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マヤ自身の目的、危機の気配

 キサラギ亜人王国への加入を約束してくれたファラムンドと別れて村へと戻ってきた後、マヤは一人、玉座の間で考え事をしていた。


(ファラムンドが私に味方してくれたおかげで、うちに加入することに消極的だった他の村も、次々加入したいって言ってくれてる。亜人王国の建国は、順調だ、と思う、けど……)


 マヤの最近の悩みは、マヤ自身にこれと言って目的がないことだった。


 最初は牢屋に入れられていて、そこから抜け出せてからはマッシュの家族を助けることに協力して、マッシュの家族を助けられてからは、魔王ルーシェに言われるまま亜人の国を建国して、今はそれもうまくいこうとしている。


 しかしこれらはすべて、マヤが出会ったこの世界の人々の事情に巻き込まれる形で動いていただけで、マヤ自身になにかしたいことがあって動いたものではない。


(こっちに来てからの日々は充実してたし、楽しかったけど、私は何をしたいんだろう?)


 実のところ、前の世界で平日5日事務仕事をこなして、土日2日間ゆっくり休んだり遊んだりしていた時だって、正直これといった目的はなかったのだが……。


「なんやかんやで私、今は王様だし、なんの目的もないってわけにもいかないよねー」


 マヤはエルフとオークの職人たちが用意してくれた荘厳さと座り心地を両立させた玉座に脱力しきって、その背もたれによりかかりながら、ぼーっと天井を眺める。


 ただの事務職員だった昔ならいざしらず、仮にも国家のトップである今のマヤに目的がないというのは、流石に良くないだろう。


 私利私欲に走る暴君よりはマシかもしれないが、何もする気がない王には誰もついてこようとは思うまい。


(魔王ベルフェゴールに目をつけられているっぽいのはわかるけど、だからってこっちから喧嘩売る必要もないしなあ……)


 マヤがいなくても、順当に国としての体裁は整っていっている。


 意外なことにジョセフは調整に天才的な能力を発揮するタイプのようで、各村の代表からの意見をうまく吸い上げて、見事に国家を運営しているのだ。


「とりあえず、もしもの時にために、軍備だけはしっかりしとこうかな? 流石に、私を慕ってくれてるみんなが死んじゃうのは嫌だしね」


 別に最強の軍事国家を目指すわけではないが、国民がただ平穏に生きるためにも国家の軍事力は必要だということを、マヤは前の世界で嫌というほど見てきていた。


 マヤは勢いをつけて玉座から立ち上がると、そのまま玉座の間を後にした。


 マヤ自身は気がついていないが、元の世界に帰ることをマヤは一切考えなかった。


 それは、マヤがこの世界での日々を愛している何よりの証拠かもしれなかった。


***


「やあ、ルーシェ。どうかな? 私の国は」


 マヤが玉座の間を中心に作られた宮殿の中庭に出ると、ルーシェが噴水に腰掛けて足をぷらぷらさせていた。


「これはこれは国王陛下。まさか陛下御自らお声掛けいただけるとは――」


「いやいやそういうのいいから」


「えーっ、ちょっと楽しかったのにー」


「そもそもルーシェも魔王でしょ? ぽっと出の亜人の国の王にへりくだってどうするのさ」


「それはそうなんだけどさー。それで、君の国がどうかって話だけど―――」


 ルーシェはそう言うと、空中に指を走らせる。


 次の瞬間、ルーシェの周りにいくつかの四角い枠が現れ、その枠の中に様々な景色が映し出された。


「いい国になると思うよ。いい人材が揃ってるしね」


 口ではマヤの国を褒めるルーシェだが、その表情はあまり明るくなかった。


「けど、なにかあるってことなのかな?」


「なかなか鋭いね。今すぐに問題ってわけじゃないけど、今後この国には大きな困難が降りかかると思うよ」


「意味深な言い方しないで教えてくれてもいいんだよ?」


 マヤの言葉に、ルーシェは申し訳無さそうに首を振る。


「ごめんね、それはできないんだよ」


「どうして? 何が起こるかまではわからないとか?」


「ううん、そうじゃない。私はこれからこの国に何が起こるかがはっきりと見えてるよ。でも、君に教えることはできない」


「うーん、それって酷くない? わかってるなら教えてくれてもいいじゃん」


「そうはいかないんだよね。1000年かけて開発した防御魔法をエメリンに一瞬で破られてお仕置きされてても、カーサちゃんのおっぱいに触ろうとして防御魔法ごと斬り殺されそうになってても、一応私、世界に3人しかないない原初の魔王だからさ」


 カーサの件は初耳だったマヤに、何をやってるんだこの魔王は、という呆れた視線を向けられながら、ルーシェは少し寂しそうに笑う。


「今まで見てきて時間の長さが君たちとは違うし、今見えているものも違う。私には未来を予測できるだけの経験と、そのために世界を観測しきる魔力がある」


 マヤはルーシェの言葉を聞いて、ラプラスの悪魔を思い出した。


 ルーシェは、すべての物理法則を理解し、現在のすべての物質の状態を観測しきることで未来を予測できるとされた空想の悪魔と同じことができるというのだ。


「他の原初の魔王も同じ。未来予測とは違うけど、他の2人も世界のあり方を変えるような力を持ってる。だから私たちは、世界に干渉しすぎないようにルールを決めて、お互いを監視してる」


「つまり、ルーシェは未来予測の結果を人に伝えちゃだめってこと?」


「そういうこと。それをやると、他の2人からお仕置きされちゃうからね。最悪死んじゃうかも」


「そういうことなら、まあ仕方ないかー」


「あきらめてくれるの?」


「まあね。だってルーシェだって私の仲間だもん。死んじゃったら嫌だし」


「……仲間、ね」


 ルーシェはその言葉を噛みしめるように繰り返す。


「うん、仲間だよ」


「そうか、仲間、か」


 ルーシェはもう一度そう言うと、ガバッとマヤを抱きしめた。


「よーしっ! 未来は教えてあげられないけど、私にできることなら何でも手伝うから、やりたいことがあったら何でも言ってね!」


「わわっ!? 急にどうしたの、ルーシェ?」


「あはははっ、秘密だよっ」


「?」


 魔王様と敬われるわけでもなく、魔王と恐れられるわけでもなく、対等に仲間と呼んでくれたマヤに、ルーシェは喜びを感じていた。


 しかし、そんなことに気づくわけもないマヤは、ただただ急にテンションが上がったルーシェに困惑するのだった。


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