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英雄が通う学園に、村人Aが征く  作者: たてみん
第7章:情熱で始まる2学期
93/208

93.お嬢様は気が付く

「お帰りなさいませ。お嬢様」


いつもの執事風喫茶(バイト先)で精を出す。

早いものでここで働き始めてからもう少しで半年が経ったんだな。

有難い事に最近では俺を目当てにこの店にやってくるお嬢様も何人か居るらしい。

もっともあくまで執事風であってホストクラブの類いではないので指名制ではない。

もちろん顔馴染みの方が来たら優先的にお相手することは出来るし店側もそれを望んでいるので、忙しくなければ指名されるのと大して変わらない。


カランカラン♪

(っと、あれは姫乃か。そう言えば今日来るってチャットで言ってたな)


入口の扉に手を当てた人物を見て、俺はすぐさま他のスタッフに視線を飛ばす。

すると数人から反感の籠った視線が返ってきた。意味は『年下の癖に生意気だ。こっちにも美女を回せ』だろうか。

そういう奴に限って相手を選り好みしたり色目を使うので、結局良い客ほど奴らの元には残らない。別のスタッフを指名するようになるか来店しなくなるかの2択だ。

つまり自業自得なんだが。

ともかく俺は足早にかつ優雅に移動し、今しがた入ってきた姫乃に声を掛けた。


「お帰りなさいませ。お嬢様」

「えっと今日は空いてますか?」


これは席に案内した後も付き添えるかという確認だ。

俺は最近の来客状況からさっと予測を立てた。


「はい、30分程度は問題ないかと思われます」

「そうですか」


ほっと息を吐かれる。

これは何か重要な話でもあるのだろうか。

と、そこへ横槍が入った。


「お嬢様。たまには別の者がご案内致しましょうか?」


そう言ってきたのはさっき俺に視線を返してきた1人だ。

この行為自体は特に問題はないし時々俺もすることだ。

さっきも言った通りお嬢様から見て好ましくないスタッフが応対した際、お嬢様の方から別のスタッフにチェンジして欲しいとは中々言い出しにくい。

なので気分転換も兼ねてどうですかと声を掛ける訳だ。

仮にお嬢様がそれに応じた後、やっぱり元の人が良かったとなる場合もあり、その時はすぐさま再チェンジとなる。

あとお嬢様によっては毎回違うスタッフに応対して欲しいと言う場合もある。大概そういうお嬢様は自分からそう口にするけど。

ともかく、今回の場合はと言えば。


「ごめんなさい。今日はこの人が良いんです」


すげなく返された。

そうなると横槍入れた方は「左様でございますか」と素直に引き下がるしかない。

仮にグズるようなら直ぐ様他のスタッフが引き剥がす手筈になっているし、そのままバックヤードに直行でお説教コースだ。

そうして無事に席にご案内した後、メニューを見せながら問いかける。


「今日は何になさいますか?」

「……あれ、まさか」


問いかけには答えず、代わりにじっと俺の顔を見てきたんだけど……なんだ?

好いた惚れたと言った雰囲気ではない。

むしろ何か怪訝な表情を浮かべている。

これは……あぁ。もしかして気付かれたかな。


「あの、薬草茶はありますか?」


姫乃は表情はそのままにそう聞いてきた。

メニュー表にはハーブティーはあっても薬草茶と呼ぶ程のものはない。

そもそも姫乃はメニュー表を一切見てなかったけど。

そしてこういう時のこちらの回答は大体決まっている。


「何種類かございますが何かお身体に御不調がおありですか?」


どう頑張っても無理ならともかく、対応出来る可能性があるならNoとは言わないのが執事だ。

もっとも本物の執事なら無理でも何とかするんだけどな。そこはまだ本物には程遠いので許して欲しい。

今は俺個人で持ち歩いてる分があるので多少なら受けれるはずだ。


「えと、特に不調はないのだけど、もし出来れば快癒草のお茶が飲みたいです」

「……畏まりました。直ぐにご用意致します。

付き合わせのスイーツは如何なさいますか?」

「適当に合うものをお願いします」

「はい。では少々お待ち下さい」


1つ礼をしてバックヤードに下がる。

ふぅ。これは完全に俺の事を気付いたみたいだな。

ま、元々本気で隠す気もなかったし、期を見てこっちから伝える予定だったからある意味好都合か。


「お待たせ致しました」

「……ん、おいしっ♪」


俺の淹れたお茶を受け取った姫乃は、じっくりと香りを楽しんだ後、一口飲んで顔を綻ばせた。

そして少し居住まいを正して俺をキッと見つめ小さくこう告げた。


「夜に電話しますので」

「はい。お待ちしております」


電話か。

俺が以前名刺で伝えたのはチャットの連絡先だけだ。

そのチャットアプリに通話機能もありはするけど、これは別の意味だろうなぁ。


「あと肩がこったので時間が許す限りマッサージをお願いします」

「畏まりました。では少々失礼します」


俺の肩揉みを受けながらツンと澄ましてティーカップを傾ける姫乃は実にお嬢様らしい振る舞いだった。

結局話らしい話もしないまま店が混んできたので、俺は姫乃の傍を離れることになった。

帰りの会計の時も何も言ってなかったけど何か話があったんじゃなかったっけ。


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