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第一話 赤い髪と翠緑の瞳

この血の様に赤い髪と翠玉みたいな翠緑色の目を持って生まれて来て良い事なんて一つもなかった。

私が住む村には私の様な色の髪の人も、私の様な目を持った人なんかいない。みんな黒髪で茶色の瞳。

奇抜な色を持って生まれた私だけいつも村で浮いていた。

そのせいで友達なんてできたことなんて一度もなかった。寧ろ、化け物とか、お前は不吉な存在だとか、村に災いを呼ぶとか言われて、除け者にされたり、叩かれたり、髪を引っ張られたり、石を投げつけられた。

私だけ異能を持っているのもとても気味悪がられた。

私のせいで両親も周りの人間から避けられたり除け者にされたりしていた。

子供の頃の記憶に楽しかったものなんか殆どない。父さんと母さんと妹の絵梨がいなかったら耐えられなかったと思う。

唯一私を愛してくれていたのは家族だけだった。

家族のみんなも村の人同様、黒髪で茶色の瞳を持っているのに私だけ似ていない。

けれど、父さん達は赤髪と翠緑色の瞳である私に愛情を注いでくれた。小さかった頃の絵梨はいつも「おねーちゃんのかみきれーだね」っと嬉しそうに話してくれていたのをよく覚えている。私の心は彼等のお陰で救われていたのだ。


「七海。この癒しの異能と赤い髪の毛と宝石の様な目はきっと貴女を幸せに導いてくれるからね」

「今がどんなに苦しくても必ず報われる希望を捨てちゃだめだ」


父さんと母さんは私にそう説いてくれていた。今でもその言葉は私の支えになってくれている。

どんなに酷い仕打ちを受けても希望を捨てなければきっと報われると信じ続けてた。

私だけにしか使えない異能は、傷つき困り果てている者以外には見せてはいけないとも言われ続けた。

この異能を持っていることがバレてしまったら私を道具として利用してくる輩が現れてしまうからだと。

私は両親との約束を守り続けた。両親も私を守ってくれていた。

けれど、現実は残酷そのものだった。

私が13歳になった頃、愛する両親を火事で失ってしまったのだ。

誰かが家に火を放ったのだ。今だに犯人は見つかっていない。

思い出の家が消失してゆく姿は今でも夢に見る。業火に焼かれてゆく両親の姿と絵梨の絶叫。焦げる匂いと絶望の悪夢。

燃え盛る炎の中で父さんと母さん達は私と絵梨を命懸けで守ってくれたのだ。

けれど、失ったものは余りにも大き過ぎた。全てが無になり思い出の面影は真っ黒に炭化してしまった。

残された私と絵梨は親族に引き取られることになった。

これからも絵梨とずっと一緒にいられると信じていたが、私を引き取った母方の叔母が絵梨を引き取るのを拒否したのだ。私を引き取るだけでも面倒くさいのにこんなチビまで一緒なんてまっぴらだと。

結局、絵梨は同じ母方の遠い親戚に引き取られることになってしまい離ればなれに暮らすことになった。

楽しかった生活は孤独で苦しいものに一変する。

叔母家族との生活は地獄そのものだった。

女中の様に扱い、少しでも気に入らないことがあったら暴力を振るってきた。

与えられた部屋もとても狭く暗い所で、まるで牢屋の中にいる様な場所だった。

火事で無くなってしまった私の部屋はとても明るく大好きな物で溢れていたが今はその真逆だ。

それ以外にも頭を悩ましている。叔母の娘で義妹の瑠璃奈の私への当たりが強いことだ。


「本当、アンタって馬鹿でノロマよね。こんな気持ち悪い髪の毛と目なんか持っちゃって。まさに化け物そのものよね」


私に物を当てたり、熱いお茶をわざと手にかけてきたり、私に罪をなすりつけたりして私を見下す。

伸ばしていた髪を面白がりながら切られた時もあった。けれど、抵抗すれば殴られる。

それよりも、少しでも逃げようと考えれば遠くに住む絵梨に危害を加えられてしまう。

だからただ耐えるしかなかった。どんなに理不尽な扱いを受けたとしても耐え続けるしかなかったのだ。

身体中傷だらけで、傷でできない日と痛くない日なんて稀だ。


「逃げてもいいのよぉ?でもぉ、その代わり、アンタの可愛い妹ちゃんを娼館に売り飛ばしてやるから。あの子の歳ならおじさん達が大喜びよねぇ〜♪若ければ若いほど売れるし♪」


私が反論できないことをいいことに瑠璃奈は楽しげに話し続ける。


「絵梨ちゃん可哀想。アンタみたいなお姉ちゃんを持ったせいでご両親は亡くなって奉公に出されちゃって。引き取られた先で泣いてるかもね。お姉ちゃんのせいで娼館に売られちゃうとか本当哀れ。あはは♪」

「やめて…!!絵梨には何もしないで…!!」

「だったら口答えしたり、逃げ出したりするんじゃないわよ。アンタは一生私達家族の奴隷なんだから」


瑠璃奈の両親からも同じ様なことを言われている。

流血する程の怪我を負っても、火傷を負っても、彼女らには関係ない。

それは周りの使用人達も一緒。誰も私のことを助けてくれようとしなかった。


更に事態を悪化させてしまう出来事があった。私が引き起こしてしまった事。

それは、癒しの異能をよりにもよって瑠璃奈にバレてしまったのだ。

屋敷の庭に小麦色の子犬が何処からかふらふらと迷い込んできた。その日は雨で子犬はずぶ濡れのまま傷付いて弱っていた。

既に夏の暑さは去り秋へと移り変わっていて、雨も降っていていつもより寒かった。このままこの子を放っておけば死んでしまう。

私は周りに人がいないか警戒しながら、その子をそっと抱き上げ癒しの異能を施した。

しばらく使っていなかった異能は衰えておらず、子犬が負った傷が少しずつ癒てゆく。慣れていた毛も乾いてゆき、冷たかった体温もゆっくりと温まってゆく。

異能の優しい白い光が傷付いた私の心も少しだけ癒してくれた。父さんと母さんが私に与えてくれた優しさと希望の言葉が頭の中を掠める。

傷付いていた子犬は最初は傷の痛みで険しい表情を浮かべていたが、異能が傷と体力を癒してゆくにつれて緊張が解けてゆく様に安心している様な表情へ変わってゆく。

施しを終えると、犬は元の姿に戻り元気よく私の腕の中から飛び降りると"わん!!"と感謝をする様に一言だけ鳴いたと思うと突然強い風が吹きつけてきた。

ゆっくりと目を開けるとそこには子犬の姿はなかった。

どこに行ってしまったのかとても不思議だけれど、傷の癒えた今なら寒い雨の中でも生きて行けるだろう。

私は不思議な子犬のことを思いながら微笑んでいた時だった。


「アンタが…、アンタが持ってたのね…!!冬の巫女しか持たない癒しの異能を!!!!私はなにも授けてくれなかったのに…!!!」


背後から声が聞こえたので慌てて振り返ると、怒りに震えている瑠璃奈が立っていた。

怒りのあまり顔が真っ赤になっている。無理もないだろう。

彼女は村の中で冬の巫女として慕われている。

冬の巫女が持つとされる異能を瑠璃奈は神様から授からなかった。

けれど、異能がなくても生まれ持った美貌と仮初の優しさだけで村を練り歩き祈るだけでみんなから愛される。

そんな彼女が唯一持ち合わせていなかったのがこの癒しの異能だった。

その異能を私が使っているところを見れば怒るのも無理もない。

怒りに狂った瑠璃奈は私に掴みかかり、罵倒しながら殴ったり髪を引っ張ったりした。

私は、少しでも瑠璃奈からの暴力から身を守ろうと抵抗するが彼女からの攻撃は止む気配もない。

音を聞きつけた叔母達が慌てて私から瑠璃奈を引き剥がすも、瑠璃奈は再度私に飛びかかろうともがいていた。


「なんでアンタなのよ!!その異能は私が持つべきなのに!!!なんでよ!!なんでアンタなんかがぁ!!!!」


顔と身体が痛い。口の中が血の味する。

誰も私を助けようともしない。怒り狂い暴れる瑠璃奈を宥めるだけ。

瑠璃奈は悪くない。全部、化け物のような髪と目を持つ私が悪いのだ。

神は間違えて異能をお前に授けてしまった。本来は瑠璃奈が持つべき異能を持ったお前が悪いのだと瑠璃奈の父親が私に指を刺しながら言った。

叔母と使用人の冷たい目が突き刺さる。

好きでこの異能を授かったわけじゃない。この髪も目も異能も全部いらなかった。

私の訴えは瑠璃奈達には届かない。


「その異能は私のモノよ。アンタは冬の巫女である私の道具として働くの!!死ぬまで一生!!!絶対に逃さないから!!!!」


私の異能が瑠璃奈達にバレてから私の一生は決まってしまった様なものだった。

瑠璃奈がいつもの様に村を練り歩き祈りを捧げる時は必ず付いてこなければならなくなった。

ようやく瑠璃奈に発現した異能を見て村の人達はとても感激していて更に彼女を慕う様になった。

隣にいるただの侍女な存在の私には目もくれない。

瑠璃奈が怪我人や病人の身体に手を翳すのを合図に私は異能を発動。瑠璃奈が異能を施していると思わせる様に。

異能を施された村の人達は瑠璃奈に感謝する。

優越感に浸る瑠璃奈に対し、密かに異能を使った私には疲労が襲う。

異能を使うにも限界がある。長く使うと身体がふらふらし、頭も痛くなる。


「る…瑠璃奈。今日はもう…」


苛立った様子の瑠璃奈は人目がない所で私の頰を叩く。乾いた音と叩かれた衝撃で一瞬視界が歪む。


「はぁ?演技やめてくれる?まだまだ私を必要としてくれる人が沢山いるのよ?」

「そんな…」

「だったら私にその異能を返してよ?そんなことできないでしょ?だったら私の言う事聞きなさいよ。絵梨ちゃんがどうなってもいいの?」


これ以上反論できないことを知っている瑠璃奈は勝ち誇った様子で笑う。

このまま異能を使い続けたら倒れてしまうと訴えれば嘘をつくなと言って酷い目に遭う。

身体に鞭を打ちながら瑠璃奈が行く先々で異能を使い続けた。

部屋に戻っても疲れは消えない。休みなんて此処に住んでいる限り一生訪れない。

大好きな妹を守る為には搾取され続けなければならない。

私は出口の見えない闇に絶望しながら日々を過ごしていた。


けれど、そんなに日々が続いた満月の晩に突然私の前に彼が現れたことで少しだけ変わった。

その彼とは霧生刹那。四季神の1人で冬を司る神様。私が助けたあの不思議な子犬は彼の式神だった。

刹那は私の赤い髪と翠緑色の瞳を愛おしそうに見つめ、壊れ物を扱う様に優しく触れてくれた。

彼は私が冬の巫女で冬神の花嫁であると宣言していたが私はまだ信じきれていない。本当に私なんかが彼の花嫁な訳がない。きっと瑠璃奈と間違えているのだと。

私のその訴えは彼には通じない。


「どんなに否定しようと七海は俺の花嫁だ。俺が分からせる。そして必ずお前を此処から連れ出して幸せにする」


刹那は私に溶けない不思議な氷でできた美しい百合の髪飾りを髪に挿してくれた。

そして、去り際に約束とそっと口付けを交わして。

刹那とはその夜から逢瀬を重ねる様になった。

本来は立冬の日に迎えに来るのだが、それまで待てないからと頻繁に私の元に訪れる様になってしまった。

こんな奇妙な存在の私にここまでぞっこんしているのかこの時はまだ分からなかった。

瑠璃奈達にバレてしまわないかヒヤヒヤしながらの逢瀬。でも、そのお陰で少しだけ救われている私は刹那を受け入れてゆくしかなかった。


けれど、あの満月の夜からほんの少しだけだが闇に光が差したのは確かだった。

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