第1章 第2話
第1章
第2話
なんて思っていた今日この頃。ただいまマイナスイオンを全身に浴びております。
誓って言うけど、俺が望んだことじゃない。なぜなら俺はまだ、お座りとハイハイしかできないからです。しかも、眠って眼が覚めたらいつもと違う景色が見えたんでびっくりして起き上がって、周りを確認した所どうも木の中なんです。虚の中って言えばいいのか?ある程度大きい木の中みたい。外を覗くとあふれんばかりの木々ですよ。マイナスイオンですよ。しかも、ご丁寧にこの虚かなり高い位置にある。木の幹の途中にこんなでっかい虚があるんだから不思議だよね。よく腐ってないもんだ。さすが魔法があると違うね。…魔法が関係あるのかなんて知らないけどさ。
降りれないよな。たぶん、この虚から地面まで1mぐらいはあるような気がする。
……なんて現実逃避ぎみに現状を把握した所で、俺がピンチに瀕していることに変わりはないんだけどね。だって周りに誰もいないんだけど。あの青一色のメイドさんズも母も父も。この大自然の中に一人………。やばくね、俺………。
とりあえず、叫んでみる?こうゆう場合どうゆう対応がベストなんだ。叫んで動物とか集まってきたらやばいよね。いや、血が流れてない場合は大丈夫なのか?まじでどうしよう。希望としてはピクニックに来た母とはぐれただけっていうオチがいいんだけど。そんな可能性って何%ぐらいかな。はぐれて虚の中に赤ん坊が入っちゃう可能性ってあると思う?俺はないと思うな0.00000001%もないと思う。だって俺には家から出た記憶すらないんだからね。…って分析しても意味ないよね。絶望的な考えしか浮かばなくなるだけだし。
今はまだ昼ぐらいみたいだから大丈夫だけど日が傾いてきたらやばいな。春みたいな陽気だから、夜はある程度冷えるってことだよね。今よりは確実に寒くなるしな。しかも、ご丁寧にネックレスとピアスはあるから、体が動かしにくいことこの上ないっつーの。これまじで取れないんだよな。何か取る手順でもあるみたいなんだけど、何度取る瞬間を見ても理解できん。俺の脳みそがやばいのか。
だめだ。ますます落ち込んできた。ここは、だめもとでやってみるか。恥ずかしいとか言ってらんないしな。息を整えて。
「ああああああーーーーーー!!」
この大自然に響くように叫んでみること4回。これだけで俺の喉は枯れました。そうだよね。ここんとこあんまり声だしてないし、赤ん坊の喉がそんなに強い訳ないよね。
もうちょっと計画的に叫べばよかった!闇雲に連続して叫んじまった!
喉いてぇし、喉渇いた。そう言えば、昼ご飯食べてすぐ昼寝して起きたらここだったから、そこそこ時間たってるよね。誰か探しにきてないかな。腹もへってきたしさ。
この場合やっぱり、本妻が妾を疎んじてってとこかな。何やら金持ちみたいだし、子供が男ってのもまずかったのかもね。後継ぎがどうのとかの泥沼の争いってやつ?
ああ、せっかく人生勝ち組みたいな顔面で生まれたみたいなのに、こんな所で死ぬことになるとは…。どうせなら、どんな顔なのか見てみたかったな。鏡がどこにもなかったからよくわからんけど、不細工ではないと思いたい。
「あああ~~~」
とりあえず、声だけは定期的に出しといてみないとな。あんまりにも絶望的すぎて、病んでしまいそう。今まで状況把握に気を取られすぎてたけど、かなりストレスたまってたのかな。大自然に癒されるわ。
定期的に声を出しながら、眠気がやってくるのになんとか堪えていたが、赤ん坊の体ではあがらえないのか、結局叫んだだけでまた眠りについてしまった。
やばいこのまま寝ると俺死ぬかも。次目覚めたら夜とかで猛獣が口開けてる瞬間かも…
◆
微かな揺れを感じながら意識が浮上してくるのがわかる。
人肌の温もりと妙な硬さに少し身じろぐと、揺れが治まった。丁度心地いい揺れだったのに、なんだかもったいないな。と思いつつ眼を開けてみると、おっさんと眼が合った。
「起きたか。」
覗き込んでくるおっさんと合った眼をどう逸らせばいいんだ。こっちとら気弱な日本人には、うっかりがっちり眼が合った時に自分からは逸らせないんだよ!そっちから逸らしてくれ!
という願いは叶わず。
「ああ、すげーな。こんなことってありえるんだな。」
暢気に俺を覗きこみながら、おっさんは俺の顔を観察して満足したのか、前を向いてまた歩き出した。
で、あんた誰だよ。なんで俺おっさんに抱っこされてんの。ここどこよ。
見える範囲で視線を動かすが、特に目印になるような物はない。大自然の中であるのは分かるんだけどな。
仕方がないので、おっさんを観察してみるが、この人も青い髪と眼の色をしている。いや、髪の毛は青っていうより、水色かな。癖毛のようで、短髪ではあるがザックリ切っただけというのがよく分かる適当な髪型だな。お世辞にも母親の家にいた人間の関係者には見えない。無精ひげもファッションではなく、手入れされてないだけなのがよくわかる。服も何だか、薄汚れた感じだしな。
さっきからおっさんにあたってる方の体が痛いんだけどなんでだ?妙に硬いし。
「静かな赤ん坊だな、お前。」
体に感じる振動が変わったと思ったらどうやらおっさんは笑っているらしい。なんだ。静かじゃいかんのか。と思い憮然とした顔になったとこで、おっさんがまたこっちを向いた。
「まあ、そんな魔封じを2つも付けられたら、静かにもなるか。」
そう言って、俺を抱え直すと少し揺れが細かくなったのが分かった。多分歩くペースを上げたんだろう。
「村に着く前に日が落ちそうだな。」
と呟いているのを聞いて、どうも助けてくれるようだと思えた。まあこれだけしっかり安全に抱きかかえといて、殺すつもりとか別の場所に捨てる予定とかはないよな。
そう思うとまた眠気が襲ってくる。ああ、赤ん坊の体って不便だよな。
と思いつつ、寝る最後に考えたのは「魔封じってなんだ?」でした。