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第7話 新しい朝

「お嬢様、こちらでお話が長引きますと、侯爵様にご心配をおかけしてしまいます。お支度をすませ、人目の少ない庭園へ参りましょう。この時間でしたら、まだ人影もございませんでしょう」


 白銀の髪を静かに揺らし、レオンはそう優雅に促した。興奮した面持ちのヴィオレットを先導し、彼女の私室へと導く。

 

 専属侍女ノエミが手際よく朝の支度を整えてくれる間、ヴィオレットは逸る気持ちを抑えきれない。支度が終わると、レオンは主を伴い、朝日を受けて輝くリュミエールの庭園へと(いざな)った。


「レオン!」

 

 庭園の東屋に着くなり、ヴィオレットは先程の興奮そのままに、弾むような声を上げた。彼女の菫色の瞳は、朝日を浴びて輝きを増している。


「あの夢が、変わったのです!」

 

「神前裁判で毒を飲んだのに、それほど苦しくなかったのです!  無罪になったのです!」 


 小さな体全体で喜びを表すように、ヴィオレットは再びその全てを、希望に満ちた声で克明にレオンへ伝える。彼は、彼女の言葉を一言も聞き漏らすまいと、丁寧に耳を傾けてくれた。


 夢の内容を聞き進めるうち、彼の涼やかな表情にも、ゆっくりと安堵の色が広がるのがわかった。普段は感情を抑える彼の口元に、隠しきれない柔らかな笑みが浮かんだ。

 

「お嬢様」

 

 ヴィオレットの語りが一段落すると、レオンは静かに頷き、慈愛に満ちた眼差しを彼女に向けた。

  

「レオン、本当に変わったんですね!  私、あの毒で死ななかったんです!」


 夢の余韻を楽しむように、ヴィオレットの頬は上気し、期待のこもった瞳で彼を見上げる。その顔には、喜びと安堵が隠しようもなく表れていた。


 レオンは、そのいじらしい様子に目を細めている。


「ええ、お嬢様。わたくしもそう思います。これまでの訓練が、早くも確かな効果を上げているのでしょう」

 

 その声には、普段の冷静さの中に、温かい喜びが滲んでいるように感じられた。いつもヴィオレットの事を一番に考えてくれているレオンにとって、主の努力が夢という形で実を結んだことは、深い感慨があるのだろう。 


「やりました!」

 

 ヴィオレットは、喜びのあまり、その場で小さく跳ねた。


「これなら、未来を変えられるかもしれません!」

 

 ヴィオレットの紫水晶のような瞳は、希望の光を受けてきらめいている。レオンは、そんな無邪気な彼女の姿を、温かい眼差しで見守っていた。


「お嬢様の強い意志と努力の賜物です。その懸命な想いが、未来を少しずつ、しかし確実に変え始めているのかもしれません」


 ヴィオレットは、弾むようにレオンへ駆け寄り、その手を両手で強く握りしめた。


「レオンが私の夢の話を信じてくれたからです! 誰にも言えなくてただただ辛かった時に、信じてくれて、一緒に訓練してくれたから、私は頑張れたんです。本当に、ありがとうございます!」

 

 飾らない感謝の言葉が、ヴィオレットの純粋な心を映し出す。握った手から伝わる温もりが、レオンの胸を満たしたのが、なんだかわかる気がした。


(レオン……本当にありがとう。)


 レオンは、ヴィオレットの純粋な感謝に少し照れたように視線を外しつつ、彼女の小さな手を優しく握り返してくれた。


「お嬢様のお役に立てたのであれば、私にとってこれ以上の喜びはございません」

  

 穏やかなレオンの微笑みが、ヴィオレットの心に揺るぎない安心感をもたらす。


「この夢は、私たちにとって大きな励みになりますね。これからも、決して油断せず訓練を続けましょう。きっと、あの恐ろしい未来を必ず変えられると信じております」

 

 レオンの力強い言葉に、ヴィオレットの心にもまた未来への希望が湧き上がり、しっかりと頷いた。

 

「はい! 私、頑張ります!」

 

 二人は、朝日が降り注ぐ庭園を歩き出した。朝露を纏った美しい花々が、光を受けて宝石のように輝いている。辺りは開いたばかりの花の芳香で包まれ、小鳥たちの楽しげなさえずりが響いていた。


 清らかな朝のそよ風を浴びて、ヴィオレットは嬉しそうに花の名前を挙げ、その美しさについて楽しげに語った。レオンは、そんな主の言葉に静かに耳を傾け、時折、優しい相槌を返してくれた。

 

 庭園には穏やかな時間が流れる。ヴィオレットの表情は明るく、足取りも軽い。レオンは、希望に満ちた彼女の横顔を、温かい眼差しで見守っていた。

 

 しばらく散策した後、ヴィオレットは木陰のベンチに腰掛ける。

 

「なんだか、少しお腹が空いてきました」


 ヴィオレットは、頬を染めて照れたように笑う。

 

 レオンは、その仕草に微笑みながら答えた。


「それは素晴らしい兆候です。さあ、お嬢様。温かい朝食をご用意させましょう。今日は、この変化を祝して、ささやかなお祝いをいたしましょう」

 

 ヴィオレットは嬉しそうに立ち上がり、彼と共に、光に満ちた屋敷の中へと戻っていく。ヴィオレットとレオンの間には、困難を共に乗り越えた絆と、未来を切り開く固い決意が満ち溢れていた。

 

 朝食の席に着くと、ヴィオレットは焼きたてのパンを美味しそうに頬張った。


「夢が変わって、本当によかったです!」


 主人の歓びを目の当たりにし、レオンも笑顔を見せ穏やかに頷いた。


「ええ、お嬢様。……ですが、未来はまだ流動的です。引き続き、油断は禁物ですよ」



【応援よろしくお願いします!】


 「面白かった!」


 「続きが気になる、読みたい!」


 「ヴィオレットとレオンはこの後一体どうなるのっ……!?」


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