WORLD・OF・CONNECT
「ぼっち」と「未来」
ここ十数年の科学技術の発展は目を見張るものだった。宇宙開発、エネルギー問題の解決、放射線除去のイノベーション。だが、それ以上に目を見張ったのが、科学技術の『普及』であった。月面都市、ドローン輸送、完全体験型ヴァーチャル技術。今やどこの家庭もロボットを所有していて、そのロボットに仕事をさせ、給料を得る。社会の効率化とロボットの仕事独占という恐怖との折衷案が社会の常識になり、人々の手元には自由な時間と金、豊かな挑戦権が与えられた。
その一方で。僕らは繋がりを失った。世界はこれを『究極の個人至上社会』と呼んでいる。
「人同士が現実でコミュニティを作るシステム?」
都内の公立高校の片隅で、進路指導のN先生は鸚鵡返しをする。
「難しいんじゃないか?」
N先生は頭を捻る。
「この社会じゃあなぁ…。他人と共生なんて必要とされてない。面倒臭い人間関係やら、思いやりとか、配慮とか。みんなもう耐性が残ってないよ。」
「それがまずいんですよ。先生もご存知でしょ?近年の少子化や孤独死の増加率。」
「わかっちゃいるさ。だがな、それでも誰も一緒に生きようだなんて考えちゃいないんだ。この意味、聡いお前ならわかるだろう?」
長い沈黙が教室を茜色に支配する。
「お前のやりたいことはわかる。先生がガキの頃みたいな、人と人との助け合いの社会。あれは確かにユートピアだった。だがな、時代は移った。誰とも現実の関わりを持とうとせずとも、自分がしたいことをやれるこの究極の個人至上社会こそが今のユートピアなんだ。」
「何が究極の個人至上社会ですか。ただのぼっち社会じゃあないですか。」
先生が顔を上げる。目が合った。
「確かに、僕らは皆資本者階級になりました。他人との関わりがなくたってやりたいことを好きなようにやれるようになりましたよ。でも。そこから何かが生まれましたか?」
そこまでいうと僕は息を大きく吸った。心臓が大きな音を立てている。
「みんな自分がやりたいことだけやっている。だから何も生まれない、何も生み出せない。結局僕ら人間は一人じゃ何もできないんですよ。何も作れなくなった人間が、未来を作れるはずがない。僕は、未来を作るために、世界の繋がりを作りたい。」
思えばこの瞬間が、僕の夢のスタートラインだった。この時はまだぼっちだった僕には、何も見えていないけれど、何も生み出せるはずないけれど、何かが生まれる音が確かにした。
どうも、波触雪帆です。第5作となりました、「WORLD・OF・CONNECT」いかがでしたでしょうか。前作に引き続きの前日譚系の小説になったんですが、ぶっちゃけこういう形式ってショートショートと呼んでいいのか、という不安があります。できれば1000文字の中でストーリーを完結させたいのですが、やはり難しいものです。
とはいえ、今回の作品はだいぶ世界観が広めでワクワクしながら執筆していました。試験練習なので90分時間をかけてやってたんですが、半分くらいは後のストーリーまで考えてましたね笑。もしも、大学に受かったら映像化したい作品でもあります。
このシリーズは大学受験の練習を兼ねたものです。技術向上のため、コメントをしていただけますと幸いです。