魔物使いの力
「これなら、1週間でエルフの森まで辿り着けそうですね」
出発した日の夜、オリガはランプの明かりで地図を見ていた。
シロちゃんに乗って移動したおかげで、予定より大幅に早く進んでいる。
「ふふーん、すごいでしょシロちゃんは」
「わふっ」
自分のことのように胸を張るマヤに、マヤの背もたれになっているシロちゃんが嬉しそうに返事をした。
「そうですね。まさか狼に乗ることになるなんて思ってなかったですが」
昼間自分たちが乗っていたシロちゃんを見てオリガは苦笑する。
「珍しいの?」
「珍しいというか、そもそも人が乗れるサイズの狼なんて普通はいませんからね」
「乗るといえば基本的に馬だな。山の方ではロバに乗ることもあると聞くが」
長い枝で器用に焚き火の火力調整をしていたマッシュがそう付け加える。
「そうなんだ。じゃあなんでシロちゃんはこんな大きいんだろうね?」
「それを私に聞かれても……そもそも強化で魔物が大きくなるなんて聞いたことないですし……」
「それに、そのシロちゃんとやらに限らず、魔石の色も毛並みの色も白に変わっているしな。前々から思ってはいたが、お前の魔物使いとしての能力は他と違っているようだ」
マヤがヘンダーソン家から連れてきた魔物は、この1ヶ月でその全てが通常の魔物の黒い毛並みから、シロちゃんと同じ白い毛並みに変わっていた。
ちなみに「みんな白いならみんなシロちゃんなのでは?」と思ったオリガがマヤに尋ねたことがあったのだが、名前が思いつかないとのことでお気に入りのシロちゃん以外にはまだ名前をつけていないとのことだ。
「そうなんだ? 私以外の魔物使いに会ったことないからよくわかんないや」
「魔物使いは才能が必要な上にあまり強くもないからな。言ってしまえば不人気なのだ」
「あれれ、そうなんだ。でも私、魔物使いしかできそうにないしなあ」
「マヤさんくらい強力な強化魔法が使えて、あれだけ多くの魔物を魔石の補助なしに操れるなら魔物使いでも十分やっていけると思いますよ?」
オリガの言葉に、それならまあいいか、とマヤが考えていると、
「ぐるるるるるるる!」
と、シロちゃんが突然うなりだし立ち上がる。
「わわっ! 急にどうしたのシロちゃん?」
伏せていたシロちゃんを背もたれにしていたマヤは、シロちゃんが突然立ち上がったので、そのまま後ろに倒れそうになってしまう。
「魔物の群れに囲まれているらしいな。やはり気づいていなかったか……」
どうやらマッシュはその持ち前の聴覚で魔物の接近に気がついていたらしい。
「マヤさんは強化魔法以外本当に何も使えませんからね。仕方ないですよ」
ちなみにマヤは気がついていないが、オリガも半径100メートルほどの範囲で展開している探知魔法で魔物の接近には気がついており、防御魔法が展開済みだったりする。
「え!? 夜襲ってこと!? 大丈夫なの、それ!?」
「落ち着け、魔物の群れと言っても20匹程度だ。100匹以上使役できる魔物使いが慌ててどうする」
「そ、そうなんだ。まあそれなら大丈夫、なのかな?」
未だに自分には存在が感じられない魔物に、不安になるマヤだったが、とりあえず混乱していても仕方ないので無理やり落ち着くことにする。
「ちょうどいいのでマヤさんがどれだけ規格外なのか実感してもらうことにしましょうか」
オリガはそんなことを言うとシロちゃんよりひとまわり小さい魔物を10匹ほど運籠から召喚した。
「何するの? 私が強化すればいい?」
「いえ、今回は私が強化します。とりあえずマヤさんはこの子たちに私の指示に従うように言ってもらえますか?」
「ん? まあいいけど……」
マヤはオリガの近くにいる10匹に、オリガの指示に従うようにお願いした。
「じゃあやってみましょう強化」
オリガがいつもマヤが唱えている呪文を唱えると、10匹の魔物たちが一瞬淡い光に包まれた。
「行ってください!」
オリガの指示で魔物たちが一斉に動き出し、未だ闇の中にいる魔物たちに襲いかかる。
「おー、さすがだねオリガ。って、あれ?」
そこでマヤは、3匹の魔物がその場から動いていないことに気がついた。
「やっぱり7匹が限界みたいですね」
オリガは残った3匹の魔物を撫でながら苦笑する。
「7匹同時に操れれば大したものだ。並の魔物使いよりは強いだろう」
「えーっと、よくわからないんだけど、どういうこと?」
オリガとマッシュの会話に、置いてけぼりを食らっているマヤが質問する。
「普通魔物使いは1匹から5匹ほどの魔物しか同時に操れんのだ。その証拠にオリガのように魔力も才能も並外れた者でも、7匹が限界、というわけだ」
「私はこの前100匹以上まとめて操ったけど?」
「だからそれがおかしいと言っているのだ。普通はまずそんなことはできん。万が一できたとしてそんなことをすればすぐに魔力切れで倒れるだろうしな」
どうやら自分がやったことは凄まじいことらしかったが、どれだけたくさんの魔物を使役できても、マヤ自身がただの女の子程度の強さしかない事実は変わらないので、素直に喜んでいいものか微妙な気分だった。
ほどなくして、オリガが操る魔物たちがそれぞれ2、3個魔石を咥えて帰ってきた。
オリガは魔物たちを労うように数回撫でた後、運籠の中に魔物たちを戻す。
「マヤさん、自分がどれくらいすごいかわかりましたか?」
「うーん、でも私それしかできないしなあ」
「それでもマヤさんはすごいんですよ。だから自信を持ってください!」
力説するオリガに、マヤはやや気圧され気味にうなずく。
「まあオリガがそこまで言うなら……」
「オリガは相変わらずマヤに甘いな。こいつが魔物の強化と操作以外はからっきしなのは事実なのだ。自信を持たせてどうする」
「ははは、まあそうだよね」
「ふふっ、マッシュさん、そんなこと言ってマヤさんが心配なだけなんでしょう? 変に自信をつけたマヤさんが突っ走ったらどうしよう、って。素直じゃないですねー」
「なっ! 何を適当なことを言っておるのだ!」
「えーそうなのマッシュ?」
焦るマッシュを、マヤとオリガはニヤニヤと笑いながらからかう。
「もう知らん! 私は寝るからな!」
マヤたちの野宿1日目は、こうして和やかに過ぎていったのだった。




