は進んで行く。
ちなみに、貴族の考えとしては公爵家の後継ぎに姉の子供はありえないのだ。姉だけの子供ならば問題ないが、現実としてそんなことはもちろんありえない。姉の子供が後を継げば、必然的に姉の夫の家の介入を許してしまうことになるためだ。介入だけで済めばいい方で、最悪家を吸収されてしまう可能性の方が高い。
「しかし、何で母親の用意した女性になったんだ?」
「ん~、どうもその条件を出したのがその母親だったみたいよぉ。8年ぐらい前に前公爵は亡くなってるしぃ。いい加減、後継ぎが欲しかったんじゃないかしらぁ。それに、これ以上下手な人間に介入されないためにぃ、厳選した女性を用意したかったんじゃなぁい。」
そんなもんかと、納得するガンドにクセスはもうどこからツッコんだらいいのか分からなくなってきた。(世界っていろいろ、価値観いろいろ、人生いろいろ…)もうお腹いっぱいでぐったりしてきたクセスに最後の爆弾が投下される。
「で、その3年前に結婚したコーザライト・セペタ・ジョセリーとピューファ・トゥソ・ルレット、現ピューファ・セペタ・ルレット・ジョセリーの間に実は子供が産まれていたってことが最近発覚したのぉ!」
「ああ、まあやることやってりゃできるか。」
テンションが益々上がっていくパシィに、ガンドは冷静に切り返す。クセスはジワジワと話が良くない方向へ流れているのに気が付いた。もちろんガンドも結論が見えてきている。
「つまり、お前はその子供がこのクセスだって言いたいのか。」
言葉は疑問形だが、確信している口調のガンド。
「ああん!私が言いたかったのにぃ!」
クセスを抱きしめ直しながら、「いやんいやん」と振り回すパシィ。
脳みそシャッフルされながらも、クセスが思ったことは(俺、お妾さんの子供じゃなかったのね。)だった。意外に気にしていたみたい。
「分かった、分かった。兎に角だな、それで何でクセスが世界で一番有名な子供になるんだ?」
何が分かったのか誰にも分からないが、ガンドのその言葉にパシィは振り回していたクセスを抱き直す。
「ふふふふ、だってこの容姿でしょぉ。それにねぇ、結婚する条件で子供はつくらないってことになってたからぁ、あたりまえだけどぉ、本来なら産んじゃいけなかったのぉ。でもぉ、そうは言ってもそうまでして結婚した相手の子供よぉ、欲しいじゃないぃ。女として悔しいでしょぉ。他所の女がその愛した人の子供を産んでてぇ自分はその愛した人の子供が産めないのよぉ。」
「ねぇ~」とクセスを覗き込むパシィに、クセスは何とも言えない表情で答えるしかなかった。(女の気持ち聞かれても…。それ以前にこの見た目がどうした!っつうかなんで俺がその貴族の子供って断言できるんだよ!顔面の形が似てるのか?)
「できちまったから産んだってわけか。」
「そう、しかも隠してねぇ。」
それもそうかと、パシィの言葉に頷くガンド。
「で、産まれてきた子供はぁ、深い藍色のゆるやかなウエーブのかかった髪にぃ深紅の瞳を持っていましたとさぁ。」
「待て待て待て、なんでお前がそれを知ってるんだ。お貴族様の隠された子供だろうが。」
(それもそうだけど、俺の髪と眼ってそんな色なの!変わってるかもだけど、そんなに注目されるような色か?父親と母親の色が色だから当然なんじゃないのか?)
クセス的にはアニメなどのイメージがあるので、青色や赤色の髪や眼の色の人間がいるなら、自分がその色でもおかしくないだろうと首を傾げる。
「あらぁ、そんなの決まってるじゃなぁい。私に掛かればこれっくらいの情報ちょちょいのちょい!よぉ。」
と、うれしそうに右手の人差し指を揺らすパシィにガンドとクセスがドン引きしているのを眺めてから、種明かしをする。
「というのは冗談でぇ、本当はねぇ水の国の旧首都インの傍の別荘地でちょっとした騒動があったのよぉ。」
「騒動?旧首都インっつうと、レブラ山の麓とホトレ湖に挟まれた所か。」
地理を思い出すように顎に手を当てて視線を空中に彷徨わせるガンドに、パシィは正解と言うようににっこりと笑顔を向ける。
「そうそう、そこぉ。その騒動っていうのがぁ、ある公爵夫人がぁ息子がいなくなったって半狂乱になっているっていうものだったのぉ。」
「それは…。」
ガンドにも事の全容がいよいよ見えてきた。クセスも答えはもう分かっている。
「それでねぇ、それは大変って事でぇ別荘全体の警備兵とかまで狩りだされて大々的に捜索することになっちゃったのぉ。」
パシィの言葉に、ガンドは首を傾げる。
「おかしくないか。隠して育ててんのに何でそんな時だけ大々的に捜索されるんだ?」
「あはぁん。さすが私のガンドだわぁ。」と一人悶えているパシィをせっついて話を進めさせる。クセスは(イラッっとくる話方だな。)と眉間に皺を寄せていた。
「もちろん、本当は内緒で探さないとだめだったんだけどぉ、その公爵夫人はパニックになって大騒ぎしてぇ外部の人員まで動かす指示を出しちゃったのぉ。しかもその時ぃ、それを止められる公爵は首都ファトに行ってて止められる人間がいなかったみたいなのよぉ。」
「まずいなそれなら、クセスがここにいるとばれたらどうなるか。」
眉を顰めて凶悪な視線で、クセスを睨みつけるガンドにクセスは蛇の前の蛙のように固まってしまった。どうやら自分はここにいるだけで、ガンドに迷惑をかけることになるらしい。
「っふん。それがぁそうでもないのよぉ。」
ガンドの凶悪面にも負けず、パシィはあっさりとガンドの懸念を否定した。
「どうゆうことだ?」
「それがねぇ、ここから色んな人間が入り乱れて話がややこしくなるんだけどぉ。」
心して聞いてね、と前置きして話が始まった。
「ジョセリー公爵家の別荘から赤ん坊が消えた理由なんだけどぉ、どうも前公爵夫人が関係していたみたいなのぉ。」
「どうゆうことだ?」
「それがねぇ、前公爵夫人であるキットリーニ・セペタ・ペセット・ジョセリーの命令でぇ、公爵家の別荘から侍女が赤ん坊を連れだしたのよぉ。」
「赤ん坊が産まれていたことがばれたのか。」
「とゆうかぁ、その侍女がばらしちゃったみたいなのぉ。」
パシィのその言葉に、クセスとガンドも驚いた顔をする。
その時のクセスの考えを言葉にすると(え?あのお手伝いさん達侍女って言うの?メイドさんじゃないんだ!)である。驚くところが激しく間違っている。
「ばらしたのか。わざわざ。」
「そうなのぉ、何でばらしたのかは分かんないけどぉ、多分産まれた赤ん坊の異相に恐れを感じたのか、他にも理由があったかもしれないわねぇ。」
パシィの考えに、ガンドが頷きながらクセスに視線を向ける。ガンドはパシィの後半の含みを持たせた言葉の方に注目していたが、視線を向けられたクセスは、そこまで変わった見た目なのかと少し落ち込んだ。つまり、メイドさんに嫌がられていたのは、やっぱり気のせいではなかったということが証明されてしまった。
「そしたらぁ、その話を聞いたキットリーニ前ジョセリー公爵夫人は大激怒しちゃったみたいでぇ、その侍女に殺害命令出しちゃったんだってぇ。」
「はぁ?!なんだそりゃ?!その侍女は特殊訓練でも受けてたのか?」
その滅茶苦茶な話に、ガンドの素っ頓狂な声が出る。クセスも驚いてパシィを見上げるが、正直命を狙われたという感覚がなかったせいか物語を聞いているように実感が湧かない。
パシィは苦笑しながら話を続ける。
「それがねぇ、その侍女は水の国のイイビ子爵家の傍流の長女で現公爵夫人であるピューファ・セペタ・ルレット・ジョセリー付きの侍女だったんだけどぉ、彼女の母親が風の国の伯爵メロンエ家の長女で彼女自身が混血だったのぉ。」
「?それがどうかしたのか?」
混血児すべてが、貴族の中で禁忌とされているわけではない。火と水、風と地の組み合わせ以外は、逆に魔力が高い子供が産まれてくることもあるので魔力を上げるために他国の貴族と結婚することも少なくない。王家は別だが。
「だからぁ、キットリーニ前ジョセリー公爵夫人的にはぁ混血児の不始末は混血児にさせるのが当然でぇ、そんな穢れた血のために自分の家臣の手を汚させたくないみたいなぁ。」
「なんだその理屈は…。」
余りに身勝手な理屈に、言葉も出てこないガンドとクセス。しかし、そのキットリーニ前ジョセリー公爵夫人の理論を当時聞いた多くの人も、同じ感想を抱いたので決してキットリーニ前ジョセリー公爵夫人の理論は一般的ではない。
「ん~でもぉ、その頭の足りない命令のお陰でぇクセスは生きてるんだけどねぇ。」
「そういや、なんでそれでクセスは生きてるんだ?いや、そもそも何でその話がそこまで広まってるんだ?」
「そこなのよねぇ、しょせん世間を知らないお姫様には自分の命令が執行されないなんて考えなかったみたいでぇ、しかもそっち系の専門の臣下でもないお嬢様の侍女に下された命令がよぉ。確認しなかったみたいなのぉ。」
「ああ、詰めが甘いってか。」
「そうなのぉ。でねぇ、その侍女はぁ、やっぱり殺せなかったみたいでぇ別荘地の裏手にあるぅレブラ山の中に睡眠の香草で眠らせた赤ん坊を放置したみたいなのぉ。」
つまり、直接ではなく間接的に死ぬ方法を選んだ結果たまたま通りかかったバルのお陰で、クセスは生きることができたのだ。
「でぇ、その侍女はぁ、罪悪感に苛まれてそのまま山の麓に下りて来たもののそこで自殺しちゃったのよねぇ。しかもご丁寧に遺書にその経緯を記してぇ。」
「それはそれは、なんつーか。やりきれねぇな。」
その結末に、ガンドもクセスもただただ沈黙するしかない。クセスは自分のために一人の人間が命を落としたという現実に、罪悪感で押しつぶされそうになる。しかも、ここで泣くとガンドたちからしてみればおかしな子供と思われるかもしれない、という打算のために泣く事を我慢している自分自身すら卑怯で歯がゆかった。
「まあ、しかし何だってそんなにその前公爵夫人は赤ん坊を殺すことにしたのかね。仮にも自分の息子の血を引いた孫だろ。」
「まあ、これは推測だけどぉ、キットリーニ前ジョセリー公爵夫人ってぇ第19代王の正妃の娘だったのよねぇ。本物のお姫様でぇ、しかも女性としては最高位の生まれと育ちでしょぉ。そんな彼女にとって、混血なんて考えるのも許せない存在だったんじゃないかしらぁ。高貴なる自分の血を引く息子の子供が、混血児しかも火の国との!って感じでぇキットリーニ前ジョセリー公爵夫人にとっては悪夢としか言いようがなかったんじゃないかなぁ。後、付け足すなら水の国では正妻の子供が優先されるでしょぉ。そうなるとその混血の子供が正式な跡取りになっちゃうわけだしぃ、何だかんだで家が揉める原因にもなるしねぇ。」
この考え方はこのキットリーニ前ジョセリー公爵夫人特有というよりは、すべての王家の考え方でキットリーニ前ジョセリー公爵夫人が、少し度が過ぎている以外はさほど問題になるようなものではなかった。
そうして、貴族として産まれ育った侍女には、上位の貴族に逆らうことの危険性が分かっていた。自分だけではなく、家族にその害が及ぶことが想像できるからだ。まして自分は現公爵夫婦を裏切ったのである。今さら現公爵夫婦に泣きつくことはできなかった。進退行き詰まった末に、レブラ山を下りてすぐの麓で懐に今回の経緯をしたためた遺書を忍ばせて、自殺したのだ。
「しかもねぇ、面白い事にぃ本来そんなことがあったなんて家の外には漏れないはずのこの不始末の本当の内容が広まったのはねぇ、息子を殺されたと知ったピューファ現ジョセリー公爵夫人が大々的に騒いだのと、第20代の現在の王とキットリーニ前ジョセリー公爵夫人との仲の悪さも理由じゃないかって言われているわぁ。」
「仲悪いのか?」
「そうよぉ、だって、現在の王の母親は側室でしかもぉ、本来の王位継承順位は第4位だったのよぉ。本来ならぁ王位なんて継げないんだからぁ。でもぉほらぁ30年以上前に水の国の首都で起きたぁ、大規模の疫病の流行でぇ数万人が亡くなったでしょぉ。その中にはぁ、当時の王と王太子と王太子の子供たちと王太子の兄弟も何人かいてぇ亡くなったのよぉ。それで突然降ってわいたように現在の王が即位したのよぉ。しかも、現在の王は母親が男爵家出身の側室だったからぁ、キットリーニ前ジョセリー公爵夫人の理屈でいくとぉ紛い物の王ってことになるみたいでぇ、元々それをぉ表だって言っちゃってたみたいなのよぉ。」
本来ならそれでも、政治的にキットリーニ前ジョセリー公爵夫人の事は伏せられて事件は発覚しただろう。侍女が勝手にした事になり、事件を終わらせることになったはずだ。
しかし、侍女を発見したのが外部の警備兵だったことと、首都から離れた場所でおこった事でもあり、初動の緘口令が間に合わず人の口に戸は立てられないと、一気に広まっていったのだ。誰しも、お高く止まった王侯貴族の醜聞ほど面白いものはない。
「けどまぁ、それぞれの王家がほどよい処で上手く収めるんじゃないのか。」
そこまで話が大きくなると完全に他人事で話を切り上げようとするガンドに、パシィは待ったをかける。
「それがぁ、そうもいかないのよねぇ。」
「何でだ?このまま下手に貴族どうしが揉めるよりも王家が抑え込んじまった方がいいだろう。水の国は兎も角、火の国にとってみりゃ上手く持っていけば貸しにできるかもしれん。」
「ん~、それがねぇ、ピューファ現ジョセリー公爵夫人の御姉様ってねぇ火の国の現在の王の正妃なのよぉ。しかもこっちも大恋愛の末に結婚してるしぃ、火の国は一夫一婦制だしぃ、ルレット侯爵家って姉妹仲がいいのよねぇ。だから簡単には決着つかないと思うわよぉ。それにほらぁ火の国の人間って基本的にぃ、激情型の人が多いでしょぉ。でもって水の国はぁねっちっこい執念型の人が多いじゃないぃ。」
ガンドは、パシィの火の国と水の国の国民性に対しての意見には咳払い一つで片付け、クセスはその国民性に嫌な考えしか浮かばない。
(水の国は執念型なんだ。嫌すぎるだろ。それなら、俺ばーさんに会ったら瞬殺されるんじゃないだろうな…。)
「それはまた…何っつーか。ややこしくなりそうだな。火の国の王家が出張ってくるなら、いくら嫌いな伯母の事でも水の国の王家として庇わんわけにはいかんくなるか。」
やれやれと、国どうしの諍いに発展しそうな状態に肩を竦める。パシィもこの問題そのものには自分も係わる事はないので、他人事だと思っているがクセスがいるこの家に係る以上そうも言っていられない。
クセスとしてはしばらく立ち直れそうにはない。(この出生の秘密とかって、こんだけ重いと普通の子供には耐えらんねだろうな。俺でも重すぎる…。)
「とりあえず、クセスは死んだことになってる訳か。ならこのまま水の国にも火の国にも係わらずにいればいいな。」
「そうねぇ。それしかないわよねぇ。せっかく綺麗な深い藍色の髪だったんでしょぉ。こんなパサパサの変な斑の水色の髪になっちゃってぇ。」
クセスの髪のひどさに、パシィが髪を撫でながら悲しそうな顔をしてガンドを責める。ガンドも流石に、その髪は酷いと思っていたので視線を外しつつカラ笑いをする。
「まあいいわぁ、話を聞いてたら仕方ない部分もあったみたいだしぃ。その内ちゃんと髪も元の色で伸びるでしょぉ。」
しょうがない。と笑うパシィに、そうだろうそうだろう。と頷くガンドではるが、肝心の被害を諸に受けたクセスには、文句を言うほど言葉がしゃべれないのがもどかしいところだ。しかも、今の話を聞く限り自分が生きているのは、幸運と偶然が重なった結果で、理不尽ではあるがこれといって大けがをすることもなく、これからもこの家で暮らせるなら仕方ないと自分を何とか納得させた。頭皮の惨事については、もちろんガンドは固く口を閉ざした。魔術で治したので無効だろうと思ってのことだ。被害者が騒がなければ、事件は発生しないという論理である。
ここで、クセスに大いなる疑問が(あれ?このお姉さん歳いくつなんだろう?なんかあのおっさんを育てたとかっていってたようなっ……オカンが!!!)