ドワーフの武器2
「ねえカーサ」
「どうしたの、マヤさん?」
「カーサって、オークの里で一番強い剣士だったんでしょう?」
「そうだと、思うけど? それが、どうかした、の?」
「いやさ、今のドワーフの武器を手に入れてはしゃいでる候補生のオークたちとカーサだったらどっちが強いのかなって」
マヤの言葉に、顎に手を当てて考え始める。
「わからない、けど、知りたい、の?」
「うん、ちょっと見てみたいかな、カーサがちゃんと戦ってるのって見たことないし」
「わかった、オリガさん、やりすぎたら、回復してあげて、くれる?」
「もちろんです。気をつけて下さいね?」
「わかった、じゃあ、行って、くるっ!」
その瞬間、大きな音というかもはや爆発音にしか聞こえない音とともに、カーサの姿がかき消えた。
次の瞬間、カーサから一番遠くにいたオークの目の前に現れたカーサは、振り上げた剣をそのまま振り下ろす。
「えっ……」
何も反応できないまま候補生のオークが一人地面に叩きつけられた。
直前でカーサが、剣の側面での打撃に切り替えたため死んではいないようだ。
「おーいお前らー! マヤの護衛のカーサがオーク組に稽古つけてくれるらしいぞー! 全員そいつみたいになったら1から鍛え直しだからなー!」
カーサに叩きのめされたオークを指さし大声で叫ぶファムランドに、候補生のオークたちが一気に警戒を強める。
警戒を強めたおかげか、次のカーサの攻撃は、寸前で候補生によって防がれた。
と、誰もが思ったのだが、カーサの剣を剣で受け止めた候補生の行動を読んでいたカーサは打ち込んだ瞬間に力を弱め、候補生の剣を持っている方の手を下から蹴り上げた。
「なっ!?」
自分がカーサの剣を受け止めていた力をそのまま利用され、剣を失った候補生が、一人目同様剣の側面で殴られて地面に叩きつけられる。
そのままゆらりと姿勢を戻したたずむカーサに、候補生のオークたちは息を呑んだ。
カーサは間髪入れず次の候補生に襲いかかっていく。
蹂躙される候補生仲間のオーク達を見て、候補生のエルフ達はほっと胸をなでおろした。
そのエルフ達の態度が良くなかったのだろう、レオノルは彼らを地獄に叩き落とす提案をする。
「オリガさん、いかがでしょう、オリガさんもうちのエルフ達と戦ってみませんか」
「「「「ふ、副長!?」」」」
「でも私、カーサさんがやりすぎた時の回復がありますし」
「「「「うんうん!」」」」
遠慮するオリガに、候補生のエルフ達が一斉にうなずく。
「あら、それなら私がやってあげるわよ?」
「「「「エメリン様!?」」」」
「お母さん……。そういうことなら、私もやってみようかな……この杖使ってみたかったし」
エメリンの前だからか、いつもより年相応の子供らしさを見せて、嬉しそうにはにかみ長ら杖を胸に抱くオリガに、候補生達も一瞬優しい表情になるが、すぐにこの後のことを想像して顔を青ざめさせた。
「どうする、強化しとく?」
ダークエルフであるオリガには、マヤの強化魔法が効くのだ。
強化すれば、ただでさえ強いオリガがもっと強くなってしまう。
そのことを知っている候補生達は泣きそうな顔で首を横に振っていた。
「いえ、やめておきます。この杖の性能も確かめたいですし」
「わかった、程々にね?」
「わかりました」
カーサと違い、オリガはゆっくりと候補生のエルフ達に近づいていく。
「防壁、水銃、火球」
畳み掛けるように唱えられた呪文によって、候補生のエルフ達とカーサ達オークの間に防壁が展開され、水で生成された銃弾と炎の玉が、が正確に候補生達を襲った。
「くっ!」
とっさに防御魔法を展開してオリガの攻撃を防ぎ、攻撃に転じるべく攻撃魔法を発動しようとした候補生達だったが、そんな彼らが見たのは絶望的な光景だった。
水の銃弾、炎の球、氷の槍、迸る雷、それらが無数にオリガの頭上に待機していたのだ。
「1、2、3、4、5? 嘘でしょ?」
防壁を含めて5つの魔法を並行して発動させているオリガに、候補生たちは驚きを隠せない。
「皆さん、死なないで下さいね?」
優しいのか優しくないのかよくわからないオリガの言葉を最後に、候補生を数多の攻撃魔法が襲った。
1人、また1人と防御魔法を破られ、倒れ伏していく。
オリガが最後の一人の防御魔法を破ったのと、カーサが最後の一人を叩きのめしたのは、ほぼ同時の出来事だった。
***
「いやー、2人とも本当に強いね。もう私、なにがなんだかわからなかったよ」
「それほどでも、ない」
「そうですよ、大したことないですって」
謙遜する2人に、久しぶりに斜め下からの声が響く。
「いや、この2人は規格外に強いからな、誤解するなよマヤ」
「マッシュ! 久しぶりー!」
「お、おいこら! やめんか! もふもふするなああ!」
つい抱き上げでもふもふするマヤに、マッシュはなんとか逃れようと暴れる。
が、マヤが怪我などしていないあたり、マッシュも本気で嫌がっていますわけでもないのだろう。
「まったく、油断も隙もない」
「もっと撫でさせてくれてもいいと思うんだけどなあ」
「そうですよマッシュさん、私も撫でたいです」
「私、も、マッシュさん、もふもふ、したい」
「お前らなあ……」
女子の中にいてはもふもふを止めるものがいないことを悟ったマッシュは、ファムランドの足元に避難する。
「どうしたマッシュ? 俺の後ろに隠れたりして」
「いや、なんでもないのだ。気にするな」
「そうか? それにしてもお前さんがここに来るなんて珍しいな? 何かあったのか?」
「おっとそうだった! マヤ、今すぐ監視所まで来てくれ、少し厄介なことになってるかもしれん」
「どうしたの?」
監視所とは、マッシュとその妻のブランが中心になって運営されている、魔物の魔石を使って国境をその名の通り監視する施設だ。
話は移動しながら、とばかりに走り出すマッシュに、マヤは慌ててシロちゃんを呼び出して騎乗してついていく。
「バニスターの偵察部隊がうちの領土に侵入しそうなのだ」
「ええ!? それって大丈夫なの?」
「わからん。ただの偵察なら捨て置くことも選択肢ではあるが……」
「この国の警備レベルが舐められるかもしれない?」
「ああ、その可能性は高い。まだ不安定な新興国だ、そのような噂は避けたいところだ」
「だよね。でもまずは詳しい状況が確認したいな。監視所に行けばわかるんだね?」
「その通りだ、飛ばすぞ?」
「了解。お願いね、シロちゃん! 強化!」
マヤはマッシュとシロちゃんに強化魔法をかける。
2匹を光の粒子が包み込みその体に溶けていった。
「行くぞ!」
「わふっ!」
加速した2匹によって、監視所までのマヤが歩けば数時間かかる距離を、15分足らずで移動したのだった。




