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シェリルとエメリン

「ただいまー」


「あら、マヤさんおかえりなさい」


 オークの村で話を終えた後、マヤはエルフの村に戻ってきていた。


「エメリンさんが家にいるなんて珍しいね」


「最近はこの村も落ち着いてきましたからね。それに」


 エメリンがそう言って後ろを振り返ったタイミングで、元気な声とともにたくさんの軽い足音が聞こえてきた。


「「「マヤちゃんだーーー」」」


「おわっ! こらこら、いきなり飛びついたら危ないでしょー?」


 たくさんの子どもたちがマヤに飛び込んできて、マヤは危うく尻もちをつきそうになる。


「「「ごめんなさーい」」」


「この子たちの面倒も見ないといけませんから」


 マヤに群がっている我が子達を見て、エメリンは微苦笑を浮かべている。


「なるほどね。よし、じゃあ久しぶりに私と遊ぼうか!」


「「「やったー!」」」


 マヤの言葉に飛び跳ねて喜んだ子どもたちは、そのままマヤから逃げるように走り去っていく。


 どうやら鬼ごっこをしたいらしい。


「よーし、負けないからね~!」


 マヤは早速子どもたちを追いかけて走り出した。


「マヤさーん! 夕飯までには戻ってきてくださいねー」


「わかったー!」


 マヤが子どもたちを追いかけてオリガの実家を出ていってから少して、オリガ、マッシュ、カーサそしてシェリルの4人がオリガの実家に戻って来た。


「ただいまお母さん。マヤさんは?」


「おかえりオリガ、みなさんもおかえりなさい。マヤさんは帰るなり子どもたちと一緒に飛び出して行っちゃったわよ」


「あの子たちったら、マヤさんは長旅で疲れているのに……」


「うふふ、オリガはマヤさんをとられてやきもち焼いてるだけでしょう?」


「そ、そんなことないもん! もうっ、お母さんなんて嫌い!」


「あらあら、嫌われちゃった」


 頬に手を当てて優しく微笑むエメリンに、オリガの後ろからひょこっと顔を出したシェリルが野次を飛ばす。


「やーいやーい、エメリン様嫌われてやんのー」


「あら、シェリルじゃない。貴方お城の仕事はどうしたの?」


「へへーん、私みたいな下っ端一人いなくても大丈夫だもーん」


「つまりサボってきたのね?」


 エメリンはまだ微笑んだままだが、目が笑っていなかった。


「いや、その、えーっと……」


 エメリンのプレッシャーに、シェリルは小さくなってオリガの後ろに隠れる。


 と言っても、小柄なオリガの後ろに隠れたところで全然隠れきれていないのだが。


「シェリル~~?」


「なんでしょう、エメリン様……」


「正座!」


「は、はひいぃぃ!」


 エメリンの鋭い口調に、シャリルは震え上がって流れるようにエメリンの前まで行って正座する。


「ねえシェリル、私が貴方に最初に教えたこと、覚えてるかしら?」


「も、もちろんです。仕事には責任を持って―――痛ああっ!」


 スパーン、といういい音を響かせて、エメリンがシャリルの頭をひっぱたいていた。


 どこから取り出したのだろう、エメリンの手にはハリセンのような何かが握られていた。


「これは子供のお仕置き用です。攻撃魔法を一斉掃射しても怪我一つない貴方がこの程度痛いはず無いでしょう」


「エメリン、もしかしなくてわかってる―――だから痛いって!」


 スパーン、と再びいい音を響かせてエメリンがシャリルをひっぱたく。


「なんのことですか? それからシェリル、()とはいえ私は貴方の上司ですよ? 呼び捨てとはどういうことです?」


「いや、だから!―――あー、やめてやめて! 本当に痛いから叩か―――痛ぁっ!」


 三度スパーンといい音を響かせてシャリルがひっぱたかれる。


「流石お母さんですね」


 その様子をマヤの横で見ていたオリガが感嘆の声をあげた。


「どういう、こと?」


「詳しい原理を説明しても、たぶんカーサさんはわからないでしょうから、かいつまんで説明するとですね―――」


 オリガ曰く、魔王ルーシェが変装した姿であるシェリルは、常に高度な防御魔法を身にまとっている状態らしく、弓矢が当たろうが、剣で切りつけられようが、槍で刺されようが傷一つつけられないらしい。


 しかし、その魔王が護身用に常に発動させているある意味生命線の防御魔法を、エメリンはハリセン(オリガたち家族はお仕置きハタキと呼ぶらしい)がシェリルに当たる瞬間に一瞬だけ無効化しているらしいのだ。


「じゃあ、エメリンさん、その気になれば、魔王も、殺せる、ってこと?」


「いえ、流石にそれは無理じゃないですか? たぶん自己回復魔法とかも使えるでしょうし。でもまあ、原初の魔王の一角であるルーシェ様にお母さんほど簡単に怪我を負わせられる人は他にいないでしょうね」


「やっぱりエメリンさん、すごい。………絶対、敵に回さないよう、する」


 カーサがしみじみとそんなことを思っている間も、何度もスパーンといういい音が聞こえてきていた。


 最終的に、シェリルがエメリンの足にすがりついて泣き始めてしまうまでエメリンのお仕置きは続いたのだった。


***


「で、ルーシェ様まで一緒に来るっていうのはどういうことですか?」


「ちょっとマヤさんにお願いごとがあってねー」


「マヤさんが頼んでついてきてもらったのですか?」


「え? ううん勝手に―――いや、うん、私は頼んでね? ついてきて? もらった?」


 エメリンの視線に怯えるルーシェから目配せされて、マヤはとっさに嘘をついた。


 なんでも、マヤが子どもたちと遊んでいる間に、ルーシェはエメリンからたっぷりお仕置きされたらしいのだ。


「そうなんですか。カーサちゃん、マヤさんの言ってることは本当かしら?」


「ううん、違う。ルーシェ、勝手に、ついてきてた」


「カーサさあああん!」


「はあ、まあルーシェ様へのお説教はまた後でするとして、マヤさんが頼まれたことっていうのは何なんですか?」


「なんか亜人の国を作ってほしんだって」


「亜人の国、ですか。なるほど、たしかに今まで亜人は国を持ったことがありませんからね……」


「そうらしいね」


 道中、シェリルというかルーシェに聞いた話だと、亜人は種族同士があまり仲が良くないらしく、今までまとまれた試しがないらしいのだ。


「そこでマヤさんってわけ。マヤさんはオークの村の聖女様でこの村の英雄でしょ? 少なくとも2つの亜人種の一部には信頼されてる」


「たしかにそれだけでも十分奇跡的なことですね」


「でしょ? だから頼んだの」


「………ルーシェ様もたまには頭を使うんですね」


「エメリン酷くない!? まあいいけどさー」


「それでエメリンさん、この村を亜人国の領土にしたいんだけど、いいかな?」


「それはジョセフに聞いてみてもらわないとなんとも言えませんが、まあいいんじゃないでしょうか」


「よし! じゃあ早速ジョセフさんにも聞いてくるよ!」


 その後、エメリンが了解したことを伝えたところジョセフは二つ返事でオーケーしてくれたので、エルフの村も亜人国の領土となることになった。


 もうエメリンが村長でいいのでは、と思うマヤだった。

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