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魔王ルーシェ

「まさか魔王に呼び出される日が来るなんてね」


 エメリンにマヤ宛の魔王ルーシェからの手紙が来ていることを聞かされた翌日、マヤたち住み慣れてきた客間にいた。


「何か魔王の怒りに触れるようなことをしたのではないだろうな?」


「いや、特にそんなことはしてないと思うけど?」


「そうですね、私の知る限りでも、マヤさんはルーシェ様から怒られるようなことはしてないと思いますよ?」


「魔王ベルフェゴールに怒られるなら心当たりあるけどね」


 魔王ベルフェゴールは魔人化させた村長を操って、このエルフの村でなにかしようとしていたようなので、それを阻止したマヤのことを恨んでいても不思議ではないだろう。


「それにルーシェ様は基本的にお優しい方ですが、敵となれば容赦がないと聞いています。その昔、ルーシェ様の忠告を無視してエルフの森に侵攻して来た新参の魔王がいたらしいんですが、怒ったルーシェ様の魔法で魔王とその配下すべてが一撃で消し飛ばされたらしいですよ」


「なにそれ怖っ。絶対的に回しちゃいけないやつじゃん」


「ええ。でも、基本的にはお優しくて気さくな方らしいですよ?」


「気さく、ね……」


 マヤは昨日エメリンが間違えて渡してきて読んでしまった、ルーシェからエメリンに宛てた手紙の内容を思い出して、思わず苦笑する。


「どうしました」


「ううん、なんでも。じゃあなんで私呼ばれてるんだろうね?」


「悪いこと、じゃない、と、思います……マヤさんは、私たちの、聖女様、ですから」


「ははは、うん、ありがとうね、カーサ」


 マヤがカーサの頭を撫でようとしてぴょんぴょんしていると、カーサが頭を下げてくれた。


 カーサはマヤに頭を撫でられて、幸せそうに目を細めている。


「しかし、悪いことじゃないにしても不思議なことは不思議だな。魔王というのは基本的に人前には姿を現さんものなんだが」


「手紙には何も書いてなかったんですか?」


「うん、一度あってみたいからぜひ来てほしい、みたいなことしか書いてなかったよ。ほら」


 マヤはエメリンから受け取った手紙をオリガに手渡す。


 ちなみに、マヤが魔王ルーシェからもらった手紙はエメリン宛のくだけた文調のものとは違い、魔王としての威厳を感じられる厳格な文章だった。


「本当ですね。でも「突然呼び立ててしまったことの無礼はお許しいただきたい」って書いてありますし、少なくとも悪い理由じゃないと思います


よ」


「やっぱりオリガもそう思う? うーん、じゃあとりあえず行ってみようかな?」


 こうして、マヤたちは魔王ルーシェに会いに行くことになったのだった。


***


「うっわーーーー、なにこれなにこれ! おっきーーーーーい!」


 オリガの故郷を出発して数日後、マヤたちはようやく魔王ルーシェの城が見えるところにたどり着いていた。


 ただ、城という表現が正しいのかはよくわからなかった。


 なぜなら目の前にそびえ立っているのは、巨大な樹木だからだ。


 森の中にある、小さな町がすっぽり収まってしまいそうな大きな窪地の真ん中に、湖に囲まれた巨大な樹木があり、その中が城になっているようなのだ。


「ルーシェ様のお城は神話の時代から存在していると言われていますからね。なんでも最初は普通サイズの木の上にツリーハウスがあっただけみたいですよ」


「それが今こんなことになってるんだ。ルーシェ様長生きすぎでしょ」


 マヤは上を見上げるが、そのてっぺんは見えない。


 首が痛くなるまで上を向いて目凝らしたが、結局どれくらいの大きさなのかわからなかった。


「ルーシェ様、7,000歳くらいって、聞いたこと、ある」


「あー、たしかにそう言われてますよね。どこまで正確なのかはわかりませんけど。うちのお母さんといっしょで若作りなので本当はもっと上かもしれません」


「7,000歳ってもう何がなんだかわからないね……」


「おい、マヤ、オリガ、カーサ、見ろ。あれで城まで連れて行ってくれるのではないか?」


 マッシュが指した方を見ると、気球に乗ったエルフがこちらに向けて手を振っていた。


 程なくして気球がマヤたち近くに着地する。


「こんにちは。貴方達がエメリン様のところにいたマヤさん、オリガさん、マッシュさん、カーサさんですね」


「そうだよ。あなたは?」


「申し遅れました。私はシェリル。このお城で働いているエルフです。今回は皆さんをお城までお送りして、ルーシェ様のところにご案内させていただきます」


「そうなんだ。じゃあよろしくねシェリル」


「はい、お任せください」


 マヤたちはシェリルの案内で気球に乗り込んだ。


「じゃあ行きますよー」


 マヤたちが乗り終えると、シェリルが魔法を発動して気球が浮かび上がる。


 マヤの知っているの熱気球と違い、熱源が見当たらないので、魔法で空気を温めて飛んでいるのだろう。


「シェリルさんすごいですね! 魔法の発動がとってもスムーズです!」


 珍しくオリガが興奮した様子でシェリルの魔法に見入っている。


「へへーん、実は魔法にはちょっと自信があってですねえー。こんなこともできたりしますよー」


「うわー! すごいすごい! それどうやってるんですか!!」


「これはですね? ――――――」


 オリガとシェリルは、よくわからない魔法の話で盛り上がり始める。


 マヤには何がなんだかさっぱりだった。


 そんな2人をカーサが不思議そうに見ている。


「どうしたのカーサ」


「いえ、その、あの、シェリル、っていう人、ちょっと……」


「シャリルさん? シャリルさんがどうしたの?」


「えっと、ううん、私の気のせいだと、思います、たぶん……」


 そう言いながらも、その後もずっと、カーサは首を傾げていた。


***


「中もやっぱり木なんだね」


 空の旅を終え、マヤたちは城の通路を歩いていた。


「そうなんです。そもそも木をくり抜いて城にしてますからねー」


「へー、さすがエルフって感じだね」


「そうでしょう。エルフらしいって評判いいんですよ?」


「評判いいって、ここって誰か来るの?」


「基本的には他のエルフですけど、その他だとエルフ以外の亜人族ですね。オークとかオーガとかドワーフとかですね」


「オーガとかドワーフもいるんだ」


「普通にいますよ? マヤさんはあったことないんですか?」


「まあね。実はここ最近までずっと人間の街の中だけで生活してから」


 マヤたちがそんなことを話していると、ひときわ立派なドアの部屋の前にたどり着いた。


「ここがルーシェ様の部屋?」


「はい、じゃあ入りましょうか」


 ルーシェは特にノックなどもせず、そのままドアを開けるとどんどんと部屋の中に入っていく。


「え? シェリルさん?」


「まあまあ、気にしないで入っちゃってください。あ、カーサさん、ドア閉めてもらえます?」


「はい……」


 最後に入ったカーサが、ゆっくりとドアを閉める。


 そして、シャリルが|部屋の中央にあった玉座に腰掛けた《・・・・・・・・・・・・・・・・》。


「えーっと、シャリルさん?」


 マヤはシャリルのその行動に、なんとなく状況を理解して嫌な汗をかく。


「騙していてごめんなさい。シャリル改めルーシェです。私の城にようこそ」


 気球を操り、ここまでマヤたちを案内してくれたシェリルは、魔王ルーシェとしてマヤたちに挨拶したのだった。


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