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建国の手始め

「急に建国してくれとか言われてもなあ……」


 ルーシェから亜人国の建国依頼を受けた後、マヤたちは城内にある客室に通されていた。


 大木をくり抜いて作った城なので、床も壁も天井も木材、というか生きた木なのだが、それを削ってこれでもかと装飾が施されているところを見るに、この部屋は城の中でも上等な客室なのだろう。


「まあそんなに気負わなくて大丈夫ですよー」


「……で、ルーシェさんはなんで一緒について来てるの?」


 ベッドに寝転んでいるルーシェに、マヤはジト目を向ける。


 先ほど正体を明かしてからわざわざ一回着替えた荘厳なローブから、わざわざ出会ったとき着ていたセーラー服のような服にまた着替え直して、ルーシェはマヤたちについてきていた。


「ルーシェ様? そんな人どこにいるんですかー? シェリルわかりませーん」


 どうやらルーシェではなくシェリルとしてついて来ている、ということになっているらしい。


「はあ、じゃあシェリルさん、なんでここにいるの?」


「皆さんを客室に案内するように言われましたので!」


「誰に?」


「ルーシェ様です!」


「自分じゃん……」


「なんのことやら」


「はあ……」


 あくまでもシェリルということにしてほしいようなので、マヤは諦めることにした。


「オリガ、ここにいるのはシェリルさんらしいから、さっきみたいに魔法の話でもしてて」


「それは流石に……」


「えー、私オリガさんともっとお話したいです」


「ほら、シェリルさんもそう言ってるし」


「はあ……そういうことなら、頑張ってみます」


 オリガはおずおずとシェリルに近づくと、少しずつ話し始める。


「―――そうですねー、そういう時はここをこうして―――」


「ああっ! なるほど! そうすれば発動時間が短縮できるんですね!」


「そうなんです! それにこのプロセスを置換すると」


「直前で発動する魔法を変えられる?」


「そのとおりです! 流石に理解が―――」


 おっかなびっくり話し始めた割に、あっという間に魔法の話で盛り上がってしまうあたり、2人とも魔法が好きなのだろう。


 一瞬でマヤの理解の及ばない話を始めた2人はおいておいて、マヤたちは今後のことを相談することにした。


「で、これからどうすればいいんだろ?」


「そうだな、とりあえず決めるべきなのは国土と国民をどうするか、なのではないか?」 


「私も、そう、思う。でも、国民は亜人、なんだよね?」


「そうだね、なんたって亜人の国を建国しろって依頼だし」


「じゃあ、オークは、入れてほしい」


「それはもちろんそのつもり。少なくともカーサの村は私についてきてくれそうだし」


「お前はあの村では聖女様だからな。それは問題ないだろう。ジョセフもお前を支持してくれるのではないか?」


「たぶんね。そうなるととりあえずは、オリガの故郷の村とカーサの故郷の村を2つを範囲とそこに住んでる亜人たちを国土と国民ってことで建国してみようか」


 とりあえずの方向性を決めたマヤは、ルーシェに報告するべく、わざとシェリルに声をかけず先ほどルーシェから建国依頼をされた玉座の間に向かう。


 マヤが玉座の間にたどり着く直前、マヤ隣を猛スピードで走り抜けていく影があった。


 その影は玉座の間に飛び込むと、中からバタバタと慌てた音がし始める。


 マヤはいたずらっぽく笑うと、音が落ち着かないうちに玉座の間の扉を勝手に開けて中に入った。


「ルーシェさん、私、決めたよ―――って、何やってるの!?」


 わざと今気がついたふりをしながら、マヤはわざとらしく驚いて見せる。


 マヤが入ったとき、ルーシェは先ほどまでシェリルが着ていたセーラー服を玉座の背もたれに放り投げ、急いでボタンを外さず着ようとしてたであろう荘厳なローブがその大きな胸に引っかかったのか、下着姿でローブに頭を突っ込んでもぞもぞしていた。


「マヤさん、ちょっとまって下さ―――って、そもそも玉座の間の扉を勝手に開けて入って来るってどうなんですか!」


「いや半裸でローブに埋まってる人に言われてもなあ」


「なっ! 誰のせいだと思ってるんですか!」


「自分のせいでしょ?」


「声をかけてくれなかったマヤさんのせいです!」


「えー、だってあの部屋に私たちの他にはシェリルさんしかいなかったけどー?」


 先ほど自分で言ったことに首を絞められる形となったルーシェは、マヤから顔をそらす。


「それは……そうですけど……」


「じゃあ私のせいじゃないじゃん?」


「はい……」


 マヤに論破されたルーシェは肩を落とすと諦めていったんローブを脱ぎ、ボタンを外してようやくローブを身につけた。


「こほん。では改めて、マヤさんの話を聞きましょうか」


「大丈夫? その制服シワになっちゃわない?」


「っっ! いいんですっ! 魔法でしわも伸ばせるんですっ!」


 玉座の背もたれに脱ぎっぱなしにされていたシェリルに変装する用の制服のことを指摘され、ルーシェは顔を真っ赤にして反論する。


「それならいいけど。それでさっきの亜人の国を作ってほしいって話だけど、とりあえずやってみることにしたよ」


「本当ですか? よかったー。マヤさんが引き受けてくれなかったらどうしようかと思ってました」


「でも1つだけ聞かせて」


「なんでしょうか」


「どうしてルーシェさんが自分でやるんじゃなくて、私に建国してほしいの?」


「ああ、そのことですか。簡単なことですよ。亜人の国を作るということは、エルフ、オーク、ドワーフ、オーガ、他にもたくさんいますがこれらの亜人をまとめて国をつくってもらうことになるわけじゃないですか?」


「そういうことらしいね」


「そうなると、誰が王になるかって話になるわけですが、ここでエルフが王になったらどう思います?」


「あー、なるほどね。たしかにそれは、他の種族からしたらおもしろくないだろうね」


「そういうことです。でも、人間なら誰でもいいわけじゃない。ある程度亜人に信頼されている人間である必要がある」


「それで私ってこと?」


「マヤさんは少なくともあの村のエルフには信頼されていますし、その近くにある村のオークたちにも聖女として崇められてますよね」


「流石によく知ってるね。色んなところにスパイがいるとか?」


「いえいえ、そんな大層なことじゃないですよ。エメリンから手紙で教えてもらったり、城に来た亜人の商人に聞いたりしただけです」


「なんだ、意外と普通な情報源だね」


「もちろん普通じゃない情報源もありますけど、マヤさんくらい目立っていればそんなことしないでもわかりますからね」


「え? 私って目立ってるの?」


「え? ええ、相当目立ってますよ?」


「なんで?」


「なんでって、ただの人間がエルフの村を救ったわけですし。亜人の間ではかなり有名ですよ、マヤさん」


「そうなんだ……全く知らなかったよ」


「うふふ、意外と鈍感なんですね」


「うわ、ルーシェさんひどい。お肌の魔法のことをみんなにバラしちゃうよ?」


「もうからかいませんから、それだけは勘弁して下さい」


「あはは、冗談冗談。それにバラしたらエメリンさんに何されるか……」


「たしかに……」


 マヤと一緒にルーシェも顔を青ざめさせる。


 エメリンはルーシェにとっても怖いらしい。


「それで亜人の国の話だけど、最初はあのエルフの村とオークの村をまとめて1つの村にしようと思うんだけど、どうかな?」


「いいと思いますよ。あの2つの村ならマヤさんについてきてくれるでしょうし」


「よし、じゃあ早速、村に戻って村長に話してみるよ。それじゃあまたねルーシェさん」


 マヤはそう言って玉座の間を後にした。


 ルーシェはそれを笑顔で見送ったのだった。

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