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対立と併合

「他のエルフの村と揉めてる?」


「はい」


 ジョン王子が無事魔人化してから数日後、マヤは他のエルフの村と交渉をしているジョセフから相談を受けていた。


「当然と言えば当然ですが、人間であるマヤさんを王とした国のあり方に不満があるようで」


「まあそうだよねえ」


 他の村の意見は最もなのだが、亜人を王にすればどの種族から王を選ぶかで揉めるのは目に見えている。


 だからこそルーシェもマヤを王として亜人王国を建国するように依頼してきたのだ。


「どうしますか?」


「うーん、ジョセフはどうしたらいいと思う?」


「私ですか? そうですね……」


 ジョセフは言葉につまり、脇に控えていたエメリンへを目をやる。


 早々に降参したジョセフに、エメリンは溜息をついてから話し始めた。


「はあ……。私なら、マヤさんの力を見せつけるでしょう。多少不満があっても、王が強大な力を持っていればとりあえずは従うはずです」


「力で統治するってことか……」


「なにか問題があるんですか?」


 鋭く問いかけるエメリンに、マヤはびくっとしてしまう。


 エメリンの口調がきつめなのは、つい先日、寿命の問題を解決したジョン王子とエメリンの愛娘のクロエとの結婚を渋々認めたからだ。


「問題ってほどじゃないんだけど、そういうのって後々問題になりそうじゃない?」


「それは取り込んだ後の扱い次第じゃないですか?」


「まあそれはそうなんだけど」


「じゃあそれでいいじゃないですか」


「うーん、そんなこと私にできるかなあ」


「大丈夫ですよ。ぞんざいに扱ったりしなければ誰も好き好んで逆らおうとはしないでしょうから」


「簡単に言うけど、それが難しい気がするんだよね。ジョセフはどう思う?」


「私もエメリンの意見に賛成です。それに、加入の約束だけ取り付けてくれれば、その後は私もお役に立てると思いますし」


「ジョセフまでそう言うなら、まあやるだけやってみるかな」


 こうしてマヤは数日後、亜人王国への加入を反対しているエルフの村に向かうことになったのだった。


***


「ここがその村なの?」


 マヤはジョセフの案内で幻覚の結界を抜け、村の入口の前に立っていた。


 その隣には護衛のシロちゃんとオリガが控えている。


「はい、なんでも村長が自分を王にしないなら併合には応じないとか言っているようで」


「なんというか、まさに強硬姿勢って感じだね」


「そうですね。この村は昔から武闘派で有名でしたし」


 ジョセフの曰く、人間がエルフ狩りを始める前はエルフ同士で何度か紛争があったらしく、その際毎回最初に戦争をふっかけていたのがこの村らしい。


「そんな村に今まさに勝手に侵入してわけですけど、大丈夫なんですか?」


「流石に大丈夫でしょう」


 そう言って笑ったジョセフの頭目掛けて、いくつもの攻撃魔法が一斉に飛んできた。


「…………」


 オリガが瞬時に発動した防御魔法のおかげで事なきを得たが、それがなければ今頃ジョセフの頭は爆散していただろう。


「私、頭への攻撃魔法一斉掃射があいさつとか、聞いてないんだけど?」


「…………」


「大丈夫じゃないよね、これ?」


「…………はい」


「はあ、エメリンさんのアドバイス通りオリガについて来てもらって良かったよ」


 マヤは未だ呆然としているジョセフの横を通り抜けると、腕輪をはめた腕を高く掲げた。


「出てきて!」


 マヤの言葉に呼応して、狼の魔物と熊の魔物、そして虎の魔物が、それぞれ数匹づつ地面から飛び出してくる。


「それじゃあ、予定通りいこうか。オリガ、シロちゃん、魔物のみんな、やりすぎない程度に倒していくよ! あ、絶対殺しちゃだめだからね?」


「はい!」


「わふ!」


「ぐおおぉぉ!」


 こうして、マヤたちは、武闘派エルフの村の中を進み始めたのだった。


***


「な、なんなんだお前たちは!」


 マヤたちが武闘派エルフの村に入って数時間後、抵抗するエルフをあらかた無力化したマヤたちは、村長の部屋に乗り込んでいた。


「なんなんだ、って一応王様? だけど?」


「お前が亜人王国の王を名乗ってやがる人間か!」


「うん、まあ、そういうことになってるね」


「ふざけるな! 俺は認めねえぞ! なんでお前みてえな人間に、俺たちエルフが従わなくちゃならねえんだ!」


「あー、うん、まあそういう人もいて当然だよねー」


「だったら……!」


「でもさ、このまま亜人が種族ごとにばらばらってのも良くないと思わない?」


「……どういうことだ」


「だってさ、人間は1つ1つは小さいとは言えそれぞれ国としてまとまって、どんどん力をつけていってるよ? でも亜人はまだそれができてない」


「だからどうした。俺たちには魔法がある。人間ごときに負けるかってんだ」


「本当に? じゃあどうして、昔人間に狩られたの?」


「それは……」


 その真相を、マヤはジョセフから聞いて知っていた。


 早い話が騙されたのだ。


 人間が人間の社会で磨き上げた負の遺産である、人を騙す技術のすべてを使って、言葉巧みにエルフを騙し、連れ出し、売り捌いたのだ。


「もしあのとき、亜人も国としてまとまっていれば、もっと早く人間の嘘に気がつけたかもしれないし、もっと早く人間から身を守れたかもしれないよ?」


「それは、そうかもしれねえが……」


「うーん、それがわかる村長さんなのに、何が気に食わないの?」


「……人間のお前が王になるからだ」


「じゃあ誰が王になるの?」


 マヤは答えがわかっていてあえて問いかける。


「俺だ。俺が王になるなら、考えてやってもいい。お前には無理だろうが―――」


「いいよ、じゃあ村長さんが王になってよ」


「なっ」


「ちょ、ちょっとマヤさん! 何言って――」


「まあまあオリガ、ちょっと落ち着いて。それになんで村長さんまで驚いてるの? それが望みだったんでしょ?」


「それはそうだが、お前はそれでいいのか?」


「うーん、良くはないかもね。でもさ、この村のエルフ達って強いじゃん?」


「すべて打ちのめしてきたお前たちに言われても反応に困るが……」


「まあそれはそうかもだけど。でも他の村のエルフ達に比べれば、この村のエルフ達はやっぱり強いと思うんだよね」


「だからね、この村が亜人王国に入ってくれないと、多分後々困ると思うんだよ。私やオリガがいつでも国を守れるわけじゃないしね」


「マヤさん……そこまで考えて……」


「うん、まあそういうこと。で、どうかな村長さん。村長さんが王になれるなら、亜人王国に入ってくれる?」


「…………はっ、はははははははっ」


「どうしたの?」


「………負けだ」


「どういうこと?」


「俺の負けだって言ってんだ」


「えーっとつまり?」


「お前の国に入ってやるって言ってんだよ」


「え? なんで?」


「全く察しのわりい野郎だな……」


「ふふっ、きっとマヤさんが私たちエルフの、私たち亜人のことをちゃんと考えてくれてるってわかったからじゃないですか?」


「おいそこのガキ! 恥ずかしいこと言ってんじゃねえ!」


「なーんだ、そういうこと。素直じゃないんだからー」


「おい! やめろ! そんなんじゃねーからな!」


 マヤは焦って否定する村長に、手を差し出した。


「そういえば、自己紹介がまだだったね。私はマヤ、よろしくね」


「ファラムンドだ。よろしくな、マヤ」


 こうして、ファムランドとその村が、キサラギ亜人王国に加入することになったのだった。


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