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戦いの終わり

「「本当に申し訳ありませんでした!」」


 襲撃から3日後、ジョン王子とクロエは揃ってジョセフに頭を下げていた。


「気にしないで下さい。今回のことは元はと言えば私が操られていたことが原因のようですし」


「そうよクロエ、全部このアホがベルフェゴールごときに操られたのがいけないんだから」


 頭を下げているジョン王子とクロエを前に、ジョセフの隣に立っていたエメリンがそんなことを言う。


「エメリン~! いくらなんでも酷くないかい? 私はこれでもこの村の長なんだけど?」


「あら? あなたが村長になった時の事を忘れたの?」


「え?」


「私が、ルーシェ様のところから帰ってきた時、みんなが私を村長にしようとしたから、それをあなたに押し付けたのよ。まさかこれも忘れてたのかしら」


 エメリンの言葉に、ジョセフはぽかんとしている。


 どうやらすっかり忘れていたらしい。


 ちなみにルーシェというのは、エルフの森を統べるハイエルフの魔王の名前だと、オリガが教えてくれた。


「だからジョセフ、あなたは私の代わりなのよ」


「…………」


 エメリンのあまりにもストレートな物言いに、ジョセフは開いた口が塞がらない。


「だからクロエ、今回のことは不問とします。その隣りにいる虫だけ森の外に捨ててきてあなたもうちに帰って来なさい」


「虫……」


 虫呼ばわりされたジョン王子の肩が少し震えていた。


 一国の王子だけあって、いくら謝罪する立場とはいえ、虫呼ばわりされるのはプライドがゆるさないのだろ。


「それはともかく、ジョセフ、あなたには言っておくことが山ほどあるわ」


「はい……」


 エメリンの言葉に、ジョセフは素直にうなずく。


 村長になったときのことを思い出したと同時に、幼い頃からエメリンには逆らえなかったことも思い出したジョセフは小さくなってエメリンの話を聞いている。


「そもそも、あなた純血のエルフよね? 何でそれだけの聖性があって―――」


 それからエメリンは滔々(とうとう)とジョセフに説教を始めてしまった。


 やれ聖性がどうの、魔力濃度がなんのと聞いたこともない難しい言葉ばかりだったので、マヤはとりあえず無視しておくことにした。


「2人とも、いい加減顔上げたら?」


 マヤが声をかけたことで、頭を下げたまま上げるタイミングを失っていた2人がなんとも言えない表情で顔を上げる。


「これは許してもらえたということで良いのだろうか?」


「いいんじゃない、虫王子?」


「ぐぬっ……頼むからそれはやめてくれ」


「はははは、ごめんごめん。でもどうして王子様はエメリンさんにあんなに嫌われてるんだろうね?」


「それはたぶん―――」


「お姉ちゃん!」


「あー、なるほど」


 楽しそうに話し始めたオリガを顔を真っ赤にしたクロエが遮ったことで、マヤはすべてを察した。


 エメリンはクロエを含めた子どもたちを溺愛している。


 その愛する娘が、失踪して帰ってきたかと思ったら、男を連れてきたのだから、まあ当の男にはあんな態度になっても仕方ないだろう。


「まあなんていうか、大変だと思うけど頑張ってね王子様」


「お前に言われるまでもない」


 そう言い切ったジョン王子の隣で、クロエが頬を染めていた。


「あー、はいはい、ごちそうさま」


「そういえばマヤさん、そろそろクロエの魔力も完全に回復したと思いますけど、どうします?」


「ああ、そういえばそうだね。クロエさん、どうかな?」


「え? 私ですか?」


 突然話を振られたクロエはきょとんとしていた。


 大方ジョン王子ばかり気にしていてこちらの話を全く聞いていなかったのだろう。


「うん。魔力はもう戻ったかな?」


「えーっと……はい、もう完全に本調子だと思います」


「それは良かった。じゃあこの前頼んでたこと、お願いできる?」


「ええ、もちろんです」


「じゃあ早速マッシュのところに行こうか」


 マヤはオリガとクロエ、それにジョン王子を連れて村長の部屋を後にした。


 ちなみに、結局ジョセフは、マヤたちが部屋を出るときも延々とエメリンに説教されていたのだった。


***


「マッシュー、クロエさんを連れてきたよー」


「おお! ということはつまり、魔力が戻ったのだな?」


 マヤたちがマッシュとその家族がいる部屋に入ると、マッシュが勢いよく振り返った。


 その顔は喜びに満ちあふれている。


「はい、もう万全です。おまたせしました」


「そうかそうか、ようやくか。それにしても時間がかかったな? それもこれも、オリガがこてんぱんにやりすぎるからだぞ?」


 マッシュは噛みしめるように言った後、珍しく弾んだ声でオリガをからかう。


 よほど嬉しいのだろう、マッシュがオリガをからかうことなどめったにない。


「えーっ! 私のせいですか? だってクロエが諦めてくれなかったんですもん」


「ふふっ、確かにお姉ちゃんはやりすぎだったかも?」


「ほら、妹もそう言っているではないか」


「クロエまでマッシュさんの味方なの? もうー、助けてくださいマヤさん」


「まあ3日も魔力が完全回復しないくらい叩きのめしたのは事実だし?」


「マヤさんまで………もうっ、そんなことよりマッシュさんの家族をもとに戻すんでしょう!」


 マヤが大きな声でそう言うと、部屋にいたみんながドッと笑った。


「そうだったそうだった。それじゃあクロエさん、やってもらえるかな」


「はい、それじゃあいきますよ治癒(ヒール)


 エルフの秘薬の効果を消すことができると言われる妖精姫の御手は言い伝え通り見た目はただの治癒(ヒール)と同じだった。


 しかし、やはりそれは妖精姫の御手だったのだろう。


 ダメ元でオリガがマッシュの家族に治癒(ヒール)を使った時と違い、効果はすぐに現れた。


「んっ、んんっ………、こ、こは?」


「おお! ブランよ、私だ、わかるか?」


「あらあなた、どうしたのですかそんなに大きな声を出して……というかもしかしてブランというのは私のことですか?」


「ああ、マヤが名付けたのだ。お前が攫われてから色々あってな―――」


 ようやく本当の意味で取り戻した妻と話しているマッシュの隣で、クロエは残り3人の子どもたちにも治癒魔法をかけると、静かに立ち上がった。


 そのまま部屋を出ていくクロエに、マヤとオリガ、ジョン王子も続いた。


 その日マッシュは夜遅くまで、久しぶりの家族との時間を楽しんだのだった。


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