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第二話 冬神と巫女

冬の巫女は名前とは裏腹にその見た目は奇抜そのものだと聞いていた。

髪は血の様に赤く、美しい翠玉の様な翠緑色の瞳。

冬神がすぐに巫女を見つけられる為に、巫女の始祖の血統と異能がそうさせているらしい。

けれど、俺が親父から冬神の使命を継いでからしばらく経ってもそんな女は見当たらなかった。

使いの妖や式神を使っても、冬の巫女にしか扱えない癒しの異能のことも、赤い髪と翠緑色の瞳を持った女の情報なんて一つも得られなかった。

愚かな人間共が俺の花嫁になろうと何人も姿を偽りやってうんざりしていた。

冬神の花嫁になれば永遠に楽に暮らせる。一生食いっぱぐれなくてすむ。神との間の子供を産めばこっちのもの。

そんな奴らばっか。

他の四季神達はもうとっくにそれぞれ花嫁を見つけていた。

つい最近、春神もようやく花嫁を迎えた様だった。

どんな困難でも果敢に立ち向かう優しい人でぽやぽやしてる自分を引っ張ってくれるかっこいい女性(ひと)だと春神は惚気ていた。

離ればなれになってしまったお姉さんにとても会いたがっていると寂しげに言っていた。

周りが大事な花嫁を見つける中で俺は何も手掛かりのないまま日々を過ごす。

妖と式神達も懸命に探してくれてはいるが成果はない。

このままずっと1人で周りに花嫁を決められてしまうのではないかと嫌気が差し始めていた頃だった。

用事で下界に出ていた式神の1人もちゆきが朗報を届けてきてくれたのだ。

悪意ある人間に襲われて怪我を負い、彷徨っていたところを赤い髪の女に助けられたらしい。

しかも、異能を施されて怪我も治してくれたそうだった。


「刹那様!!絶対にあの人が冬の巫女ですよ!!僕の怪我を異能で治してくれたし!!」

「確かに普通の人間じゃ無理だが…本当に?」

「本当ですってば!!あの赤い髪と翠緑の目はもちろん、異能を怪我をした僕に施してくれたんです!!」

「きっとカラクリかなんかだろ?また俺を騙そうとしてる奴に決まってる」

「もう本当ですってば!!信じてください!!僕が案内しますから付いてきてください!!」


目を輝かせながら必死に俺の着物の裾を引っ張るもちゆきの姿に呆れつつもその話を信じてみることにした。

妖と違って式神は俺の命を受けて召喚された存在だからか嘘をつくのがあまり得意ではない。だから、信じてみる価値は十分あった。

もちゆきを助けてくれた力も見てみたかったし、どんな人間なのか会ってみたかった。

もちゆきに案内された場所に着くと、其処は大きな屋敷の中。

だが、連れて行かれた場所は明るい声がする方ではなく、暗く寂しい寒々とした狭い部屋。まさか、こんな所に冬の巫女がいる訳がない筈。

冬の巫女なら生まれた土地でとても大事に扱われている筈なのにこんな場所に住んでいるなんて考えられなかった。

くんくんと鼻を動かしたもちゆきが何かの気配を感じ「わん!」と吠えると嬉しそうに真っ直ぐ駆けて行く。

確かに気配を感じる。部屋が暗いせいで姿は確認できない。

俺はもちゆきが走り去っていった方向に顔を向けると燭台の灯りだろうか?橙色の淡い光がもちゆきと赤い髪の女を照らしていた。

もちゆきはその女に撫でられてとても嬉しそうだった。

だが、俺の気配に気がついた女が声を荒げた。手には手持ちの燭台と短刀を構えた。

その姿は、もちゆきの言う通り赤い髪で翠緑色の瞳を持った女。

今まで偽ってまで俺に近付いてきた女とは違う。正真正銘の冬の巫女の姿。そして、異能で俺の式神を助けて手懐けてしまった人。

これが杠葉七海との最初の出会いであり、彼女こそようやく見つけ出した冬の巫女であり俺の花嫁だったのだ。




初めて冬神である刹那と出会って、私が冬の巫女だと告げられてからしばらく経ち少し暖かかった秋から寒々しい冬に変わろうとしていた。

彼はあの夜からというもの、頻繁に私の元に現れる様になった。しかも、本来は18の年になった立冬の日に私を巫女として冬神の花嫁として迎えに来ると告げていた。

けれど、18の歳をもう迎えているのにほんの少し先の立冬の日までなんて待ちきれないと満月の晩に必ずやって来るようになっていた。

いつもの瑠璃奈の巫女の勤めと屋敷での仕事で霊力も気力も体力も使い切って疲れている私をそっと抱きしめ労ってくれる。労いだけでない愛情も込められた言葉と一緒に。

今までそんなことしてくれる人なんて亡くなった両親と絵梨だけだったから戸惑いはまだある。他人でしかも異性にそんな風に語りかけられるなんて始めてだった。

でも、満更でもないなっと自分でも思ってしまう。

村のみんなや叔母達はみんな瑠璃奈しか褒めないし労わない。異能を使っている私には暴力と暴言と命令だけ。

化け物の象徴だと言われていたこの赤い髪と翠緑色の瞳を美しいと説いてくれる。

会う回数を重ねる毎にゆっくりとだが刹那に惹かれてゆく自分がそこにいた。


「っ…ちょ、ちょっと…!!」


刹那は私の首筋に顔を埋め口付けをしてきた。口付けや軽く歯を立てられる感触はくすぐったさと気恥ずかしさが混じって顔を真っ赤にさせる。

その感触に慣れないせいで抵抗してしまうが嫌だと思っていない自分がいる。受け入れようとしていることに戸惑いを隠せなかった。

刹那の私への気持ちは行動と言葉で示される。彼の思わぬ行動に私はいつも驚かされていた。

彼が言うには冬の巫女や花嫁とか関係なしに私に一目惚れしたという。ここまで人を愛することなんて今までなかった様だった。

いつも自分の前に現れるのは欲に塗れた者だけで嫌気がさしていたところに、ようやく正真正銘の冬の巫女である私を見つけた。そして、一目見た途端惚れしまったと。

もちゆきくんを助けてくれたことも惚れた一つの要因だと彼は言っていた。もちゆきくんが普通の子犬ではなく式神だった方が驚いたけれど。

確かに刹那は私に嘘偽りない深い愛をくれる。私には勿体無いほどの深過ぎる愛をいつも。

嘘偽りのない刹那からの愛情のお陰で、口付け以上の事も受け躊躇なく入れることもできた。怖かったけれど、刹那は私の気持ちを汲み取り大事にしてくれた。

会えない晩があった時は貪る様に私に愛をぶつけてくる。

罵られ利用されるだけだった私を愛してくれる彼の気持ちに応えようと必死だった。


「七海のそばにいると落ち着く」


それは私も同じで、刹那のそばにいると落ち着き霊力が回復してゆくのだ。

どうやらそれも冬の巫女の証であると刹那から聞いた。

冬神と冬の巫女は切っても切れない存在なんだそう。霊力が安定させてくれるのはその影響らしかった。

異能を限界まで使って霊力が空になってしまっても刹那がいる晩だけ回復が早かった。きっと刹那もそうなのだろう。

彼との出会いも、彼の花嫁になるのも必然だったのだと異能と霊力によって示されていた。

そういえば、初めて会った時は"刹那様"と呼んでしまったが、初めて口付けを交わした際に様付けしないで欲しいと言われてしまった。

四季神という立場の彼に呼び捨てなんていいのかと考えてしまったが、いざ彼の事を"刹那"と呼ぶととても嬉しそうに微笑んでくれた。

彼がくれた不思議な氷でできた百合の髪飾りを付けて待つ様になってからも「付けてくれたのか」と満足げだった。

私が刹那に惹かれ始めたのもこの優しげな笑顔と偽りのない想いを少しずつ受け入れたからだろう。

それでも、今までこの容姿のせいで迫害され続けた影響が出てきてしまう。このまま彼のそばにいたら足手纏いではないかと。


「本当に私なんかでいいの?こんな髪と目なのに」

「こんなって言うな。全部美し過ぎる。それなのにアイツらは七海のことを化け物だとか言いやがって…」

「でも、本当のことでしょ?私の周りにはこんな色の人誰もいないもの」

「それは七海が特別な人だからだ。化け物でもなんでもない。どんなに蔑ろにされようと優しく誰にでも手を差し伸べ助けてきた。もちゆきを助けてくれたのが何よりの証だろ?」

「…そうね。ありがとう刹那」


刹那は瑠璃奈達や村のみんなに怒りをぶつける。

私と初めて出会ってからというもの、彼は妖や式神達を使って私の身の回りのことを調べ上げたそうだった。

私が置かれている環境と差別、瑠璃奈が冬の巫女として認められてしまっている事等全部。

早くここから私を連れ出したいと刹那は言ってくれたが、私が黙って此処からいなくなってしまったら悪意の矛先は妹に向けられてしまう。だから、立冬の日まで待ってほしいとお願いしていたのだ。

叔母達や瑠璃奈達に事実を告げて、絵梨を取り戻してから刹那とこの屋敷を出たいと思っている。

刹那が最も怒りをぶつけているのは義妹の瑠璃奈と叔母達へだ。

全てを失った私への仕打ちを彼は許さなかった。きっと私の背中を見たからだろう。


きっかけは、刹那と出会ってから少し経った初めて体を重ねた満月の晩。

私は誰かに背中を見られるのが嫌だった。

叔母達は理不尽な理由で罰を与える時や憂さ晴らし私に危害を加えてきた。その結果、身体中に傷の痕や火傷の痕が残ってしまった。

手や足にも傷跡があるのだが特に酷いのが背中だ。

叔母達や瑠璃奈は私の背中を蹴ったり、物を使って打ったり、熱湯をかけたりしてきた。気づけば傷ひとつなかった背中はボロボロになっていた。

ある晩の刹那との逢瀬で、背中にかかった長い髪で覆い隠していたが少し傷痕が見えてしまったらしく、気になってしまったのか彼に見せてくれないかとせがまれてしまった。


「ダメ。私の背中すごく汚いから」

「それでも構わない。七海の全てを受け入れたいんだ」

「…幻滅するわよ。見たら絶対に後悔もする。こんな身体の私を巫女として、貴方の花嫁とし受け入れるのは」


瑠璃奈の策略で仕向けられた男に襲われ背中を見られた際に汚いと叫ばれたのが頭に焼き付いている。こんな気持ち悪い傷だらけの女を抱きたい男なんていないと罵倒され拒絶された嫌な思い出。


「あーあ。可哀想なお義姉(ねえ)様。こんな傷だらけの身体じゃ誰も愛してくれないわね。お嫁になんか一生行けないんじゃないの?まぁ、道具としては使えるかもだろうけど。あはは♪ほーんと、誰からも愛されない人ってなんて惨めなのかしらねぇ♪」


あの時の瑠璃奈は私を見てそう嘲笑った。彼女の言う通り過ぎて私は何も言い返せなかった。

瑠璃奈の言葉が頭の中に蘇って傷痕と火傷痕が刻まれたこの身体を刹那に見せるのが怖い。

刹那も私を襲おうとした男と同じ事を言うのかもしれない。

こんなに私に愛を説いてくれている彼の口から聞きたくなかった。怖くてこの背中を見せる勇気は今の私にはなかった。

刹那が背中にかかる私の髪をそっと掻き分けた途端、拒絶されてしまうと感じ思わずぎゅっと目を瞑る。

彼の目に映る傷だらけのボロボロの背中。怖くて言葉が出ない。今すぐにでも逃げ出したかった。

けれど、彼がそれだけで私を諦めてしまう様な神様ではないを思い知らされる。


「……刹那?」


私を後ろから抱きしめてきた。とても力強く、私の肩に顔を埋めて。

彼の中に拒絶という選択肢なんて最初からなかった。もう離したくないと言葉にしなくても痛い程伝わってきた。

私はそっと目を開き刹那の顔を見る。


「…すぐに見つけられなくてごめん。七海をこんな風にしたのは俺のせいだ」

「刹那は何も悪くないわ。私が弱かったから」

「七海は弱くなんかない。十分立ち向かってきたんだ。二度とこんな目に遭わせるもんか」


拒絶なんかない。ずっと耐えてきたものが報われてゆく。

父さん達が言っていたことが現実になってきている気さえした。

この背中を見ても逃げ出さず受け止めてくれた刹那に向き合う。彼は悔いと悲しみが滲ませた決意を秘めた眼差しを私に向けた。


「今度は俺がお前を救う番。必ず此処から連れ出して幸せにする」


刹那のその言葉を信じて私は彼に身を預けた。

冬の巫女を迎える立冬を迎える前に一線を越えてしまったがお互いそんなこと構わなかった。

夜空を照らす満月が私達を祝福する様に照らしていた。






















瑠璃奈は婚約者と些細なことで喧嘩をしむしゃくしゃしていた。

苛立ちながら廊下を歩く瑠璃奈は、この鬱憤を晴らそうを七海の部屋に向かっていた。

あの化け物みたいな髪と目を持って、自分が欲しくてたまらなかった癒しの異能を持った七海の存在がどうしても許せなかった。

瑠璃奈は冬の巫女として愛される存在で、七海は蔑まれる存在。それだけでは飽き足らず、彼女から全てを奪い一生自分達の道具として死ぬまで使い続けてやると考えていた。

だが、今まで瑠璃奈達には七海の妹の絵梨の命という切り札があったのだが、ある出来事によってその切り札が使えなくなってしまったことも苛立ちを更に助長させていた。しかも、四季神が絡んでいるという。

村は四季神の加護によって生かされている。その加護がなくなってしまったら一気に廃れて村は死んでしまう。

同時に、冬の巫女は癒しの異能だけでなく、赤い髪と翠緑色の瞳も証の一つであるという噂も聞いてしまっていたのだ。

全ての条件が揃っている七海こそ真の冬の巫女だと証明されたようなものだった。


(この事がみんなにバレたら追放されちゃう!!!私を見下すに決まってるわ!!!!なんなのよ!!姉妹揃って私達を馬鹿にして!!)


生まれてからずっと冬の巫女として皆に慕われ、地位と富を得ていた。だが、絵梨の一件と噂のせいでそれが崩れ始めてきている。

今はこの苛立ちを七海に全て八つ当たりとして晴らしてやると彼女がいるであろう部屋に急いだ。

七海の部屋の引き戸に手をかけようとした時だった。戸の向こうから聞こえないはずの男の声がしたのだ。

驚いた瑠璃奈はそっとほんの少しだけ戸を開け部屋を見ると、目に飛び込んできたのは、肩まで黒い髪を伸ばし、薄い灰青色の瞳を持った美しい男の横顔。


(だ、誰なの?!こんなに美しい人初めて見た…)


見つかってしまう危険があるというのに瑠璃奈は男に見惚れてしまった。

あまりの美しさに瑠璃奈の心はすぐに奪われてしまったが、すぐにその心は打ち砕かれた。

男の目線の先に瑠璃奈が最も嫌う女がいたからだった。

瑠璃奈には向けられることのない男の優しげで愛おしいものを見る様な眼差しはよりにもよってあの七海に向けられていたからだ。


(なんでアイツをその目を向けるの?)


とても初めて会った様な感じではない。何度も逢瀬を繰り返していた様子だった。

大切な物を扱うように七海の赤い髪に触れ、彼女の翠緑色の瞳を愛おしそうに見つめる。

男は幸せそうに七海を抱き、七海も彼の愛に応える様に背中に手を回していた。


(どうしてあの女なの…?!)


七海に対して理不尽な悪意を向けようとした時だった。

男がギロっと目を瑠璃奈に向けてきたのだ。その目は七海に向けていた慈しむ目ではなく、強い殺意がこもった目で瑠璃奈を睨みつけてきたのだ。

瑠璃奈は思わず「ひぃ」っと小さく悲鳴を上げ急いでその場から逃げ出した。


(なんなのあの男。私にあんなの目を向けるなんて…!!!でも…あの青い目って…確か…)


あの男の薄灰青色の瞳。冬神しか持たないといわれる特別な目だと聞いた事があった。

冬を司る神のみが与えられた宝石の様な瞳。

もしそれが本当だとしたら、七海と逢瀬を繰り返していたのは冬神ということになる。

そして、冬の巫女のみが持つ癒しの異能を七海が持っているというのなら。


「あの女が冬神様の花嫁だと言いたいわけ…?」


自室に戻ってきた瑠璃奈はその真実を受け入れられず、怒りのあまり置いてあった白い花瓶を思いっきり壁に叩きつけた。花瓶は乾いた音と共に砕け散り残骸が床に散乱した。


「あんな化け物女が冬の巫女なわけないでしょ!!私から全てを奪っておいて、あの方の花嫁になるなんて絶対に許さないぃぃ…!!!!」


取り乱した瑠璃奈は冬神を自分のものにし、七海達姉妹を陥れてやると躍起になった。その姿は狂気そのもの。

けれど、男が瑠璃奈に向けた殺意は氷の様に冷たい呪いの棘となって突き刺さっているのを彼女はまだ知る由もなかったのだった。

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