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【連載版】侯爵令嬢はバカ王子にさっさと婚約破棄されて、有能執事と結婚します〜「お嬢様、お任せください。そのような未来は私が断じて来させません」  作者: 源あおい
第二幕 抗う令嬢と白銀の執事

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第10話 悪夢の神前決闘

 安らかな眠りは、予兆もなく奈落へと突き落とされた。一体、何故このような場所にいるのだろうか。


 見覚えのない闘技場のような空間。じっとりと額に張り付くのは、真珠の髪飾りか、冷たい汗か。


 紫水晶(アメジスト)のような輝きを宿すはずの菫色の瞳は、目の前の非現実的な光景を捉えきれずに揺れている。

 

 レジェモン子爵令嬢ロザリー。その名にも、目の前に立つ女性の顔にも、全く見覚えがない。ましてや、侮辱した記憶など欠片もない。


 最後に参加したお茶会では、保守派閥の令嬢たちと和やかに過ごしたはず。感情を表に出せない性質(たち)ゆえ、言葉は常に慎重に選んできた。それなのに。


 観客席ではきらびやかな装いの貴族たちが、冷ややかにヴィオレットを見下ろし、囁き合っている。


 逃げ場のない閉塞感と、身の潔白を叫びたいのに声にならない焦りが、ヴィオレットの体をきりきりと締め付けた。まるで、見えない鎖に縛られているかのようだ。


 その時、場に厳かな神官の声が響き渡った。


「――神意に基づき、これよりボーフォール侯爵令嬢ヴィオレットと、レジェモン子爵令嬢ロザリーとの間に、神前決闘を執り行う! 武器は自由、魔法の使用も可とする。神は正しき者に勝利を与え、罪深き者に裁きを下されるであろう!」


 続く神官の説明は、ヴィオレットを更なる絶望へと突き落とした。どうやら、この場に来る前に無罪を訴え、神意を問う決闘が決定されたらしい。


 ロザリーは既に代理人を立てているが、「常日頃、武門の名家ボーフォールの生まれであることを誇っていた」事を理由に、ヴィオレットが代理人を立てることは許されない、と。


 勝てば無罪放免、しかし負ければ――自身のみならず、侯爵家にも累が及ぶという。あまりにも理不尽な裁きだ。


「決闘……? わたくしが?」


 つい先日、毒を克服する夢を見て、未来を変えられると、あれほど喜んだばかりなのに。 血の気が引き、目の前が暗くなるような感覚に襲われた。


 剣など、幼い頃に父から嗜みとしてほんの少し手ほどきを受けただけ。魔力量は多くても、未だ初級魔法すらおぼつかない。


 恐怖で足が竦む中、アデール・クールエピスと名乗った女性騎士は、冷たい視線をヴィオレットに向け、鋭い剣先を突きつけた。


 ヴィオレットは必死に後退するが、アデールの剣は容赦なく迫る。洗練された無駄のない剣筋は、素人のヴィオレットには到底見切れない。虚しい剣戟の音が響き、アデールの剣は正確にヴィオレットの急所を狙う。


 そして、その瞬間は訪れた。アデールのレイピアが、ヴィオレットの胸を深く貫いた。熱い衝撃と、息が止まるほどの激痛。視界が急速に赤く染まり、意識が暗闇へと引きずり込まれていく。


 薄れゆく意識の中、遠くから悲痛なレオンの声が聞こえた気がした。


「お嬢様……!」








「――はっ……!」

 

 悲鳴を飲み込み、ヴィオレットは目を覚ました。全身は冷たい汗でぐっしょりと濡れ、心臓が警鐘のように激しく鳴り響いている。幻のはずの痛みが、今も生々しく胸に残っていた。


 ベッドの中で身体を丸め、切り裂かれた心臓をかき集めるかのように胸に手を当てたまま、身じろぎ一つ出来なかった。身体に力が入らず、あまりの苦しさに、ナイトテーブルの呼び鈴に手を伸ばすことさえ、ままならなかった。 


(なぜ……なぜこのような事になってしまうのですか?)


(わたくしは生きていてはいけないようなことを、将来やってしまうのですか?)


(オーギュスタン殿下……教えてくださいませ……)

 

(……レオン……助けて……)


 涙はとめどなく流れ、寝具に吸い込まれていった。


 


 やがて朝日が昇り、いつもの時間に侍女のノエミが寝室へやってくると、直ちにヴィオレットの異変に気付いた。 


「お嬢様!? いかがなさいましたか? すぐに侍医をお呼び致します!」


「……侍医はいいわ。それよりもレオンを呼んでちょうだい」


「かしこまりました」


 ノエミは、手早くヴィオレットの乱れた深紫色の髪を櫛で梳かし、身支度を整えた。隣の応接室のソファへと優しくヴィオレットを運び、足早に部屋から去っていった。


 まもなくレオンを連れてノエミが戻ってきたので、レオンと二人きりにしてもらうと、レオンの顔には驚きと、すぐに深い心配の色が浮かんだ。


「お嬢様、どうなさいましたか?」


 レオンは努めて穏やかな声で促すが、その声には隠しきれない緊張が滲んでいた。


「また、夢を…… 今度は…… 決闘で……殺される夢を……!」


 声は震え、涙で視界が滲む。ヴィオレットは、堰を切ったように涙ながらに夢の内容を語った。見知らぬ令嬢ロザリー、冷酷な騎士アデール、身に覚えのない罪状、そして何よりも、剣で貫かれる恐ろしい結末を。


「……昨日までは、毒を飲んでも大丈夫だったのに……未来は、変わったはずなのに……! なぜ、今度は決闘なのですか……? わたくし、どうすれば……」


混乱と絶望が、ヴィオレットの言葉を途切れさせる。小さな肩が、頼りなく震えていた。


 ヴィオレットの震える語りを、レオンは微動だにせず聞き入っていた。全てを聞き終えると、常の穏やかな微笑みは消え、その白銀の髪に縁どられた端正な顔には深い憂いの色が浮かんでいた。

 

心配の色が濃い瑠璃色の瞳の奥には、ヴィオレットに向けられる深い同情と、彼女を脅かす見えざる敵への、燃えるような静かな怒りが感じられた。


「……決闘、でございますか。毒とはまた異なる、直接的な脅威ですね」


レオンは静かに呟くと、ヴィオレットの目を見て、はっきりと言い切った。


「ですが、お嬢様。ご案じなさいませぬように。未来がどのように形を変えようとも、 このレオン、必ずや道を切り拓いてみせます」


 その言葉には、毒への対策を講じた時とはまた違う、揺るぎない覚悟が込められていた。初めての悪夢を見て希望を見出した時よりも、さらに強く重い響きが、ヴィオレットの心に届く。


(レオン……)


 レオンの力強い眼差しは、悪夢の残滓に怯えるヴィオレットの心を、一条の光のように照らし出す。そうだ、一人ではない。この頼もしい執事がそばにいる。


(毒を克服したことは、きっと無駄じゃない。未来は変えられるはず。今度の悪夢も、きっと……)




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