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英雄が通う学園に、村人Aが征く  作者: たてみん
第7章:情熱で始まる2学期
94/208

94.お姫様に待ち伏せされる

バイトを終えた帰りはいつものようにスーパーに寄ってお惣菜を確保する。

ちなみに最近のちょっとした贅沢で果物も1つ購入するのがマイブームだ。


「うーん、最近物価が上がってるって言うけど果物の値上がりは酷いよなぁ。

まあ農家も苦労しているのはよく分かるんだけど」

「なに主婦みたいなこと呟いてるのよ」


いちじくを持って唸ってたら後ろから声を掛けられた。

振り返るまでもなくこの声は姫乃だな。


「いや子供の頃は1パック300円くらいだと思ったんだけど500円もするからさ」

「言いたい事はわかるんだけどね」


ここ数年生鮮食品のほとんどが値上がりしていて例えば卵は小学生の頃10個で120円とかで売っているのを見たことがあるけど、最近だと安くても200円だし高級なのになると10個500円とかもある。

野菜だって高くなったし日本もインフレが進んでるよな。


「それはともかく姫乃はどうしてここに?

今日はバイトの日じゃ無かったよな」

「まあね」


姫乃が喫茶店でバイトしているっていうのは一応秘密だったりする。

なにせ我が校の姫様なので、そんな姫乃がバイトをしてるって学園にバレたらその日から日参するコアなファンが現れたりメイド喫茶と勘違いした馬鹿が何かしでかす可能性があるからな。

俺の所とは違って普通の喫茶店なんだ。

多少売り上げが伸びるのは嬉しいだろうが騒動は御免だろう。


「そういう一会くんはバイトの帰りでしょ。

それともキヒトさんって呼んだ方がいいのかしら」


いたずらっぽくそういう姫乃はちょっとドヤ顔入ってる気がする。

これはあれだな。

もしかしなくても俺の正体は分かってるぞって言いに来た感じか。


「バイト中とそれ以外では完全に分けてるんだ。

だから普段は今まで通りで頼む」

「ふむ、否定したりとかごまかしたりとかはしなくて良いの?」

「姫乃相手にはいらないだろう。

それに俺の方のバイトは姫乃と違って言い触らす必要が無かっただけで隠さないといけない訳でもないし」

「そうなの?あのお店って夜はホストクラブみたいになるって聞いたけど」

「夜はな。俺は21時までしかシフト入れてないから関係ない」


誤解はされたくないのでここはしっかり胸を張って宣言しておく。

だけどそれに対して姫乃は携帯画面を取り出して何かを読みだした。


「えっと、

『ホスト名:キヒト。外見年齢は20歳前後。柔らかい物腰と落ち着いた声、何よりも繊細な気遣いにより評価は文句なしの☆5。もし☆評価が5までじゃなければ10くらい付けたい。近隣どころか全国で考えてもトップクラスと言っても過言ではないだろう。

勤務時間は学生だからか平日は16時~21時。土日は頻度は少ないものの開店から21時までフルタイムで居る事もある。

深夜帯での勤務は確認されていないが、これは未成年だからであると考えられる。

また彼のプライベートに関しては一切が謎である。

ホスト名と直近の勤務日程は教えてもらえるが、それ以上となると鉄壁のガードを誇る。

店の裏口で出待ちした人も過去に居たそうだが、それらしい人物は見つけられず職質に引っ掛かっている』

だって」

「なにそれ」

「ネットに掲載されているキヒトさんの基本情報。

この他にもあのお店を利用した人からの感想というかクチコミも掲載されてるよ」

「どれどれ。おーほんとだ」


画面を見せてもらえば実に数百件の書き込みがあった。

ぱっと見は高評価なものばかりだからそこは安心かな。


「キヒトさんの正体が学園では村人Aなんて呼ばれている人物と同一人物だって知られたらちょっとしたニュースになりそうですね」

「うん。何となく学園生側は信じない気がするな」

「あ、たしかに」


学園は良くも悪くもあだ名を大事にしているところがあるからな。

お陰で良く村人Aなら村人Aらしくしろって言われたもんだけど。


「それで姫乃はそれを俺に見せに来たのか?」

「これはおまけ。

それより隠す必要が無かったのならどうして最初から教えてくれなかったの?」

「そこはまあ仮にもプロだからな。自分のことであっても仕事中に知りえた情報は一切口外しないことにしてるんだ」


だからこうして問われたら答えられる範囲で答えるけど自分からは言わない。

もちろんそれは仕事時間以外でもだ。

キヒトとして姫乃とチャットした内容は一会としては一切聞かなかったのと同じように振る舞う。


「……こうやって言ってるとどことなく懺悔室みたいだな」

「でもあれって実際には聞いた内容が悪用されるケースが結構あったって聞いたけど?」

「らしいな。それもあって聖職者ってのは信用ならないんだ、まったく」


夢の中に出てくる教会関係者は結局ひとりとして信用出来なかったなぁ

酷い奴だと神の名のもとにって言えば誘拐も殺人も人体実験さえも正当化してやがった。

最後は自分自身を生贄にして町一つを廃墟にしたんだ。

そう考えればやってることは最低だけど成果は災害級なんだから凄いやつだったんだろうな。


「ともかく今後は普通の話なら一会のアドレスに、秘密の話ならキヒトのアドレスに送ってくれ」

「さっきの話のせいでちょっと信用していいのか怪しいけど。

あと最後に1つ聞かせて。なんでキヒトさんの連絡先を教えてくれたの?」

「……まああれだ」

「もしかして言いにくいこと?」


ジトッと今日一番の怪しむ顔をする姫乃は、どうやらこれを聞くために俺を待ち伏せしてたんだろうな。

連絡先を教えた理由は、言えなくは無いけど、な。

まあ誤魔化しても意味無いか。

俺は頭を掻きながら理由を話すことにした。


「同業のスタッフの中には、懇意になった客を言葉巧みに誘って食っちまう野郎が時々居るんだよ」

「食べる?」

「ホテルに連れ込んで性欲の捌け口に使って用済みになったらポイ捨てすること」

「……あぁ」


流石にここまで言えば姫乃でも理解したようだ。

実際うちの店でもポイ捨てまではしなくても彼女にしたって奴や過去にはそのまま結婚した人も居たらしい。

逆に知り合いには居ないけどポイ捨てどころかもっと酷い結果になる時もある。

そして姫乃も頭の回転は速い方だからな。ここまで言えば俺の意図も気付くだろう。


「えっと、つまり私をそういう男から守るために先に手を付けておいたってこと?」

「……さあな。

もしかしたら俺が姫乃をホテルに連れ込みたいからだったのかもしれないぞ」


そう言ってみたもののいつの間にか楽しそうに笑う姫乃には通じてなさそうだ。

俺の顔を少し屈んで下から覗き込むように見る姿はどこか小悪魔のようだな。


「じゃあ私はいつか一会くんが(・・・・・)言葉巧みに誘ってくれるのを楽しみにしてみようかな」


なぜか俺の名前を強調しながら言った姫乃は、俺が何か言うより先にすっと一歩下がってそのまま立ち去って行ってしまった。

うーむ、姫乃もあんな表情をするんだな。

というか俺が誘ったら付いて来るのかよ。

……いや、ないな。うん。

あれはどう考えても揶揄っただけだろう。



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