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諜報と発見

「なるほど、カラスの魔物ですか」


 マヤはマッシュの作ってもらったカラスの魔物数十匹を引き連れて、オリガとカーサのところに戻ってきた。


「そうそう、これなら町中にいても変じゃないでしょ?」


 向こうの世界のカラスとは少し違うような気がするが、こちらの世界にもカラスはいるのだ。


 もしかするとバニスターにはいないかもしれないが、少なくともマヤが冒険者として活動していたアンブロシアやヘンダーソンの街には普通にいたので、おそらくバニスターにもいるだろうと思っている。


「そうですね、カラスは基本どの街にもいますし」


「やっぱりそうなんだ。それなら不審がられずに偵察できそうだね」


「マヤさん、このカラスで偵察って、どうやるの?」


 魔法にあまり詳しくないオリガは魔物を使った視覚共有について知らないようだった。


「えーっとね、なんか魔物使いが使える魔法で、魔物と視覚とかを共有できる、みたいなのがあるらしくて、それを使う予定なんだけど――オリガ知ってる?」


「……もしかして、視覚共有のやり方とか、まったくわからないんですか?」


「あははは……実はそうなんだよねー」


「それでよくカラスの魔物がいればどうにかなると思いましたね……」


「最悪オリガがいるし?」


「いやいやいや、今回に限ってはマヤさんが魔法を使えないと駄目なんですよ? 私をこんな数の魔物一度に操れませんし」


「そうだった……わかったよ、頑張ってみるから教えてくれる?」


「仕方ないですね……。時間もないですし、バニスターに移動しながら説明するので、マヤさんもその間に修得して下さいね」


「オリガさん、スパルタ」


「なんです? スパルタって?」


「すごく厳しい、って意味」


 どうやらファムランドに意味を教えたスパルタという言葉は、着実にキサラギ亜人王国内で広まりつつあるらしい。


 別にそれでマヤになにかいいことがあるわけでもないが、自分の世界の言葉が少しでも広まるのがマヤはなんとなく嬉しかった。


「そうなんですか、聞いたことないですね……。まあでもそのスパルタ? っていうのでも仕方ないじゃないですか、今は戦争中ですし」


「確かにそうだね。頑張ってみるよ。それじゃ、早速出発しようか」


 マヤたちはカラスの魔物たちを一旦しまってシロちゃんに乗ると、バニスターに向けて出発したのだった。


***


「あの建物かな?」


「多分そうでしょうね」


 キサラギ亜人王国を出発して数日後、マヤとオリガ、カーサの3人の姿はバニスター将国内の比較的大きな街の宿屋の一室にあった。


 壁にはオリガの魔法によって、マヤがカラスの魔物の目を通して見ている映像が映し出されている。


「どうですか、あれが捕虜の家族がいる収容所で間違いありませんか?」


「ああ、間違い、ない」


 オリガの質問に答えたのは、カーサによって拘束されています1人のバニスター兵だった。


 ここ数日、マヤがカラスで街にいるバニスター兵を探し、一人でいるバニスター兵を魔法で精神支配して拉致、情報を聞き出してその情報の場所に移動したり、カラスで情報のあった場所を探したりしながら、捕虜の家族の居場所を探してきたマヤたちが、一番最後に拉致してきたのが、今カーサに拘束されているバニスター兵だ。


「間違いないみたいですね、それじゃあこの兵士さんの記憶を消して元いた場所に戻したら、早速乗り込みますか」


 オリガの言葉に、マヤは今更ながら言っておきたいことがあった。


 これがおそらく兵士の記憶を消す最後の機会だから言っておきたかったというのもある。


「今更だけどさ、オリガって記憶も消せるんだよね」


「え? はい、そうですけど……本当に今更ですね」


「普通さ、記憶消したりできないと思うんだ」


「そうですか? お母さんには何かと便利だから覚えておきなさい、って言われたんですけど」


「流石、エメリンさん、教えることが、エグい」


「うん、流石だよね。確かに便利だけど、こんな物騒な魔法娘に教えるかなあ……」


「ええっ!? 物騒ですか、この魔法?」


「いや普通に物騒でしょ、ねえカーサ」


「うん、物騒。記憶、消せたら、色々、悪いこと、できる」


「だよねえ」


「そんな……で、でも、マヤさんの記憶は消せませんよ?」


「いやいや、それは私が、なんでか知らないけどダークエルフのオリガより魔力量が多いからでしょ? 大体の人はオリガより魔力量少ないじゃん」


「それはそうですけど……じゃ、じゃあカーサさん、カーサさんはどうですか? 私カーサさんの記憶も消せませんよ?」


「それはカーサが剣の達人で、例え寝込みを襲ったって、記憶を消す魔法を使える距離まで近づけないからでしょ? オリガが物理的に近寄れないのなんてカーサくらいじゃん」


「ぐっ……確かに……それならお母――」


「エメリンさんっていうもなしだよ? 魔王に正座させてお仕置きする人を普通の人としてカウントしちゃだめでしょ」


「それは……確かにそうですね……」


「とりあえず戻ったらエメリンさんにはちょっと考えるように言うとして、早速バニスター兵の家族が閉じ込められてるって場所に行こうか」


「うん、行こう」


「わかりました……」


 


 どこか釈然としないものを感じているオリガも、ひとまずマヤに提案に同意する。


「そんなに物騒でしょうか……」


 一番後ろを歩きながら、オリガはそんなことをつぶやいていた。


((誰がどうみても物騒だよ……))


 オリガのつぶやきに、あの母にしてこの娘あり、といった感じで、エメリンとオリガの血の繋がりを強く実感するマヤとカーサなのだった。


***


「これでよし、っと。そっちも終わった?」


「はい、これで最後です」


 バニスター兵たちの家族が囚われている施設に侵入したマヤたちは、監視の兵士を無力化して施設の中を進んでいた。


 基本的にはオリガとカーサが無力化し、マヤが拘束していくといった流れだ。


(まさか昔やってたボーイスカウトで習ったロープワークをこんなところで使うとは思わなかったけど)


「この扉の向こうが確か、バニスター兵の家族たちが囚われてるところだよね?」


「そうですね、そのはずです」


「よし、それじゃあ早速開けてみよう」


「あ、マヤさん、念の為私が。マジックトラップとかあるかもしれませんし――」


「え? ごめんもう開けちゃった――って、オリガ? カーサ?」


 扉を開けた途端、ほんの一瞬強い光を感じた後、マヤは謎の空間に立っていた。


 振り返ると、先程までいたはずのオリガやカーサがいない。


(えーっと、もしかして本当にマジックトラップ? もしかしてやばい?)


 マヤは必死に辺りを見回すがあるのは暗闇だけだった。


「いや、落ち着け私。とりあえず、そうだなあ……うん、シロちゃんを呼んでみよう!」


 マヤは腕輪を掲げると腕輪に魔力を流し込む。


 いつもならそれで出てきてほしいと思った魔物が出てくるのだが……。


「何も出てこない、か」


 どうやら本格的にやばいらしいことを理解したマヤの頬を冷や汗がつたう。


「ようこそ侵入者よ」


「誰!?」


 先程まで確かに暗闇しかなかった後方から声をかけられたマヤは、勢いよく振り返る。


 そこには、一体のゴーレムが立っていた。

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