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第三話 狂女

秋の面影が去り始め、冬の寒さが北風と共にやってきた。

もうすぐで立冬の日がやってくる。刹那が私を冬の巫女として、花嫁として認め迎えにやってくる約束の日。

まさか、この赤い髪と翠緑色の瞳、そして、癒し内容が冬の巫女の証だなんて刹那達に聞くまで知る由もなかった。

ずっと、これが原因で村からは除け者にされ、叔母達からは道具のように扱われ続けているから嫌いだった。

けれど、今は違う。髪と瞳と異能のお陰で刹那は私を見つけれくれた。

こんなに傘で髪を梳かすのが楽しいと思ったのは初めてだ。いつもどうしてこんな色の髪で生まれてしまったのだろうと考えながら髪を整えていたのに。刹那にあったから全てが一変した。

彼から貰った百合の髪飾りを手に取る。月明かりに輝く不思議な溶けない氷はとてもきらきらしていて美しかった。

叔母達の元に来てから地獄のような日々をずっと送っていた。

今でも続いてはいるが、彼に会って逢瀬を重ねるようになってからは耐えられるようになったし気持ちも少し楽になった。

こんなに幸せな日々は大好きな家族を火災で失って以来。久々に笑えた気もしていた。

瑠璃奈達にどんな仕打ちを受けても刹那との約束が希望を与えてくれる。父さん達が言っていた言葉が現実味を帯びてきた。

いつも冬が来る頃は寒くて辛い思いしかしかないのに、今はその寒さが恋しい。

刹那のあの優しげな微笑みを思い出しながら髪を梳かす手を動かしている時だった。


「何をしているの?お義姉様?そんな鼻歌なんて歌いながら気持ち悪い髪を梳かして」


聞きたくなかった瑠璃奈の声が背後から聞こえてきた。私は手を止め慌てて彼女の方に身体を向ける。

百合の髪飾りを後ろに隠すも瑠璃奈の目に映ってしまったようだった。


「その髪飾り、あの方にもらったの?素敵な髪飾りじゃないの」

「る、瑠璃奈、これは」

「あの方、とても素敵な瞳をしていたわ。宝石なんかよりも美しい灰青色の目。あんなに綺麗な瞳を見たの私初めてだったわ」


私は焦る。いつ見られてたのか、刹那の事が瑠璃奈にバレてしまった、焦りと恐怖で言葉が出てこない。

私の目の前にいるのは嫉妬に狂った瑠璃奈。彼女の口から出てくるのは刹那のことばかり。


「あの瞳には私が映るべきなのに、どうして化け物のアンタが映るのかしら?」

「っ…!!」

「私が冬の巫女なの知ってるわよね?冬の巫女は冬神の花嫁になる定めなのにアンタはあの方を平気な顔して惑わして、アンタのその卑しい目を使ってあの方を唆して、その身体を使ってあの方を穢した」

「ち、違うわ!彼は…!!」

「違わないわよ!!!冬神様は私の旦那様になる人なのに!!!全部アンタが台無しにしたのよ!!!!」


瑠璃奈は怒りを露わにし私の顔を激しく叩いた。私はその衝撃で思わず倒れ込んでしまった。

隠していた百合の髪飾りが床に落ちる。瑠璃奈は髪飾りを奪い自分の髪に刺した。

下から見上げてみる瑠璃奈の姿は悪鬼そのものだった。


「冬の巫女である私があの方の愛を受けるべきなのに!!それをアンタは平気な顔をして奪った!!アンタが持っているものは全部私のものなのよ!!!」


すると、私の髪を掴み引き摺るようにどこかへ連れて行かれる。離して、痛いと訴えても今の瑠璃奈には通用しない。

連れて行かれた場所は座敷牢。

罰を受けた者が入るそこに突き飛ばされるように入れられると、瑠璃奈の侍女達が私を強く押さえつけ動きを封じてきた。

周りには叔母達と彼女らに支える女中達が待ち待ち構えていた。


「お母様。早速初めて」

「瑠璃奈?!何をするの?!」

「きっと神様は冬の巫女の力を与えるべき人を間違えているのよ。だから訂正してあげなきゃでしょ?アンタみたいな馬鹿女に相応しくないわ」

「そうよ。可愛い瑠璃奈から大切な旦那様を寝取るような女狐には罰を受けさせなきゃね」


すると、女中から何かを受け取った瑠璃奈が私に近づいてきた。手には何か光るものが握られている。

突然、腕を振り上げ私の顔に向かって振り下ろしてきた。

殴られた衝撃ではなかった。皮膚が切り裂かれる鋭い痛みが走った。

顔に大きな切り傷ができ鮮血が溢れてきた。


「あ…あぁ…」

「アハハ!!可哀想!!顔にこんな傷があったんじゃ冬神様もアンタなんか見向きもしないわね!!」


瑠璃奈が受け取っていたものは剃刀だった。

鋭く磨がれた剃刀を瑠璃奈は何度も私の顔に振り下ろした。

傷だらけで血塗れになった私の顔を見て瑠璃奈達は嘲笑った。治ったとしてもこの傷じゃ痕が残ってしまうだろう。こんな顔じゃもう刹那に会えない。

傷だらけの女を彼のそばに居ていい権利なんてない。


「顔だけは許してやってたのにね。まぁ、アンタが私から未来の旦那様を奪ったのが悪いのよ」


激しい痛みが顔に走る。こぼれ落ちる涙が傷口に通る度に痛みが沁みる。

拷問のような時間は続く。

叔母と瑠璃奈の命令を受けた女中達が私の赤い髪を黒く染め始めた。塗料の匂いが鼻に付く。傷口に塗料が落ちようと、着物が汚れようと構わず私の髪は弄られてゆく。

私は逃れようともがくも、乱暴に押さえられ動けない。

そして、最後に私の目に帯を巻いて視界を奪った。

私は慌てて外そうとしても外せなかった。


「2度と色目を使わせない様に帯に術をかけたの。アンタのその気持ち悪い目のせいで冬神様は惑わされたんだから。アンタは一生私達の道具なのよ。その異能も死ぬまで使わせてもらうから」

「ほら、瑠璃奈。立冬の日はもうすぐでしょ?そろそろ準備しなきゃね」

「はぁい♪お母様♪」


楽しそうに話す親子の会話だけしか聞こえない。

髪も黒く染められてしまった。顔も切り刻まれてしまった。

もう何も見えない。もう刹那の笑顔も見れない。

絶望する私に瑠璃奈が耳元で囁いてきた。


「アンタの両親が死んだあの火事だけど、アレ、私が指示したの」

「え…?」

「あの馬鹿な両親と妹と仲睦まじく暮らしてる姿が腹が立って仕方がなかったの。お父様とお母様に頼んだらすぐ動いてくれてね、火の中を逃げ惑うアンタ達を見るの最高に楽しかったわよ?」

「そんな…どうして…!!!どうして私にこんなこと…!!」


瑠璃奈が意地悪そうな笑顔を向けた。


「アンタが幸せにする姿なんて許せないからよ。あんな髪と目を持って村のみんなには差別されてるくせにヘラヘラ笑ってるアンタがね。アンタは私の下で一生苦しんでいればいいの。それが私の最高の喜びなんだから」


キャハハっと楽しそうに笑いながら私の元から去る。

去り際の女中達から暴言を吐かれながら私は乱暴に座敷牢に閉じ込められた。

逃げられない様に手と足に枷をつけられた。


「瑠璃奈様の邪魔するんじゃないわよ。疫病神」

「瑠璃奈様の旦那様を寝取るとか本当最悪。よくも生きていられるわね」


全てを傷つけられた私にその言葉は効きすぎた。逃げたくても逃げられない。

刹那に助けを求めたい気持ちがないと言ったら嘘になる。

けれど、こんな顔と髪、見えなくなった目の私を彼に見られたくなかった。


「刹那…!!!」


暗く寒々しいたった1人の座敷牢。異能を施す為だけの道具となってしまった。

もう一度だけ彼の顔が見たかった。刹那の私を見つめるあの優しげな微笑みを一目だけで見たかった。

顔の傷の痛みに耐えながら私は涙を流した。

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