91.次はお前の番だな
俺達が帰ってからふたりがどういう話をしたのかは俺は知らない。
ただまぁその日の夜に掛かって来たハルからの電話で、無事に問題は解決したことは報された。
でも電話の声がどことなく悲し気ではあったけど。
『一会君。ちょっと聞いてくださいよ』
「おう、どうした」
『僕の妹が酷いんですよ』
「なんだ。お兄、邪魔とか言われたのか?」
『……なんで分かったんですか』
俺の返事に言葉を詰まらせるハル。
そりゃそんな声で電話されれば聞かなくたって分かるっての。
「上手く行かなかったらもっと首でも吊りそうな声だろうしな。
逆に上手く行った場合に考えられるケースは幾つかあるけど、ハルがそうやって言うってことは橘音ちゃんに邪険にされたパターンだろうなって想像は付く。
おおかた橘音ちゃんが魚沼さんを家に招待したんだろ?」
『そこまでお見通しですか。流石としか言いようがないですね。
ええ。一会君の言う通り、あの後3時間くらいしてから2人が家に帰って来たんです。
それで居間でずっと結果がどうなったか心配していた僕に言い放った言葉は「私謡子お姉ちゃんとお話してるから邪魔しないでね」ですよ。
まるで本当の姉妹みたいに仲良くなってくれたのは嬉しいんですけど、僕の居場所が』
はぁ~とため息をつくも先日の絶望感はないからもう心配は要らないだろう。
それにしても上手く行けばそうなる可能性は考えていたけど本当になるとはな。
男だったら拳で語り合った後に酒でも飲み交わせば仲良くなるけど、女心は複雑だから同じようにはいかない。
その代わりと言っては何だけど、共通の好きなものがあると一瞬に仲良くなるケースがあるんだよな。
今回で言うとまず間違いなくハルに関することだろう。
具体的にどんな内容だったかは怖くて聞けないし、多分2人とも俺達には教えてはくれないと思う。
別に聞きたいとは思わないけど。
と、そうだ。
これで一段落かと言えばそうではない。
まだ大事な事が残っている。
「さて、ハル。魚沼さんと橘音ちゃんの件はこれで一件落着。
後は時間が経てば丁度良い距離感になっていくだろう」
『そうですね。僕としては妹がちょっと遠くに行ってしまったようで寂しいですけど』
「そこはハルが兄貴なんだからしっかりしないとな。
と、それは良いんだよ。
それより次はハルの番だぞ」
『僕?なにかありましたっけ』
全然気付いてないのか。
まったく普段は勘も鋭いし情報通でもあるのに女性関連だけは疎いんだから困ったものだ。
「告白」
『へ?』
「まだハルから魚沼さんに告白してないだろ。
魚沼さんがあそこまで本音で挑戦してくれたんだ。
今度はハルの方から魚沼さんに想いを伝える番じゃないのか?」
『い、言われてみれば、そうですね。
でもその、告白なんてどうすればいいんでしょう』
「知らん」
『ええぇ~~』
電話の向こうから情けない声が聞こえてくるが正直そこまで面倒見てられない。
どうせ上手く行くことは目に見えてるんだし勝手にやって来い。
『そんな、せめて何かアドバイスを。こう夕陽の見える丘でとか髪型はこうでとかあるじゃないですか』
「下手に格好つけると逆に失敗するぞ。
ありのままで良いんだよ。ありのままで。
家に遊びに来てくれるんだから部屋で2人きりになったタイミングで伝えるとかそれくらいでいいだろ」
あ、でも、そのまま勢いに任せて押し倒したりなんかしたら怒られそうだな。
そんな度胸がハルにあるかは疑問だし、それでも気まずくなるだけで嫌われたりはしないだろう。
「よし、善は急げで告白は明日な。
週明けには学校で朗報を聞けるのを期待してるから。
じゃあな」
『えっ、ちょっっ』
ハルの返事を待たずに終話ボタンを押して電話を切った。
これで来週ヘタレてたら尻を蹴り飛ばしてやろう。




