開戦
「はたから見てるとなんというかものすごく滑稽というか不思議というか、変な感じだね」
マヤは大きな木の高いところにいた。
横に伸びている太い枝に強化したシロちゃんのジャンプで跳び乗ったのだ。
「私達は幻覚魔法の影響を受けないようにしてますからね」
マヤの腰に捕まって後ろに乗っているオリガが説明した通り、マヤたちは幻覚魔法の効果を受けないようにオリガが魔法を発動してくれている。
だからこそ、森の中きれいに並んでを行軍しているつもりで、あるタイミンング20人ずつくらいに分かれてであっちこっちに進んでいくのを見ると、笑ってはいけないのだろうが笑ってはしまいそうだった。
「流石、エルフの、魔法。分断も、簡単。便利」
「本当だね。これならとりあえずしばらくはここで様子見で大丈夫かな?」
「あっ! 始まったみたいですよ!」
「えっ! どこどこ?」
「ほら! あっちですよ、あっち」
「えーっと……ごめんわかんない」
少し緊張した様子で一方向を指さし続けるオリガだが、マヤがその指差す方向を見ても何も見えなかった。
「見え、たけど、オリガさん、これは、マヤさんには、見えない、と思う、よ」
「いえ、そんなはずは――あっ」
オリガはあることを思い出してバツが悪そうに苦笑する。
「すみません、視覚強化をかけてたの忘れてました……」
「やっぱり見えないんじゃん! 普通に見えるのかと思って頑張っちゃったよ、もうっ。早く私にもかけてっ!」
「あはは、ごめんなさい。遠見」
「視覚強化系の、魔法は、難しくて、魔力もたくさん、使うって、きいたこと、ある。それを、使ってるの、忘れるの、オリガさん、くらい」
「はははは……たしかにそうかもしれません。カーサさんもどうぞ。遠見」
オリガに視覚強化をかけてもらったことで、マヤとオリガも遠くで始まった戦闘を鮮明に見ることができるようになった。
見えるようになったのだが……。
「ねえカーサ……」
「うん、マヤさん」
「これ、終わってるよね?」
「間違い、ない。もう、決着、ついてる」
視覚強化で戦いを見ている二人の言葉に、マヤたちに視覚強化をかけるために戦いから視線を外していたオリガが慌てて戦いに視線を戻す。
「えーっ! 流石にそんなすぐには――本当だ、終わってますね……」
「オリガ〜?」
「オリガさん、酷い……」
「ええっ、私のせいですか!?」
「オリガがうっかりさんだから私達はせっかくの初戦を見逃したんだよ、ねえカーサ?」
「うん、オリガさんが、早く、気づけば、私達も、見れた、のに」
「いやいやいや、たしかにそうかもですけど……」
「あーあ、私もファムランドが戦ってるの見たかったなあ」
「私も、オーク達の、戦いぶりを、見たかった」
「そんなこと言われても……」
落ち込んでしまったオリガを見て、マヤは思わず吹き出した。
「あははははっ、もーう、冗談だよオリガ」
「えっ?」
「マヤさんは、オルガさんを、からかってただけ」
「ええーっ! ちょ、ちょっとマヤさん!」
「ごめんごめん、カーサも乗ってきたからやりすぎちゃった」
「ごめん、なさい」
「もうっ、2人して私をいじめて! もう知りません!」
「ははは、ごめんごめん。もうしないからさ」
「うん、もうしない」
「本当ですかー?」
「うん、たぶん」
「たぶん」
「絶対またやるじゃないですかー!」
マヤはその後、不機嫌なオリガに背中を小突かれ続けたのだった。
***
マヤたちが昨日で危機感ゼロでじゃれ合っている頃、ファムランド率いるSAMASの面々は、2つ目のバニスター兵の部隊を無力化したところだった。
「流石に下っ端共は大したことねえな」
「ええ、見たところ職業軍人ではあるようですが、新兵を中心とした経験の浅い兵たちのようですね」
「だろうな。天下のバニスター軍にしちゃあ手応えがなさすぎる」
1つ目2つ目と、またたく間に無力化できたのは、もちろん隊員たちが強くなっているのもあるだろうがそれよりもバニスター兵の練度の低さによるところが大きい。
「隊長、次はどうします?」
ファムランドとレオノルがバニスター兵について分析していると、第一班の班長を任せているエルフがファムランドのところにやってきていた。
「全員拘束できたか?」
「はい、先ほど完了しました」
「ごくろうさん。さて、このまま潰していけばいいってことになんのかねえ……レオノル、お前さんはどう思う?」
「ファムランドさんの不安もわかりますが、まだ2部隊だけですから様子見ですね」
「そうか。まあ俺もそうするしかねえと思ってたところだ。そういうことだ、すぐに次に行く、準備しろ」
「「「「はっ!」」」」
ファムランドの指示に、素早く準備を整えた隊員たちを確認し、ファムランドは次の部隊を無力化するべく移動し始めた。
***
「ふんっ!」
エルフ達の防御魔法に行く手を阻まれている間に、横に回り込んだオークの剣士によって剣の腹で殴られたバニスター兵が、そのままその場で意識を失って倒れる。
「流石だな」
「いやいや、お前の防御魔法もなかなかだよ」
バニスター兵と戦っていたエルフとオークは、お互いを称え合うと拳を突き合わせる。
班対抗の模擬戦を繰り返してきたSAMASの面々は、コンビネーションも完璧だった。
周りも続々と戦闘を終え、無力化したバニスター兵を拘束し始める。
「それににしても、マヤ様はお優しい」
「ああ、流石は我らが聖女様だ。敵兵すら極力殺すなというのだからな」
「ああ。やはり英雄と呼ばれる方は違う」
話しながらも手は動かし続けていた2人は、程なくしてバニスター兵の拘束を完了し立ち上がった。
「おーい、お前らー! 全員拘束したら次行くぞー!」
「「「「了解!」」」」
通算20個目の部隊を、人数にして400人のバニスター兵を無力化したSAMAS隊員たちは、疲れた様子一つ見せず、継の部隊を無力化するべく出発したのだった。
***
「いやー、圧倒的だね」
空が赤らんできた頃、あいも変わらず大きな木の上で、マヤとオリガとその2人を乗せているシロちゃんとカーサの3人と1匹は、SAMASの戦いを観察していた。
「本当ですね」
「でも、バニスター兵が、弱いのも、ある、と思う」
「そうなのオリガ?」
「そうですね。バニスター兵がどれほどのものかは噂でしか知りませんが、少なくともあれが素人に毛が生えたくらいのレベルであることくらいはわかります」
「ふーん。じゃあまだ油断ならないってことだ」
「そうですね。まだ本隊じゃないと思ったほうがいいかもしれません」
「なるほどね。でもまあ、今日は今のあれが最後じゃない?」
ちょうどその時、今SAMASと戦っていた部隊の最後のバニスター兵が無力化されたところだった。
別の所に分断されたバニスター兵達が行軍を止め野営の準備を始めているところからして、今日はこれでおしまいだろう。
「そうですね。夜襲の警戒をしつつこちらも野営の準備をしましょうか」
「よし! それじゃあとりあえずSAMASのみんなに所に合流しよう!」
こうして、キサラギ亜人王国とバニスター将国の開戦1日目は、キサラギ亜人王国が大きく優勢という状態で幕を下ろしたのだった。




