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マッシュの家族と秘薬

「で、ここからどうするのだ?」


 マヤとオリガ、そして魔物の群れ中心から脱出してきて2人に合流したマッシュは、オリガの防御魔法の中にいた。


「ねえオリガ、この防御魔法はどれくらい持ちそうなの?」


「幸いこの館の兵の中には私より魔力が強い人はいないようですので、おそらく私の魔力は尽きるまでは維持できるはずです」


「なるほど」


 マヤはうーん、と考え込む。


 オリガはこう言っているが、さっきから何度も防御魔法を張り直しているところを見ると、ダークエルフとして大量の魔力を持つオリガと言えど、そう長くは持たないだろう。


「マヤ、さてはお前、何も考えてなかったな?」


「うぐっ! そ、そうだけどさ! マッシュがそれ言うかな!? そもそもマッシュが突っ込んだのがいけないわけでしょう?」


「たしかにそうかもしれんが、さっきお前はオリガに「なんとかなるでしょ」みたいなことを言っていただろう? 私はてっきり何か考えがあるものだと……」


「こんなにバカみたいに魔物がいるとは思わないじゃん! そんなに言うならマッシュがなんとかしてよね!」


「ははははは! 魔物師の魔物よ! まさかまたのこのこやってくるとは思わなかったぞ!」


 マヤとマッシュが魔物と兵士をそっちのけで言い合っていると、3人の上方から高圧的な声が聞こえた。


 オリガが魔法を維持しながら上を見ると、貴族然とした豪奢(ごうしゃ)な服に身を包んだ男性の姿があった。


 中央の巨大な魔石の上部にぐるりと回された足場に立つ男性の足元には白いうさぎの姿があった。


(あれがマッシュさんの奥さんなんでしょうね)


 遠見(テレスコープ)の魔法を使って男の足元の白いうさぎを確認したオリガは、その特徴から雌であることを確認した。


 若い貴族、ヘンダーソン家長男にして次期当主であり、それすなわちこの国の王子でもあるジョン・ヘンダーソンの言葉に顔を上げ、状況を冷静に観察しているオリガと対照的に、マヤとマッシュはまだ言い合いを続けていた。


「なんとかできたらなんとかしているだろうが! ちょっとは考えろノーテンキ娘!」


「はああ? なにそれ! それはこっちのセリフだよ! うさぎのくせにイノシシみたいにすぐ突っ込んじゃってさー! ただの動物の方が頭いいんじゃないの!?」


 ヒートアップしている2人は、ジョン王子が登場した事も、その近くにマッシュの奥さんらしきうさぎがいることも気がついていないようだ。


「言うに事欠いて獣のほうが頭がいいだと!? 言っていいことと悪いことがあるぞ!」


「そっちこそ、ノーテンキ娘とか言ったくせに! 私はノーテンキ何じゃなくていつでも冷静なんですー!」


 オリガはもちろん、ヘンダーソン家の兵士も魔物もジョン王子も、こんな状況で言い合いを続ける2人にあっけにとられている。


「あの~、マヤさん? マッシュさん? 今は言い合っている場合じゃ……」


「「オリガは黙ってて!」いろ!」


 こんな時だけ息ぴったりにオリガを振り返り、語尾こそ違うが異口同音にそんなこと言われたオリガの中でプチンとなにかか切れる音がした。


「い・い・か・げ・ん・に・し・て・く・


・だ・さ・い!!」


「あだっ!」


「うぐ!」


 それはあまりに一瞬の出来事だった。


 2人のあんまりな態度にブチギレたオリガは、掻き消えるように姿を消したと思うと、次の瞬間には元の場所に立っていた。


 涙目で頭を押さえるマヤを右腕に、首根っこを掴まれたマッシュを左手に持った状態で。


「もう! 突然何するのさオリガ! 頭が割れるかと思ったじゃん!」


「そうだぞオリガ、今は仲間割れなどしている場合では―――」


「お二人はちょっと黙っていて下さいね?」


「「は、はい……」」


 オリガの制裁に文句を言った2人は、にっこりとしかし全く目が笑っていない微笑みとともに発せられたオリガの言葉に、震えながら返事をすることしかできなかった。


「ダークエルフのお嬢さん? その、話していいだろうか?」


 キレたオリガの迫力に、名実共にこの国で王に継ぐ権力者であるはずのジョン王子が、やけにビクビクしながらオリガに許可を求める。


「ええ、大丈夫ですよ? こちらこそお見苦しいところをお見せしました」


「う、うむ。仲間割れは良くないな、うん。ではなくて、ごほん!」


 マヤたちにペースを崩されたジョン王子は、わざとらしく咳払いをすると、半ばヤケクソで登場時の調子に戻って話し始める。


「魔物師の魔物よ、まさかまたのこのことやって来るとは思わなかったぞ! お前が探しているのはこいつだろう?」


 王子は足元の白いうさぎを抱き上げると、マッシュに見せつける。


「お前! 良かった……! 無事だったのだな!」


「…………」


「どうしたのだ? 私の声が聞こえないのか? いや、そんなはずあるまい! お前は聴力に長ける我が一族の中でも特に耳が良かった! さては! おい! ジョン、貴様私の妻に何をした!」


「クク、ククククッ。ははははははは!」


「何がおかしい! 私は何をしたと聞いているのだ!」


「いやなに、魔物師、お前の言葉があまりにも予想通りだったのでな? クク、いいだろう、どうせお前らは助からんだろうからな、教えてやる」


 ジョン王子によると、マッシュの奥さんがマッシュの呼びかけに応えないのは、ある秘薬の力らしい。


 子どもたちを人質にされても、最後まで抵抗を続けたマッシュの奥さんに、運良く秘薬の材料を手に入れたジョン王子が、その秘薬を使ったのだ。


 そこまで説明した後に、ジョン王子はこみ上げる笑いを噛み殺す。


「ククッ、それにしても偶然というのは恐ろしい。いいか? こいつに使った秘薬の材料ってのは―――」


「やめて下さい!!」


 ジョン王子の言葉を遮ったのは、オリガだった。いつの間にかその顔は青ざめている。


「ははは! 傑作だ! いいか、この秘薬の材料はな、ダークエルフの髪なんだよ!」


「そんな……本当なの、オリガ?」


「…………」


 オリガはうつむいたまま何も答えない。


 それは、肯定したも同然だった。


 そのうちオリガは膝を付き、うずくまってしまう。


 結果的にオリガから開放されたマヤとマッシュだったが、今はそれを喜んでいる場合ではなかった。


「!?」


「まずいぞマヤ!」


 うずくまったオリガから嗚咽が聞こえ始めると、程なくして防御魔法が解かれてしまう。


「はははははは! これは助かった。お前ら、さっさとこいつらを片付けろ! おい、お前も魔物を動かせ」


 ジョン王子は兵に命令するとともに、マッシュの奥さんを足元には下ろすと、前足を中央の巨大な魔石に触れさせる。


 その瞬間、魔物たちが一斉にマヤとマッシュに襲いかかってきた。


 ヘンダーソン家兵士たちと魔物に挟まれる形で襲いかかられ、頼みの綱のオリガは秘薬のことがよほどショックだったのか、戦えそうもない。


 あまりのピンチに、マヤも今回は頑張っても笑えそうになかった。


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