第1章 第3話
第1章
第3話
眼が覚めた時に一番最初に認識したのは、ああ石の天井。だった。
周りを見渡して見る。ぼんやりした頭で、ここどこだっけ?とただ、周りに視線を向けている中で、徐々に俺が赤ん坊で大自然の中にいたことを思い出した。
慌てて、起き上がろうともがいて、動きにくい手足を使ってお座りをしてもう一度周りを確認すると。どうもここは小さな部屋のようだ。石の天井と石の壁、出入り口のドアが木でできている。その反対側の壁には木の枠で囲まれたガラス窓がある。
俺が寝かされていた場所は、どうやら大人用のシングルベットのようだ。それはわかるが、ここがどこなのか、俺を抱えていたおっさんがどこにいったのかが分からん。まあ寝てたんだから分からんのは当たり前だが、生後半年ほどの赤ん坊を一人で放置していくなよ。普通の赤ん坊ならこのシングルベットから転がり落ちてるかもしれないんだぞ。
しかも、かなり暗い。子供だったら恐怖で泣くぐらい暗いよ。もう少しで太陽が沈むぐらいの時間かな。ぎりぎり部屋の中を認識できるぐらいの明るさだな。
おっさんどこだよ。淋しくなんかないけど、怖くなんかないけど、おっさんを捜す。そうだぞ、俺は別に淋しい訳じゃないんだからな。眼に溜まってるのは汗なんだから。暗くたって平気だもん。だからおっさん早く帰って来い!!
「ヴヴヴヴ~~~」
と、唸っていたら部屋のドアが開いた。
ハッとしてドアの方を見ると、おっさんだ!
おっさんは、右手にお盆を持って入ってきたかと思うと部屋にある小さなテーブルにお盆を載せて、床に置いてある袋をあさりながら、ベットの方に視線を向ける。と、びっくりした顔をしやがった。
「なんだ、起きてたのか。」
小さく苦笑しながら、作業をやめて先ほど置いたお盆を持ち上げて俺の方へ近づいて来た。
「腹減っただろ。スープ持って来たから食え。」
おお!ご飯にありつける。ラッキー。と思った瞬間グオオオと俺の腹が鳴った。
「クッ!ハハハハハハハッ」
お盆を慌ててベットに置くと同時に、おっさんは大声を上げて笑ってくださいましたとも。ええ、すいませんね。腹が減ってるんですよ。こっちとら赤ん坊なのに半日近く飲み食いしてませんのでね。くそー。
「悪い悪い。もっと早くもってきといてやればよかったな。」
まだ微妙に肩を震わせながら、おっさんは俺を抱き抱えて膝に乗せ、スープを食べさせてくれた。美味かったよ。めちゃくちゃ美味かったです。がっつり全部いただきました。具がないとか、そんな贅沢言うつもりはありませんとも!たとえ木でできたスプーンが思った以上に口に入れにくかったり、木の器なんだ。とか違和感を感じたりしてても、文句はありません。食べれるだけましだよね。なんせ、もうちょっとで俺自身が獣のお腹に入ってたかもしれないんだから。けど食べてる時に、おっさんが「おお~母乳じゃなくてもいいのか。」とか何か関心されたけど、どうゆうこと!赤ん坊が何食ってるかよく分からずに持ってきたってことか!なんつう危険な事するんだ!
腹が膨れたので、また眠くなってくる。ああ、赤ん坊の体って不便だわ。誰かに世話されないと生きられないんだからな。早く立って歩けるように、いやせめて一日起きていられるようになりたい。
「眠いのか。赤ん坊はよく寝るね。」
おっさんの呟きを聞きながら俺の意識は沈んで行った。できれば次に目を覚ます時は、また母親の顔が見れるといいんだけどな。と思いつつ。
◆
次に眼が覚めたのは、なんと驚いたことにおっさんの背中におんぶされた状態でした。しかも、頭にフードみたいなのを掛けられてるのか視界が狭い。どうにかしようと身じろいだ瞬間。
「坊主、起きたのか。ああ、動くなフードが外れると面倒だからな。」
そう言って、おっさんはフードがずれていないか手で確認した。何だ。何かあるのか?しかも、ネックレスとピアスはそのままだから、ネックレスがおっさんの背中と俺のお腹に挟まれて、微妙に痛いんですけど。どうもおっさんは胸当てのようなものを付けているみたいで、ベルトみたいな物のせいで背中も硬い。だから、おっさんは気にならないみたいだけど、俺はめっちゃ痛いんです!気付いてくれ!
という俺の心の叫びも空しく、おっさんが野宿場所にて俺を下ろしてくれるまで気づかれることはありませんでした。何とか伝えようと「あああ~あああ~」言って、手をバタバタしてはみたものの、おっさんが分かるはずもなく。しかもなぜか、「ご機嫌だな」とかって笑われたよ。おっさんと意思の疎通をとる方法を誰か教えてくれ!でないと、腹が痛い。しかも腹減ったし。朝目覚めてから何も食ってねえ。腹減ったし喉も渇いたんだけど。どうやったらおっさんに伝わるんだ。おっさんよ、いくら赤ん坊の面倒とか見たことない人間でも半日以上飲まず食わずは、人としてまずいと思わんのか!しかも野宿するみたいだし、したことねえ。夜中に何かが襲ってきたりしないよな?おっさん答えてくれ!
………って!いやいや違うから!俺今おかしいよな!なんで今だにおっさんと一緒なんだ?おっさんよ。落し物は近くの交番に届けようよ。親捜そうよ。おっさんに連れ帰られるとかだめだろう!今さらだけど、もしかして人飼いとかじゃないよな?奴隷商人とかじゃないよね?そうだったらどうしたらいいんだ?この場合!どの対処法が正解ですか!!
ここで暴れて、もしおっさんか悪い人なら五月蝿いからって殺されちゃったらいやだし!でもこのまま連れて行かれてゴール地点が人身売買のアジトとかでも困るんだけど!しかも俺ってば、あの両親に似てるんならカッコイイだろうし!どうする俺!どうする俺!
古いネタで、自分に選択せまってもカードも出ねえし、答えでねぇぇぇ!!
いや、待てよ。もし帰っても本妻さんの方に先に連絡とか行っちゃったら俺やばくね?父親とかに連絡行く前に本妻に連絡がいく可能性って結構あるよね。ならこのまま交番とか、お役所的な処に行くのもまずいのか。確実に一番初めに父親か母親の所に連絡行く場所に連れてってもらわないとダメじゃん!
しかもその連絡場所が俺には分からん。何か携帯電話とか絶対にありそうにないし。この中世ヨーロッパ的な感じが、文明の利器とか無さそうな気配を醸し出してるし。住所とかもまったく分からん。ちなみにフルネームも分からんかったりする。カッツィーロだけじゃさすがにどこのだよ。って感じだしな。
ってゆうか根本的に俺、おっさんと意思の疎通とれてないからどうしようもないんだけどね。さっきだって、野宿で荷物下ろしたおっさんに俺はジェスチャーを駆使して頑張ること10分ぐらいかけて、腹にネックレスが当たって痛いことを伝えたとこだからな。よくおっさんは、俺に付き合ってくれたよ。涙がでるよ。
取り合えず、おっさんは手当のような、薬草を塗りつけてくれたのでよかったよかった。「気づかなくて悪かったなぁ。」とか言ってくれたしね。
だからどう考えてもこのままおっさんに連れてかれる以外、俺には選択肢がないことは間違いないんだけどね。だから、最悪着いた先を確認してその場その場で身の振り方を考えるしかないかぁ。
あああ~赤ん坊の体使えねぇ~~~。