コラム ヘリアン系第4惑星アルゴニー
ヘリアン系第4惑星アルゴニーは、地球によく似た惑星です。
大気の組成は窒素と酸素が大半を占め、気圧も重力も、地球より数%大きい程度です。1日と1年の長さも、地球と似ています。1日の長さは地球時間でおよそ28時間、1年は300日。1日28時間で300日ということは、8400時間であり、地球時間の350日に相当します。
そして何よりアルゴニーを地球と似せているのは、惑星の表面と言う表面を覆い付くす、緑色の巨大な樹木です。
アルゴニーは地球に比べ気温がやや高く、惑星の大部分が、地球で言う亜熱帯のような気候となっています。そのため、陸でも水中でも、大きな植物がたくさん育ちます。北極や南極でも氷が少なく、むき出しの大地に植物がびっしりと生えています。
人類が初めて、無人探査船でアルゴニーを調査したとき、その緑の多さに誰もが驚いたそうです。大気の組成や気温から、おそらく生物がいるだろうと、考えられてはいました。しかし、惑星全体が緑に埋め尽くされ、マリモのようになっているとは、予想していなかったようです。人類初の宇宙飛行士の言葉をもじり、「アルゴニーは緑色だった」と報道されました。
地球によく似たこの環境から、現在、アルゴニーを“第2の地球”にしようという案が挙がっています。
ほんの50年前までは考えられないことでしたが、近年では何人もの科学者が、月や火星に居住しています。例えば私も、いま火星に居住しています。これは、月や火星では、ほぼ完全な真空や弱い重力など、地球ではなかなか作れない環境下での実験が、簡単に出来るためです。ちなみに私は、実験はほとんどしませんが、火星軌道上に建設された宇宙船港を頻繁に利用するため、ここに住んでいます。
しかし私達は、月や火星に作られた人工基地の中でしか、生活できません。もし人類を本格的に移住させようとしたら、この基地を拡大していくか、月や火星の地球化をする必要があります。
それよりは、既に地球と似た環境を持つアルゴニーに移住してしまった方が簡単だろうと、言われているのです。
ですが、本当に簡単でしょうか。
私は本書の中で、いかにも宇宙生物達と戯れているかのような書き方をしています。しかし、これは誤りです。実際には、私達はただの一度も、宇宙生物達に触れたことはありません。
これは、私達が宇宙生物達の持つ病原菌を、恐れているためです。
私達の周りの大気中には、目に見えない無数の微生物達が浮遊しています。これはアルゴニーなど、他の惑星でも同様です。私達は地球の大気中で暮らし、地球の大気中の微生物を日々吸い込み、時にそれが原因で病気になります。
もし私達が、他の惑星の空気を吸ったら、どうなるでしょうか。そこに含まれる無数の未知なる微生物たちに体を侵され、あっという間に病気になり、最悪死んでしまうかもしれません。
逆も同様です。もし宇宙生物達が、私達の吸う空気に触れたら、たちまち死んでしまうに違いありません。
そのため私達は、宇宙生物達とガラス越しでしか向き合えないのです。私達が惑星に降り立つときは、その環境がどんなに地球と似ていても、必ず宇宙服を着用します。宇宙船に戻るときも、3重のエアロックを通り、決して大気や微生物を宇宙船内に持ち込まないようにしています。
アルゴニーに移住するためには、この問題をクリアしなくてはいけません。そのためには、アルゴニーの大気を採取し、そこに含まれる物質や微生物が人体にどのような影響を与えるか、調べる必要があります。
調査には、万能幹細胞を利用した方法が良いだろうと、考えられています。薬の効果などを調べるときに使われる方法です。万能幹細胞を使うと、人体のどんな臓器でも作り出すことが出来ます。そこに採取した物質や微生物を感染させ、影響を調べるのです。
理屈としては簡単な調査なのですが、実行するのは大変でしょう。なにしろ、アルゴニーの大気からは、これまでに数十万種類を超す微生物が発見されているからです。いえ、もっとかもしれません。あまりに数が多いため、誰にも数えられないのです。これは大気中だけの数で、土や水の中の微生物も含めれば、その数はさらに増えます。人体への影響を調べるには、この全ての微生物について、全ての臓器に対する影響を調べなくてはいけません。
おそらくこれは、不可能です。現実的には、個体数の多い微生物だけを選び、調査することになると思います。しかしそれでも、数万を超すことは確実です。
アルゴニー移住計画は、まだSFの世界の話です。もし現実になるとしても、それはまだまだ遠い未来の話でしょう。