92.夏真っ盛りなのに春が来た
日曜日をいつも通り過ごして月曜日。
昨日はハルから連絡が来なかったから告白の結果がどうなったのかは分からなかったけど、教室に入ってハルの様子を見た瞬間に分かった。
「おはよう庸一。
どうやらこの教室には季節外れの春が来たみたいだな」
「そうらしいな。登校中も魚沼さんと一緒だったみたいだ」
俺は庸一と挨拶を交わしながら嬉しそうに座ってるハルを眺めた。
うーん、こりゃそっとしておいてやった方が良いな。
「みなさん、おはようございます」
「「おはようございます、姫様!」」
姫乃が教室に入った時の反応は今も健在だ。
クラスの中にはあれをやらないと1日が始まらないって奴まで居る。
その姫乃はちらりとハルの様子を見て微笑んだ後、俺達の方、というか自分の席へと向かった。
「おはようございます、一会くん、兵藤くん」
「うん、おはよう」
「おぅ」
挨拶を交わしながら改めて皆でハルを見れば、幸せそうなその姿にこっちまで嬉しくなる。
姫乃も見てるだけでほんのり顔が赤いな。
「昨日、謡子ちゃんから電話があって、安部くんから告白されたそうです」
「そっか。ちゃんと頑張ったみたいだな」
「ということはやっぱり一会くんが裏で糸を引いてたんですか?」
おかしい。
姫乃の中で俺ってどういう存在なんだ?
「人聞きが悪いな。俺は焚き付けただけだよ。
ただあの感じだとしばらくはそっとしておいた方が良いかもな」
「そうですねぇ。一緒に居るとあてられそうです」
結局俺達はチャイムがなるまで遠目で眺めるだけでそっとしておくことにした。
昼休みになって裏庭で合流した俺達は何も言わずにそっと2人から距離を取ることにした。
「って、何か言ってくださいよ」
「おめでとう。じゃあ爆発しろ」
「戦場はあっちだ。帰ってきたら結婚するんだぞ」
「ちょっとふたりとも。ちゃんとお祝いしてあげましょうよ」
「そうですよ。庸一さんだって彼女が出来ればあんな感じに……あんな……」
めっちゃ初々しい感じに寄りそうハルと魚沼さんに対してお祝いの言葉?を投げかける俺達と、ひとり自分の言葉に自爆してる青葉さん。
これはきっと庸一の彼女を思い浮かべて嫉妬しているのか、はたまた自分が立っている姿を想像したのかどっちなのか。
顔を赤くしてそっぽを向いたところを見ると後者かな?
まったくどっちも青春してるなぁ。
「ま、冗談はこれくらいにして今日くらいは俺達の事を忘れてふたりでご飯にしたらどうだ」
「いや、その心遣いは嬉しいんですけどその、いざこうして顔を合わせてみると何を話せば良いのか分からなくて」
「(こくこく)」
ハルもハルなら魚沼さんもハルの影に隠れるように立ちながらしっかりハルの服を掴んでるのが何ともいじらしい。
これはいったいどこの出来立てカップルなんだか。ってそのまんまか。
「まったく昨日の告白ついでに押し倒した勢いはどこに行ったんだ?」
「ななな何で知ってるんですか!?」
「おーっ、まさかとは思ったけど本当にやったのか。よく頑張ったな!」
「なっ」
ただ言ってみただけなんだけど、見直したぞハル。
「い、言っておきますけどまだその、おお大人の階段は登ってませんからね!」
「そうなのか?まあその様子なら時間の問題な気もするけど。
ほら。今日は東屋は2人で使って良いから、仲良くお弁当の食べさせ合いっこでもしてきなさい」
これ以上揶揄ってると本気で魚沼さんが頭から湯気出して倒れそうだからいい加減送り出すことにした。
今日の所は仕方ないけど、どうせ何日かしたらお互いの適切な距離感とかも分かって落ち着くだろう。
俺達は少し離れたところにシートを敷いて2人の仲睦まじい様子を眺めながらお昼を食べることにした。
ただちょっと気になるのは、その時に青葉さんがそっと庸一に寄り添うように座ってたんだけど、次はお前達だとか言わないよな。
別にくっつくのは良いけど、問題を持ち込むなよ?