オークの村
「相変わらずマヤさんは無茶苦茶ですね」
「全くだ。少しは考えて動いてほしんだがな……」
「ははは……」
村長の屋敷からの帰り道、マッシュとオリガはそんなことを話しながら苦笑していた。
文句を言ってはいるが、本気で怒っているわけではないのだろう。
「えー、考えて動いてるつもりなんだけどなあ? 今回だって依頼をもらえたわけじゃん?」
「依頼をもらった、というより、無理やり依頼させた、という感じだったが」
「まあいいじゃん、結果としては同じでしょ?」
「そうかもしれんが、もう少しやり方というものをだな」
「あーあーあー、聞こえない聞こえない」
「おいこら! 私の話を聞かんか! おい!」
パタパタと逃げマヤをマッシュは怒鳴りながら追いかける。
オリガはそんな二人を遠巻きに眺めながら、ゆっくりとその後をついていくのだった。
***
森の中を歩いていると、先頭を歩くオリガの向こうに開けた場所が見えてきた。
「あれがオークの村なの?」
「そのはずです」
村長から依頼を受けた翌日、マヤ達はオークの村の近くに来ていた。
「なんというか、ずいぶん質素な感じなんだね?」
「そうですね。エルフと違ってオークは知能が低いですから」
「そうなんだ?」
やはりオークというのは知性が低く欲望に忠実な野蛮な種族なのか、とマヤは納得しそうになったが、マッシュから指摘があった。
「いやオリガ、それは偏見というものだぞ?」
「そうなんですか?」
「そうだ。まあ会えばわかるだろう」
「会っていいのかな?」
マヤは村長から渡された依頼書を確認する。
大きく「隣接するオークの村への偵察、場合によってはその討伐」と書かれている下に、細かな注意事項が書いてあり、よく見ると「オークと話さないこと」と書かれてた。
「オークと話しちゃ駄目らしいけど?」
「ふむ、どういうことだ?」
「さあ? エルフの間ではオークは知能の低い蛮族だと言われていますから、話しても無駄だからそう書いてあるとか、そんな感じじゃないでしょうか?」
「マッシュ、オークって普通に話はできるんだよね?」
「ああ。万が一襲われても彼らは力は強いが魔力はない。オリガの敵ではないだろう」
「じゃあとりあえず話してみようか。そのほうがオークのこともよくわかるはずだしね」
「わかりました。マヤさんがそう言うなら、オークの村に入りましょう。マヤさん、昨日渡しておいたブレスレットはつけていますか?」
「うん、ほら」
マヤは左手首に輝く魔石のブレスレットをオリガに見せる。
「良かった。それならもしものことがあっても大丈夫ですね」
マヤがブレスレットをつけているのを見て、オリガがほっと胸をなでおろす。
「?」
マヤはそれがどういう意味かさっぱりわからなかったが、とりあえず気にしないことにした。
そういうわけで、マヤたちは依頼書に書かれた注意事項を見なかったことにしてオークの村に入ることにしたのだった。
***
「こんにちは~」
村を取り囲む柵のまわりを、ぐるっと回って、入り口らしきところ発見したマヤたちは、閉まっている門の扉に向かって、大きな声で挨拶した。
慌ただしい足音の後、門の上の見張り台に人影が現れた。
「何者だ!」
マヤが見上げると、そこにはモスグリーンの肌をした筋骨隆々の青年が立っていた。
腰みの一丁なので、下から見るとアレが見えてしまいそうで、マヤは少しドキドキした。
女の子から見た露出の多い男の姿というのはこういう感じなのか、とどうでもいいことに感心しているマヤをよそに、マッシュがオークの青年に応える。
「我々は近くのエルフの村から来た者だ」
「エルフの村から来ただと!? よくもそんなことを平然と言えたものだな!」
マッシュの言葉に激高したオークの青年は、振り返るとそこに設置してあった鐘を打ち鳴らす。
状況が読めずにいるうちに、マヤたちはオークたちによって囲まれていた。
「ねえマッシュ?」
「何だ、マヤ」
「オークと話してわかることって、これ?」
マヤは違うとわかっていてわざと質問する。
それでも確認しておかねばなるまい、なぜなら突然襲われているのだから。
「そんなわけないだろう。しかしおかしいな、私の知ってるオークはこんなに好戦的ではなかったのだが」
「マッシュの知ってるオークが特別大人しかった説はない?」
「その説は否定できないが」
オークに囲まれたままのんきに話しているマヤとマッシュに、しびれを切らしたオークの1人が襲いかかってくる。
「仲間の恨み、お前らで晴らさせてもらう!」
筋骨隆々なオークの男がマヤとの距離を詰めると、マヤの身長ほどもある大剣を振り下ろした。
「……っ」
マヤが反応できないでいるうちに、大剣の刃はマヤのすぐ上まで迫っていた。
今更どうすることもできないマヤは、ギュッと目をつむる。
これでマッシュもオリガも間に合わなければ、まあその時は諦めて死ぬしかないだろう。
しかし、直後にマヤが聞いたのは意外な声だった。
「わふっ、ぐるるるるるるるっ」
目を開けたマヤの目の前にいたのは大きな白い狼、マヤお気に入りの魔物のシロちゃんだった。
オークの大剣を額の白くなった魔石で受け止め、弾き返し、オークたちを唸り声で威嚇している。
「シロちゃん? どうしてここに……」
シロちゃんを含めたすべての魔物はオリガの魔法、運籠の中にしまってあるため、オリガに出してもらわないとマヤは魔物を使えないはずなのだが、これは一体どういうことだろう。
「上手く機能したみたいですね」
いつの間にか防御魔法を展開してオークたちを遠ざけていたオリガが、マヤのブレスレットを見ていた。
「なに、このブレスレットの効果なの?」
「はい、それがあればマヤさんは私の運籠から魔物を好きなように呼び出せます」
「なにそれすごいじゃん! なんで教えてくれなかったのさ」
「いえ、本当に思いつきで作ってみたのでうまくいくか自信がなくて……」
「思いつきでこんなもの作れるなんて、オリガってやっぱりすごいね。よーしこれならっ!―――って、あれ?」
自由に魔物を呼び出せるブレスレットを貰い、ワクワクしてきたマヤがいざオークたちと戦おうとすると、そこには何故かひざまずいてマヤに頭を垂れるオークたちの姿があった。
突然の態度の変化に、シロちゃんも戸惑っているのか、マヤを振り返ったりオークたちに視線を戻したりとキョロキョロしている。
戸惑うマヤたちに、一人のオークはマヤとシロちゃんの前に進み出た。
「先ほどは貴方様方が予言の聖女様方とは気が付かず、大変失礼致しました」
そう言って、マヤとシロちゃんのすぐ目の前で再びひざまずき、頭を垂れる。
「えーっと、どゆこと?」
「わふううぅ?」
マヤとシロちゃんは、わけがわからず顔を向けあって首を傾げるのだった。




