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ファムランドとエメリン

「さっすがファムランド! イメージ通りのしごきっぷりだね!」


「おお、マヤじゃねーか! 頼まれた通りしっかりしごいてやってんぜ」


 そう言って拳を突き出したファムランドに、マヤも拳を突き出して軽くぶつける。


 華奢な者が多いエルフの中にあって、例外的に筋骨隆々とした大男であるファムランドと小柄な少女であるマヤが拳を合わせると、大人と子供が拳を突き合わせているようだ。


「いやー、なんとなく予想してたとはいえ、これはまたすごいスパルタっぷりだね」


「なんだ? そのスパルタってのは?」


「ああ、ごめんごめん。とっても厳しいって意味だよ」


 転生した時点で言葉は勝手に喋れるようになっていたマヤだが、一部固有名詞はうまく変換されないのか通じないことがあった。


 マヤの世界の歴史上の国家であるスパルタなどもその一つだ。


「なるほどな。よくわからねえが、スパルタって響きは強そうでいい感じだ。今度から使わせてもらうぜ」


「そう? 気に入ってくれたらならぜひ使ってよ。それで、この人たちはなんで倒れてるの? いや、なんとなく予想はできてるけど」


「そりゃもちろん、こいつらがやわだからに決まってんだろ?」


「あー、やっぱりそういう感じね……」


 ファムランドが今行っているのは、エルフ・オーク混成の精鋭部隊の育成だ。


 キサラギ亜人王国内のエルフとオークたちの中から、戦闘力自慢たちに志願してもらって集めた候補生30名余りが連日ファムランドにしごかれている。


「なあマヤ、こいつら、本当につえー奴らなんだろうな? 毎度毎度すぐへばっちまって、どうしたもんかと思ってるんだが……」


 そう、今マヤに目の前には、戦闘力自慢で志願してきたはずのエルフとオークたちが、ことごとく地面に倒れてうめいていた。


「ファムランドが強すぎるだけなんじゃないの?」


「はっ、ヤマ、お前がそれを言うのかよ。お前んとこのダークエルフや犬っころ、それとあのうさぎの方が俺よりつえーじゃねーか」


「いやまあそれはそうなんだけど、それは3人が強すぎるだけだし」


 正直あの1人と2匹に正面から挑んで勝てるのはエメリンとルーシェくらいではないだろうか。


「そうですよ、ファムランド。あなたは昔から限度と言うもの知らないのですから、困ったものです」


「そ、その声は!?」


「久しいですね、ファムランド」


 マヤとファムランドが話しているところに現れたのはエメリンだった。


 ちなみに、エメリンは現在キサラギ亜人王国の宰相を務めている。


「あ、姐さん! お久し振りです!」


「その呼び方はやめてくださいと何度も言っているはずですが?」


「う、うっす」


「そういえば聞いたことなかったけど、エメリンとファムランドって知り合いだったの?」


「昔色々と」


「ああ、色々あってな……」


 いつだって、誰にだって傲慢で強気なファムランドにしては珍しく、その声は少し震えていた。


 そういえば、今やファムランドが仕えるべき王であるマヤにさえ呼び捨てタメ口のファムランドが、敬語で話してるのをマヤは初めて見た。


 もちろん、マヤに対する態度については、マヤもそれを望んでいるため注意したこともないからなのかもしれない。


 マヤに対して敬語で話せと言えばそうしてくれるのかもしれない。


 しかし、エメリンに対するファムランドの態度は、誰かに命じられて敬語で喋っているとかそんな雰囲気は感じられなかった。


「2人が話したくないなら無理にとは言わないけど、一体何があったの?」


「ファムランド、話してしまっていいですか?」


「姐さ―――エメリンさんがいいなら話してもらって大丈夫っす」


 ファムランドが了承したのを確認したエメリンは、足元に倒れていたエルフとオーガたちに手際よく回復魔法をかけると、持物(インベントリ)から椅子を3脚取り出してその1つに腰掛けた。


 エメリンに視線で促され、マヤとファムランドも椅子に腰掛ける。


「もう随分前のことです」


 そう言って、エメリンはファムランドとの過去を語り始めた。


***


「へえ、そんなことが。ていうかファムランド、昔はやんちゃしてたんだね? なんとなく察しはついてたけど」


「うるせえ、もう昔の話はいいだろ!?」


 ファムランドは顔を真っ赤にして叫んだ。


 エメリンから語られたファムランドの過去はいわゆる若気の至りの連続であったのだ。


 隣の村の若いエルフたちと大喧嘩してあわや村同士の戦争に発展しそうになったり、オークの村の力自慢と力比べをしにいって腕の骨を折られたり、美人なドワーフに一目惚れして言い寄った挙げ句その彼氏と三日三晩殴り合ったり、そんな話ばっかりだった。


 色々なことをやらかしていたファムランドだったが、最後は決まってルーシェの命令でやってきたエメリンにお仕置きされて村に連れ戻される、という流れだった。


「でも、おかげでファムランドがエメリンに頭が上がらない理由がよくわかったよ」


「気にするようなことじゃないと、私からは何度も言ってるんですけどね? 今やファムランドも立派な村長なのですから、私ごときにへりくだる必要はないのですが」


「いやー、それはちょっと無理なんじゃない?」


 立場が変わっても、変わらないものもあるのだ。


 その事実、マヤの言葉にファムランドは何度も頷いていた。


「それはそうとエメリン、さっきドワーフの話が出てたけど」


「ああ、ドワーフの女性にファムランドが言い寄ってその恋人と延々殴り合ってた話ですか」


「うん、そうそうそれそれ。ファムランドのやらかしはまあいいんだけどさ、ドワーフってこの近くにもいるのかな?」


「ええいますよ。そういえば、ドワーフはまだこの国にいませんね」


「そうなんだよ。亜人王国を名乗るからにはドワーフにも来てほしいなって思ってさ。どうかな、案内してくれる?」


「そうですね……ちょっと私はしばらくこの国を離れられません。オリガに場所を教えておきますから、オリガに案内してもらうってことでどうでしょう」


 エメリンはそう言って、ゆっくりと立ち上がり、マヤたちに背を向ける。


「わかった、じゃあそうするね。ごめんねエメリン、めんどくさい仕事全部やってもらっちゃって」


「いいですよ、これくらい。マヤさんはオリガとクロエの恩人ですから」


 エメリンはマヤたちに振り返ることなく手を振ると、そのまま仕事へと戻っていった。


「はああ、緊張した~」


「「「「……ふふっ………ははは………」」」」


「ん?」


 エメリンがいなくなり脱力するファムランドの周囲から、押し殺した笑い声が聞こえてきた。


「「「「はははははははははっ!」」」」


 その笑い声はすぐに大きくなる。


 よく見ると、未だにマヤたちの周りに倒れているエルフとオークのたちが、声に合わせて震えている。


「ま、まさか……!?」


「あー、これは……」


 マヤとファムランドは、状況を理解した。


 この倒れている精鋭部隊の候補生のエルフとオークたちは、ずっと起きていてさっきの話を聞いていたのだ。


「ファムランドさんにも怖いものってあるんですね」


「俺たちファムランドさんのこと化物かなにかだと思ってました」


「でもファムランドさんも普通のエルフなんですね」


 男たちは次々と立ち上がると、笑いを堪えながらファムランドに話しかける。


 エメリンはこれを狙って、回復魔法をかけてから昔話を始めたのだろう。


 ファムランドが精鋭部隊の候補生たちに嫌われてしまわないように。


 とはいえ、結果としてファムランドと精鋭部隊の候補生たちが打ち解けるきっかけになったとしても、ファムランドからすれば未来の部下に自分の黒歴史を暴露されたわけで。


「姐さあああん! あんたやっぱり性格悪いだろおおおお!」


 ファムランドのこの叫びも、仕方ないことなのだった。

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