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建国依頼

「…………本当にシェリルさんが魔王なの?」


 シャリル改め魔王ルーシェの衝撃のカミングアウトによって絶句していた一同の中で、一番最初に発言したのはマヤだった。


「はい、本当ですよ」


「えーっと、どうしてこんなことをしたの……んですか」


「今まで通り普通に喋ってもらって大丈夫ですよ?」


「じゃあそうさせてもらうね。それで、なんでこんなことしたのさ」


「実は今回マヤさんをお呼びしたのは、ある重大な依頼をしようと思っているからなんです。そのためにマヤさんたちを見極める必要がありました」


「だから魔王だとバレないように案内係のふりをして私たちと話してみたってこと?」


「そのとおりです。その方が面白そうだったっていうのも、ちょっとありますけど」


「面白そう、で、騙すのは、良くない」


「うふふふ、そうですね、ごめんなさい。それにしてもカーサさんはすごいですね。オークは魔力を持たないはずなのに、私の違和感に気がつくなんて」


「シェリル、じゃなかった、ルーシェ様、は、全くすきがなかった。普通の案内係じゃない、と思った、から……」


 まさか魔王だとは思わなかったけど、とカーサは小声で付け足した。


「なるほど。勉強になりますね。次はもっとすきのある感じにしてみましょうか」


「いやいや、もうやめたほうがいいってこういうの……ほら、うちのかわいいかわいいダークエルフのお嬢様なんてさっきからずっと固まっちゃって動かないんだから」


 次回に向けての改善策を考えるルーシェに、マヤは硬直したままのオリガを指さした。


 さっきまで楽しく魔法の話をしていたエルフが実は魔王だったと知って、一番シェリルと話していたオリガは固まったまま動かない。


 あまりの驚きに立ったまま気絶しているらしかった。


「ごめんなさい、流石にやりすぎました。オリガさん、オリガさーん?」


「はっ、シェリルさん………じゃなかった! ルーシェ様……数々のご無礼、お許しください!」


 オリガの前で手をヒラヒラと振りながら呼びかけるルーシェに、オリガはやっと意識を取り戻すと、早口でまくしたてるように謝り勢いよく頭を下げる。


「いえいえ、悪いのは私ですから。ごめんなさいね、オリガさん」


「そうだよオリガ、全部ルーシェさんが悪いんだから」


「そうだな、魔王がしていいいたずらではない」


「うん、ルーシェ謝るの、当然」


「そんな~、みんなして言わないくていいじゃないですか~」


 ルーシェの言葉に、オリガ以外の3人は思わず笑ってしまった。


「ルーシェ様がそうおっしゃるなら……」


 マヤたちの笑い声を聞いて、オリガはゆっくりと顔を上げる。


「ええ、オリガさんは悪くないですから。それと、そんなにかしこまらなくていいですよ?」


「そういうわけには……」


「そうだよオリガ、それにその魔王様、オリガのお母さんが作った魔法でっ、もがっ!?」


 マヤの言葉は、あっという間にマヤの目の前に来ていたルーシェが、その豊満な胸元にマヤの頭を抱き込んだことで中断してしまう。


「ちょーっとマヤさんとお話があるので、皆さんはここで待っててくださいね」


 ルーシェはマヤの頭を胸に抱えたまま引きずっていき、隣の部屋に移動した。


 前がよく見えない状態のマヤの耳に、バタンとドアが閉まる音が聞こえる。


「マヤさん!? どうして肌を若返らせる魔法のことを知ってるんですか!?」


「いや、その、なんていうか……」


「いえ、言わなくてもわかっています。エメリンですね。このことは私とエメリンだけの秘密のはずです」


「まあそうなんだけど、エメリンさんにも悪気があったわけじゃないんだよ? ルーシェさんからの招待状を私に渡そうとして、間違えてエメリンさん宛の手紙を渡しちゃっただけで……」


「ああ……」


 マヤの言葉に、ルーシェは頭を抱える。


「あの子、基本的にしっかり者ですし、魔法の才能もずば抜けてるんですが、たまにすっごくドジなんですよね……」


「そうなんだ。私が知る限り、ドジしてたのは今回のことだけなんだけど」


「人間のマヤさんからしたらそうでしょうね。あの子のドジは10年に一度あるかないかですから」


「10年に一度はたまにドジっていうほどの頻度じゃないような……」


 10年に一度ドジしたらたまにドジ、だとするとマヤなんて超ドジだということになってしまう。


「とにかく、今はエメリンがドジっ子なのはどうでもいいとして、マヤさん、先ほどのことは他言無用ですよ?」


「うん、ごめんね。エメリンさんからも口止めされてたんだけど、つい」


「つい、で乙女の秘密をバラしちゃだめなんですよ? マヤさんだって女の子だからわかるでしょう?」


「う、うん……うん?」


 女の子の体になってからもう3ヶ月以上経つわけだが、未だマヤには乙女の秘密とやらはよくわからず、曖昧な返事しか返せない。


「なんとも言えない返事ですね……。まあいいでしょう。それじゃあ戻りますよ」


「そうだ、戻る前にルーシェさん、1つだけ」


「どうしました?」


「侍女さんたちが言うとおり、ルーシェさんのお肌、赤ちゃんみたいにすべすべだったよ」


 マヤは先ほど触れた(というか押し付けられた)ルーシェの胸の肌触りを思いだす。


 マヤの言葉に、ルーシェの顔がみるみる真っ赤になった。


「~~~っっ! もうっ、怒りますよ、マヤさんっ!」


「えへへ、ごめんごめん~」


 マヤはそのまま逃げるようにドアを開けてもとの部屋に戻る。


 そうやってマヤとルーシェがじゃれ合いながら部屋に戻ると、残っていた3人は不思議そうな目で2人を見てきた。


「ルーシェ殿、一体マヤになんの用だったのだ?」


「いえいえ、大したことではありませんよ。ね、マヤさん?」


「うん、そうそう。それよりもルーシェさん、なんか大事な依頼があるから私のこと呼んだ、みたいなこと言ってたけど、その大事な依頼ってなんだったの?」


「そうですね。どこからお話したものか難しいのですが、まあもったいぶっても仕方ないので、結論からお伝えしましょうか」


 ルーシェはそこで一息つくと、真剣な表情でマヤをまっすぐに見据えた。


「マヤさん、貴方に亜人の国をつくってほしいのです」


「亜人の国を? え? というか今、作って欲しいって言ったの?」


「はい、マヤさんには、亜人の国家を建国して、その王になって欲しいのです」


 ルーシェの真剣な眼差しから、その本気を感じとったマヤは、なんだか大変なことになったぞ、と天井を仰ぐのだった。

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